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牢獄のエデン  作者: おしりーむ
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第六話 疾走

 冷涼な夜が終わり、砂漠の街、アンダーロックを朝日が照らし出す。巨大な岩から流れ出る滝は白々と流れ落ち、岩の下にある湖の周りに立ち並ぶ石造りの家々が、皆同様に同じ方角に影を作り出す。陽の光が降り注ぐ砂漠の海原には、美しく輝く砂の宝石たちが輝いていた。ヒトクイから命を救ったリエンの家で一泊したクロナが、眠そうな目を擦りながら、大きな背伸びをして起きてきた。


「ふわぁ~おはよう~」

「あぁクロナ。おはよう」

「あら、おはようございますクロナさん。今朝食を準備しますね」


リビングには一足早く起きていたリエンとレアリスがすでに居た。レアリスがいそいそと朝食の準備を始め、リエンは湯気の立つマグカップを傾けていた。


「リエン…………お姉さまが朝食を準備してくださってるのに…………君は何をしてるのかな?」

「え? 何ってコーヒーを………」

「手伝いなさい!」


ぐいっとリエンの顔に近づき、少しばかり大きな声でクロナは言った。リエンは顔を真っ赤にした後、しぶしぶレアリスの立つ台所に向かう。


「あら? 手伝ってくれるの? リエン」

「クロナがうるさくてさ………自分だって今の今まで寝てたくせに………」

「うふふふ♪ 随分と仲が良くなったのね。まるで姉弟みたい」

「よしてよ姉さん」


リエンはムスッとした顔をしながら、レアリスと共に朝食の準備に勤しむ。クロナはリエンの飲みかけたコーヒーを片手に、自分と同じく眠りから覚めたばかりの太陽を窓から眺めていた。


「ねぇリエン。今日は仕事あるの?」

「んー? 今日はガレージに行こうと思ってたけど、何かあるの?」


クロナは朝食を両手に持ち歩いてきたリエンに、今日の予定を聞いた。リエンは朝食を並べ終えると、首をかしげながらクロナを見た。


「確かリエンはビークルの整備もできるのよね? お願いがあるんだけど………」

「姉さんが言ったのか……お願いって何ですか?」

「あら、お出かけのお話?」


皆着席し、朝食を取り始める。うっすらと焦げ目の付いたパンに、しっかりと焼かれた卵焼きと肉が置かれている。


「いただきまーす。あむっ……もぐっ……すっごくおいしいです! お姉さま!」

「あら? うれしいわぁ♪」

「……………………で? 何か用事ですか?」


夢中で朝食を食べるクロナに、呆れた顔でリエンが尋ねる。ハッと我に返ったクロナは、パンのカスがついたままの顔でリエンに尋ねる。


「あたしのラウンドバイクなんだけどさ。ヒトクイにぶつけたから壊れちゃったのよねー。お願い!直して!」

「あぁ! 僕を助けてくれた時に、思いっきり体当たりしましたよね。………いいですよ。僕の責任でもあるし」

「ありがとうリエン! 必要なものがあったら何でも言って!」


クロナは嬉しさのあまりかリエンに抱き着く。見る見るうちに真っ赤になっていくリエンの顔を見てレアリスはクスクスと笑っていた。


「だから近いんだってば!…………とにかく、クロナのラウンドバイクは親方がいる事務所にあるはずだから、引き取りに行きましょう。もうすぐ採掘場へ出発しちゃうから、急いで事務所に行かないと」

「善は急ぐべしってやつね! 早速行きましょ!」


クロナは目の前にあった朝食を急いで食べ終えると、リエンの手を取りそそくさと家を飛び出していった。


「食べ終わってないんですけどおおおおおおおおお!?」

「二人とも気を付けてねー!」


クロナに拉致されていくリエンを、玄関から手を振ってレアリスは見送った。


徐々に賑わい始める商店街を抜け、巨大な重機が立ち並ぶ工業街にやってきたクロナとリエン。その一画にジグの構える採掘業の事務所はあった。


「おはようございまーす」

「おぉ! リエンとクロナの嬢ちゃんか! よく来たな!」


ガハハと豪快な笑い声とともに、右腕のないジグがやってきた。残った左腕のみで巨大な鉄骨を軽々と運んでいた。


「あらジグ。元気そうでよかったわ!」

「ガハハハハ! あの程度でいかれるような生半可な体じゃねぜ! リエンとは違ってなぁ!」

「………なんで僕を引き合いに出すんですか。それはそうと親方。クロナのバイクを引き取りに来たんです。僕のガレージで直そうと思って」

「あぁあれか! それならほれ。あそこに布かぶせて置いてあるぜ!」


事務所の前にある広い駐車場の隅をジグは指さす。そこには大破したクロナのラウンドバイクが保管されていた。無残に破壊されたそれは一見再起不能かと思われたが、リエンの見立ては違った。


「んー。メインフレームは矯正かければ何とかなりそうかな。フロントフォークとスイングアームは交換するとして…………動力はSコアエンジンかぁ。わぁ! ミリタリーグレードのコンデンサだ! しかも生きてる! CCMは完全にへしゃげちゃってるなぁ」


夢中でバイクを眺めるリエンを、クロナは驚いた表情で見つめていた。


「まるで別人みたいに生き生きしてるわねー。よっぽどビークルが好きなのね」

「ガハハハハ! 嬢ちゃん。リエンの整備士としての腕は確かだぜ! うちの機械も大体アイツが整備してんだからな!」


一通り診断を終えたリエンが、キラキラと目を輝かせて戻ってきた。やや興奮した様子でクロナにある提案をする。


「この街じゃ手に入らない部品があるんだ。ちょっと遠いけど隣の中継街まで行ってみよう!」

「足はどうするの? ジグのローダー借りるわけにもいかないし…………」

「僕のガレージに行けば何とかなるよ! 善はなんとやらでしょ!」


リエンはクロナの手を取り、そそくさと事務所を後にする。ジグは左手で髭の生えた顎を摩りながら二人を見送った。


「ガハハ! リエンの野郎。楽しそうじゃねぇか!」




商店街の一画。薄い鉄板で出来た古びたガレージが佇んでいた。クロナはリエンに連れられてここにやってきた。中にはビークルの整備で使うであろう工具類が整頓され並べられている。


「へー。ここがリエンの王国ってわけ」

「ちょっと待ってて。今乗り物を準備するから」


リエンは薄暗い工場の奥へ向かう。取り残されたクロナは並べられている工具類に手を伸ばし、一つずつ見つめた。


「使い込まれているけど、どれもきちんと磨かれてる。ガタ付きもへたりもない」


道具を見れば、使い手の仕事ぶりが容易に想像できることを、クロナは知っていた。やがてリエンがバイクを持って戻ってきた。


「お待たせクロナ! 今日はこれに乗って行こう!」

「それって…………ラウンドバイク…………じゃない?」

「化石燃料で動く内燃焼機関搭載型だよ! …………父さんの形見らしいんだ。父さんが死ぬ前に古い文献を参照して作ってたそうなんだけど、僕が引き継いで完成させたんだ。燃料は行って帰ってくる分はあるから大丈夫。近々テスト走行しようと思ってたところだし」

「…………大丈夫なの?大切なものなんじゃ…………」


大柄なバイクは青い塗装とメッキが美しく輝いていた。見るからに大きいと分かる動力部には、リエンが内燃焼機関と呼ぶエンジンが搭載され、そこから伸びる配管4本がリアタイア迄美しい曲線を描きながら伸びていた。リエンの腕を疑っているわけではなかった。しかし旧世代の技術。信頼度は現代のモノとは比べるまでもなく劣っていることは確かだった。


「見てて。今エンジンをかけるから!」


エンジンから伸びるレバーに足をかけ、勢いよくレバーを踏み込む。その瞬間、ガクっと音を立て、足から外れたレバーが勢いそのままにリエンの脛に激突する。


「うぐぅっ!!!……………………うっ………うぅ…………」

「だ……大丈夫?」


バイクに跨ったままうずくまるリエンに、クロナが心配そうに歩み寄る。


「も…………もう一回…………ふんっ! えいっ! どりゃ!」


リエンの懸命な努力にかかわらず、エンジンは沈黙を保ったままだった。肩を上下に動かし息をするリエンはあることに気が付いた。


「あっ……燃料コック開いてなかった…………ははは」

「あはははは…………」


リエンに釣られて乾いた笑いが出てしまったクロナ。リエンは燃料コックをオープンの位置まで捻ると、渾身の力を込めてレバーを踏んだ。


「かかれええええええ!」


内燃焼機関はその名を証明するかの如く、力強くうねりを上げる。吸引された空気と化石燃料が混じり合い、燃焼室に送り込まれる。上昇するピストンにより圧縮された混合気に火花が放たれ、やがてそれは高温の爆発となる。4本のシリンダーから送り出された燃焼ガスはやがて管を通り排出され、咆哮ともとれる産声を上げた。


「や………やったぁ!」

「すごい…………それにしてもとんでもない音ね!」


けたたましく鳴り響く排気音。ハンドルに取り付けられたアクセルをひねるたびに、バイクは歓喜するように吠えた。


「さぁ行こう! 中継街まで1時間くらいかな! 後ろに乗って!」

「運転できるの!? なんて言ってるかわかんないよ!!」


バイクは二人を乗せて飛び出す。その爆音にすれ違う人々は皆振り返り、二人の姿が見えなくなるまで見送っていた。
















































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