雨と虹
霧雨よりも細かく、霧には足りない半透明の中を
私は、公園の屋根のあるベンチに座ってただただ、ぼんやりと足を投げ出してくぶる緑を眺めながら足を投げ出して座っていた
雨宿りしに誰かがこちらに走って来ているのは、認識してたけど、なんだかダルくてあぁ、こちらに来るのかなと思うだけで足をそのままにしていた
真っ直ぐに、こちらに走って来た彼は、私の足に引っ掛かって、見事に転んだ。
ぼんやりしていたのと、人が目の前で転んだのを久しぶりにみたせいで、暫く何もしなかった。
彼も、少し動かないで、地面に突っ伏していたけど、私より早くに立ち直って立ち上がった。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
彼の方が大丈夫では無いだろうに、髪には泥と草
ブレザーは、やはり泥と草でやっぱり汚れていた
きっとこれ以上濡れない為に、ここを目指して来ただろうに、無駄以上な事になっている、彼。
私は「大丈夫だよ」と呟いた
少しの笑顔で、良かったと呟く彼
私は手招きで、彼を呼んで座らないの?と聞いてみる
彼は笑顔で、私の横に座った。
「雨宿りですか?」
「散歩中でね。犬と、だったんだよ」
彼は不思議そうに、犬とですか?と聞いてきた
まあ、犬と散歩用の時だけの鞄だけを持っている、私は、つまり犬を忘れて散歩をしていたのだ。
何だか楽だし軽いなぁーと思っていたら、犬が居ないのだから。家を出た時にはもう忘れてぼんやり歩いてたのだろう
戻ろうか、ただ、このまま散歩するか、ぼんやりと考え歩いていると、ここでぼーっとしていたのだ。
「逃げちゃったんですか!探しますよ!」
私はふふっと、笑って「私が、犬を忘れて散歩に来てしまったんだよ。だから大丈夫」
「ただの私だけの散歩になっただけだから」
私は、鞄から白いタオルを出して、水の入った水筒を出しタオルを濡らして
彼を手招きして、「顔こっちに、泥付いてるから拭くよ」
彼はブンブン手を振りながら
「自分で拭きます、大丈夫です。タオル汚れるし、白いから」
「そこの水道で洗うから大丈夫です」
彼の拒否に私は「見えないでしょ?自分の事は」
と、彼に近づいてみた。少し下がる彼
又、寄る私。又のけ反る彼。
「ごめん、調子に乗ったよ。君が良いなら汚れの酷い所だけでも拭くよ」
逡巡して彼は、お願いしますと呟いた。
「タオルはね、汚れを取る為にあるんだよ、まぁ後色々あるけどさ、気にしないでいいんだよ」
「転ばせたのは、私なのだから」
「僕もちゃんと見てなかったのが悪いんです、すみません」
「痛い所はある?多分あると思うけど。何せ
私なら、心が痛くなるね。転ぶなんて子供の時以来ないからね、恥ずかしくて胸が痛くなるよ」
真っ赤になった彼は「僕も今痛くなりました…」
水を含んで重くなったブレザーを鞄に乗せて、彼は顔を寄せて来た
泥の付いた前髪を、タオルでポンポン叩きながら
「柔らかい髪だね、羨ましい」特に何も考えないで、沈黙するのも面倒だから、話してみる
「顔拭くよ」「額からこめかみと頬を拭くから」
「拭いて痛くない?痛くても拭くけど」
「あの、遊んでません?てか、もういいですよ」
顔を赤いままに彼は言う
「ごめんね、つい楽しくなったんだよ。うちの犬を拭いてるみたいに感じて」
「犬!」
「出来るなら髪の毛をわしゃわしゃ拭きたい」
「嫌です」
「てか、わしゃわしゃって、何ですか?」
「あー、動物を飼うとね、擬音を発しながら人は馬鹿になってしまうんだよ。」
「多分。大多数は」
「犬馬鹿ですか?」
私は「犬馬鹿は犬の散歩に犬を忘れないよ。酷い飼い主だよ私は」
「よくわかりません」
少し傾いた白い首に筋が出来て
ちょっと言ってみた
「鎖骨見せて」
多分、このけぶる空気と彼との非日常の出会いが
何でも言っていいか、と思ってしまったんだろう
彼は「…変態で、馬鹿なんですね」
「これは、あれだね。私は変質者として、明日ここら界隈に広く注意喚起されてしまうね。失敗したよ」
「何がですか、失敗って」呆れる彼は、笑っていた
「いや、勢いに任せて、取り敢えず言ってみたんだ」
「君の首が白くて綺麗でね、鎖骨もついでに見たくなってね」
「答えが最早失敗ですよ」
「ごめんね、私は大人だから悪いと思ったら直ぐに謝るよ」
「許してくれるかな」
「何もされてないのに、許すもなにも」
「しかも大人って、自分で言ってるし」「こんな自制のない大人みたの初めてですよ」
「そうか、私は君にとって初めての自制のない大人なのだね」
「嬉しいよ」私は笑う
彼は、引いてるのかな?笑っているけど
「大概の大人は失敗しなれてるから、取り敢えずは何でも許されるか聞くし、許されたら何でもしてみるね」
楽しいのだよ、大人は。私は言ってみる
「あなたを見ていると、楽しく見えなくもないかも?」
「君は警戒心が無いのかな?私は自制のきかない大人だよ」
「今更です」
「君は楽しいね。名前は何て言うのかな?」
「いきなりですね、あいと言います」
「それは、凄く難しい見たことも一生書く事もない漢字であいなのかな?」
「違います」
「相手とか、相対するの相です」
「今の私達にピッタリだね」
「どこがですか、と言いたいですけど、間違ってないですね」
「付き合っている子はいるのかな?」
「何ですか、いきなり」
「社交辞令的な物だよ。聞いただけ。大人だからね」
「何でも大人なんですね」
「これは、大人にしか使えない絶大な言葉だよ」
「君にはまだまだ使えないね」
「相です」
「君じゃなくて、相です」
「名前聞いたじゃないですか、相って呼んでください。
子供のお願いです。きいてもらえますよね」
相は笑って言った
私も笑って「それは大人には使えない魔法の言葉だね」私は改めて名乗ってみる
「まことだよ。私の名前は、真実の真だね」
これで私達は知り合いになったね、私は言ってみる
「そうですね」相は明るく言った