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有紗の決意

三月も終わり各地で桜が咲き始めた。そして俺も次の学年となり、有紗も高校生になる。みんな新しい生活が始まるのだ。有紗も高校に入れば部活が忙しくなり、デートの回数も減ることだろう。しかし、そのことを俺が嘆くわけにはいかない。四月の四日、それが俺たち二人が行う、この春最後のデート日だ。その日は前から有紗が行きたいと言っていた花見に行くことになっている。約束が三日後に迫っている中、俺は二つのことが気がかりだった。一つはこのデートが終わったら次いつ会えるのかということがやはり不安になってしまっている。分かってはいるのだが、どうしても心のどこかで考えてしまっている。もう一つの不安はその日の天気が雨ということだ。


「お前結構雨男だよな」


 バイト先のコンビニで秀人が笑いながら言った。


「マジ、笑い事じゃないんだって。本気で悩んでだぜ。もし当日雨が降ったらどうしようって。これを最後にしばらく会えなくなるかもしれないのに」


「会えなくなるって、お隣さんだろ。会おうと思えばいつだって会えるじゃないか」


 秀人が呆れ顔で言う。


「そうだけどさー。向こうは部活とか忙しいし…」


 そして、デート前日を迎えた。相変わらず天気予報は雨の予報。テルテル坊主を十個作り窓際につるし、眠りについた。

 次の朝を迎えた。結局テルテル坊主は仕事をすることはなかった。泣きそうな気持ちを抑え、朝食を食べているとケータイにメールが届いた。


『約束の時間に約束の場所で』


どういうことだろう?朝食を食べ、準備を整えると、俺はとりあえず約束の時間に約束の場所に行ってみた。するとそこには、傘を差した有紗と春菜がいた。


「えーと…これはどういうことかな?」


 単純な疑問を二人にぶつけてみた。


「ほら、この前言ったでしょ。また三人でバスケがしたいって。近くにある市民体育館抑えてあるから行こう」


「大丈夫!祥馬のバッシュー持ってきてあるよ」


 笑顔の春菜の手には二人分のシューズケースがぶら下がっている。こんな天気じゃ花見も出来ないし、俺はバスケをやることに快諾した。

 体育館は三人で使うには贅沢なほど広かった。


「二人で攻めて一人が守備。兄妹vsお隣さん。カップルvs妹。男vs女。いろんなシチュエーションができるよ」


 有紗は心底楽しそうに言う。各自運動ができる服装に着替える。春菜はきちんと俺の分まで持ってきていた。そして、最初のゲームが始まる。


「まずは、有紗と祥馬が相手だね。小姑っぽくいやらしく守ってやる」


 春菜の方も心底楽しそうにしている。なぜか自分もすごく楽しくなってきているのが不思議だった。

 ゲームは何十試合も行われ、気が付くとお昼を回っていた。よくも三時間以上も体がもったと感心している。有紗と春菜もさすがに肩で息をしている。


「めっちゃ楽しかったー!!」


 有紗が体育館に大の字に倒れると子供のような声で言った。


「ほんと、久々にやったよね。一対二(one on two)」


 続いて春菜も大の字に倒れた。


「俺もまだまだ終わっちゃいないな。よく二人についていけたもんだ」


 最初から倒れている俺は上向きに行った。


「なに言ってんの。最後はほとんど動いてなかったくせに」


 春菜に揚げ足を取られると三人はその場で笑った。まるで十年前に戻ったようだった。


「もう、お前たちも立派な高校生だ。これからは三人、一層バラバラになっちまうかもしれねー。だけど、またこうして三人でバスケできる時を楽しみにしてる」


「またできるといいなぁー」


「できるさ。なんせ私たちは繋がっているからな。血よりも絆よりも強い何かで」


「さて、そろそろ飯にするか。もうお腹ペコペコだ」


「祥馬の奢りね」


「わかってる。先輩にかっこつけさせてくれ」


 その後、俺たちは三人で飯を食べ、カラオケに行ったり、ゲーセンでプリクラを撮ったりした。もうあたりがすっかり暗くなった頃には雨も止み、心地よい風が吹いていた。


「じゃあ、私は帰るわね。今日は悪かったわね。せっかくの夫婦水入らずを邪魔しちゃって」


「そんなことないよ、春菜。すっげー楽しかった」


 有紗が別れを告げると、春菜は一人夜道に消えていった。


「祥馬。ちょっと付き合って」


 そう言って有紗についていくと俺たちは集合場所の公園に戻ってきていた。雨上がりの夜桜は街頭にライトアップされ、とてもきれいだった。


「祥馬。話があるの」


 有紗は真剣な顔でこっちを向いている。


「私、高校に入ったら寮に入ろうと思う」


 突然の告白に唖然としてしまった。


「ちょっと待てよ。お前の高校ってそんなに遠くなかっただろ。そりゃ近くはないけど」


「うん。家から一時間半ぐらい。もちろん家からでも通えるよ。でもね、それじゃあダメなんだ。今まで、かーちゃんやとーちゃん、祥馬や春菜って、私の周りには頼れる人がいすぎたんだ。これじゃあ、将来一人じゃ生きていけない」


「なに言ってんだよ。お前将来一人で生きてくつもりなのか?俺と一緒じゃだめなのか」


 情けないとわかっていても、声が大きくなってしまうのを止められなかった。


「もちろん、祥馬と一緒にいたい。できれば結婚だってしたい。でも、それじゃあ祥馬に頼り切りになっちゃう。そんな関係は絶対嫌だ。私も祥馬を支えたい。だから、修行に出るんだよ。祥馬と一緒になるための」


 有紗の眼からは涙があふれて止まらない。


「それにほら、朝練とかもあるし。私って朝早いの苦手じゃん」


 そして急に下を向くと。


「それにね…私、祥馬と付き合って、大好きって言われてから部活なんて辞めたいって考えたんだ。祥馬ともっと遊びたかったから…私は祥馬の近くにいたら甘えちゃう。だから、行ってくるよ」


 最後の言葉は今まで聞いた有紗のどの言葉よりも強く逞しかった。


「そこまで決意が固いのなら俺に止める権利はねぇよな。ちゃんと修行して来いよ」


 次の瞬間有紗は俺の胸に飛び込んできた。


「こらこら、甘えないんじゃなかったのか。さっきお前は、頼りっぱなしはいやだって言ってたけどな。本当に辛くなったら頼れよ。一人で全部背負い込んで自分が自分でなくなるのが一番最悪なことだ。だから、辛くなったら俺を頼れ!俺もいつかお前を頼る時が来る」


「私が高校卒業した時には祥馬はお仕事してるんだろうけど、私のこと、待ってもらえますか?」


 泣きながら絞り出すように言った。


「待つさ。十年でも二十年でも」


 一陣の強い風が吹き、桜が舞う。そんな、映画のワンシーンのような空間で俺たちは最初のキスをした。


「いつか、必ず迎えに行く。だから、それまでに早起き出来るようになっとけよ」


「うん。ぜったい」





 その後、有紗は高校でバスケに打ち込み、プロのバスケットボール選手になった。

そしてファーストキスから八年後、俺たちは約束通り結婚することなる。

俺たちはずっと支えあって生きていく。

以上で完結です。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

今作が私の記念すべき処女作です。

まだまだ至らない点が多いですが、これからも安芸 航をよろしくお願いいたします。

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