2人の思い
十七時半解散という健全なデートの第一回目が終わり、徒歩一分の帰路についた。
「ただいまー」
「あっ祥馬どこ行ってたの?」
家に帰るとまず妹の春菜が出迎えた。春菜はこっちに引っ越す前はおれのことを『にぃにぃ』とか『お兄ちゃん』と呼んでいたが有紗と出会い、有紗が祥馬と呼んでいるのを見て、祥馬と呼ぶようになった。普通なら有紗がお兄ちゃん呼びを真似るはずなのだが。逆だった。
「まあ、ちょっとその辺をぶらりとな」
「そう。汗かいちゃったから先お風呂入るね」
「ああ。俺部屋にいるから上がったら教えてくれ」
「わかった~」
部屋に戻ると先ほどの有紗の涙のことを考えてみた。結局あの後、二人はほとんど会話もせず、ただ黙って黙々とゲームをしていた。
確かに昔から俺たちは仲がよかった。だが、有紗は俺のことを兄のような存在ぐらいにしか思ってなく、恋愛感情なんて微塵も持っていないように思っていた。事実、有紗も春菜も小学校の高学年になった頃には、自分の友達を持ち、俺たちが遊ぶ頻度はどんどん減っていき、俺が高校生になった頃には遊びらしい遊びはなくなった。二人とも一応、思春期の女の子なのだから、こんなものだろうと思っていた。それが急に、告白されて今や二人は恋人関係にある。
(どうすりゃいいんだ)
考え続けても答えは出ないまま三月を迎えた。その間に有紗との二回目のデートは行われることはなかった。まだ冬の寒さが残る日中、バイトが休みで家にいた俺のもとに一件のメールが届いた。
『海に行きたい』
たったそれだけの言葉がディスプレイに映し出されていた。久々にきた有紗のメールはとてもシンプルな内容だったが、有紗の気持ちを察するには十分だった。
『りょーかい。いつなら空いてる?』
返信はすぐにきた。
『明日!明日がいい!明日じゃなきゃヤダ』
「おいおい、明日って急すぎるだろう。明日バイト入ってんだけどなー」
至急、バイトの店長に明日のバイトに行けないことを伝えた。店長は渋々ながらも承諾してくれた。
『オッケー!うちの車で行こう。七時にうち集合!』
『了解!でも、八時がいい(‘ω’)ノ』
そういえば、朝が弱いんだったな。苦笑いをしながら、年下の彼女に承諾した。
『りょーかい』
迎えた次の日の朝、約束の時間五分前に有紗は俺の家の前で待っていた。免許を取ってバリバリ運転しているということはないが、運転にはそこそこの自信はあった。そういえば免許を取りに行っている間は俺が運転する車の助手席に彼女を乗せるなんてことは想像もしたことがなかった。有紗は少し緊張した面持ちで助手席に乗り込んだ。車を走らせて、少したった頃。
「祥馬。今日、急に呼び出してごめん」
唐突に有紗が呟いた。
「ほんとだよ。バイト先の店長に怒られた」
「えっほんと…ごめん…」
少し低く小さな声で答えた。
「うそうそ、大丈夫だよ。お前、俺がいつでも暇人のニートだと思ってんだろ」
少しでも有紗に罪悪感を感じさせないつもりで言った。
「うーん…正直?思ってた」
いつものいたずらな笑顔で答えた。
「おいおい」
笑いながら答えた。
「何のバイトやってんの?」
「コンビニ」
「大変?」
「まあ、楽ではないけどのらりくらりやらせてもらってるよ」
「ふーん。悪いことしたな。店長にも今度謝りに行ったほうがいいかな」
また少し声を小さくしてしまった。
「大丈夫だよ。バイトが急に休むことなんて、どこのコンビニも日常茶飯事だよ。ところでなんで急に海に行きたくなったんだい?」
話題を変えるためほかの質問をしてみた。
「今までずっと考えてきた。どうして急に祥馬に告ったんだろうとか、こないだあんな空気になること言っちゃたんだろうって。あの時はごめんね。急に変な事言いだしちゃって」
しかし、有紗の声はさらに暗くなってしまった。
「どうしたんだよ。今日、お前謝ってばっかだぞ。お前らしくもない」
少しでも有紗のテンションをあげようと運転しながらでもできる最低限のフォローをするのに必死だった。
「ちょっと!どうゆうこと?私が悪いことして謝らない人みたいな言い方」
またいつもの明るい有紗に戻った。
「ははっ。そんなことはないよ。ただ、くよくよしてるのはお前らしくないってこと」
「こっちから誘ったのになんか今日の私変だよね…ごめん…あっまた」
「気にするな。俺もそんな日あるよ」
どうやら今日の有紗は心が安定していないようだった。いや、もしかしたらこないだのデート以来ずっとこの調子なのかもしれない。
「さっきも言ったけど、あの日からずっと考えてきた。そしたら昨日“よし明日だ”って思ったの。でね、この大きな思いを打ち明けるには世界で一番大きい海しかないと思ったんだ」
先ほどと変わらない低く暗い声だったがその目はしっかりと前を見ていた。
「大きな思いを打ち明けるには大きな海でか。有紗らしいな。で、何を打ち明けるんだ?」
「それはね…ってそれ今ここで言ったら海行く必要ないじゃん」
ごもっともなノリ突込みをする有紗の顔には再びいつもの笑顔が戻っていた。




