東雲有紗
ピンポーン
期末テストが終わり、有意義な春休みを送るべく、昼までベッドに横になっていた俺、入野祥馬は鳴り響くインターホンの鳴らし主を確かめるべく体の向き横から縦にすることを決意した。
「はーい、どちら様ですかー?」
パジャマ姿のまま玄関の扉を開くと、なんとそこには、お隣の娘が立っていた。
「すいません…トイレを貸してもらってもいいですか…」
震えそうな声でお隣の娘、東雲有紗は呟いた。
予想だにしなかった珍客の態度に、二つ返事でトイレを貸すことになった後、奇妙な違和感を感じた。
待てよ。有紗とはもう十年来の仲だ。久しぶりに来たとはいえなぜこんなに緊張していたのだ?年頃の女の子が男にトイレを借りに来たからか?いや、違う。有紗はそんな子じゃない。
有紗と出会ったのは俺が十歳の時、この町に引っ越して来た時だ。有紗は俺の妹と同い年で家も隣通しと言うこともあり二人はすぐに仲良くなった。一方、転校したてで、最初の友達作りに失敗した俺は小四で早くもクラスでぼっちになっていた。
なので、もっぱら放課後の遊び相手は妹の春菜とお隣さんの有紗となった。うちの親も有紗の親も俺を二人の保護者という感覚でみており、有紗も俺を兄のように慕ってくれた。
慕っていたとはいえ、女の子が久々に家を訪れたら緊張するのは仕方ない。だが、そんな子じゃないと感じたのは有紗が普通の女の子ではないからだ。さすがにそれは言い過ぎたが、とにかく女の子女の子したような子ではなかった。
幼稚園児の女の子の遊びは総じておままごとやお人気遊びのようなものだと思っていた。しかし、もとより活発な妹とそれに輪をかけて活発だった有紗との遊びはおおよそ駆けっこや近くの森での昆虫採取だった。当時の有紗は犬のウンチを平気で鷲掴みしたり、女の子がミミズにおしっこをかけたらどうなるのかの実験を普通にする子だったのだ。少なくともあんな風に恥ずかしがってトイレを借りる子じゃない。
さすがに中学生ともなれば少しは恥じらいというものがあるのか?そう思いながらリビングのソファーに腰をかけると
「いやートイレ貸してくれてサンキューな!もう少しで漏らすとこだったよ。」
恥じらいとは明後日の方向の言葉を吐きながら、まだ水が滴る手をスカートで拭きながら有紗がリビングにやって来た。
「参った参った。まさか家の鍵を忘れるとは。」
「お前さっきまでの美少女はどこいった」
「あーほら…さっきはそれほど切迫詰まってだんだよ。でもションベンしてすっきりしたら、こうなりましたー」
「まぁその方がお前らしいよ」
「だよね〜」
「…」
「…」
「なんか、気まずいね」
「急に上がってきて何を言うか」
「また、こんな風に祥馬と話せてよかったよ。また近いうちに会いに来るからその時はよろしくな」
これだけ言うと、玄関に散乱した荷物を持って家から出て行った。
嵐のように来て去って行った有紗を見送りながら、自分も久しぶりに有紗と話しが出来てよかったと思っていた。
(また近いうちに会いに行くと言っていたがいつ会えるのだろうか)
不覚にも有紗が帰った瞬間に思いに耽ってしまった。しかし、その近いうちはすぐに来た。
「祥馬ー鍵忘れてたの忘れてた。もうちょっとここに居させてー」
こうして再び同じ空間にいることになった有紗は
「祥馬なんで学校行かないの?とうとう不登校になった」
「違いますー。今は大学生特有の長い春休みなんですー」
「春休みって。まだ二月になったばかりだよ。いいなー大学生は。てゆーか、そしたらもっと遊べばいいじゃん。友達中学で出来たんじゃないの?」
「そんな毎日遊んでられないよ」
「彼女とか出来ないの?」
「残念ながらそっち方面はさっぱり」
「じゃあさぁ…わたしと…付き合わない?」




