穢れなき純白の涙
リアは地面を強く蹴ると、刀を肩まで持ち上げユリに近づく。
対してユリは姿勢を崩そうとはしなかった。
宙に浮いたまま、槍のような刀をリアに向ける。
「ハァア!」
リアは刀が届く距離まで近づくと、刀を斜めに振り下ろした。
しかし、刃は数十センチ振り下ろされた場所で何かにぶつかって停止した。
人間離れした速度で振り下ろされた刀は、普通ならユリの肩から下を切り裂くはずだった。
だが、振り下ろす直前、ユリの刀の刃先のみが上空へ移動しリアの刀の軌道を阻んだのだ。
「くっ……」
力づくで振り下ろそうとするも、ビクともしない。
それどころか、ユリの背中から生えている瞳模様の翼から結晶のような物が襲い掛かった。
刀の衝突箇所を支点に、後方へ避けるも、襲い掛かる結晶はスカートを切り裂いた。
それでも不満とばかりに次々に襲い掛かる。
リアは弧を描きながら結晶を避け続けるが、先回りしてくる結晶が動きを鈍らす。
刀で弾き返そうと試みるも、数発弾き返しただけで刀は砕けてしまった。
「残弾とかいう概念はないの!?」
ユリの周りを半周ほど避け続けても尚で続ける結晶に、思わず毒づく。
それをユリは愉快そうに微笑む。
「無駄よ。私の魔力が尽きるまで放出し続けるわ」
「そう、ならこれならどう?!」
リアは右手に短刀を出現させると、結晶が放出されてる2枚の翼の内の1枚に向かって投げつけた。
短刀にはバリアが貼られているのか、結晶に当たっても減速することなく、そのまま羽の中へと潜り込んだ。
変化はすぐに現れた。
翼の内部で爆発音が響き渡ると、翼に亀裂模様が走り、結晶の放出が止まったのだ。
「ぐ…ゥッ……」
痛覚と連動してるのか、ユリが顔を歪める。
魔力の搬送が止まったのか、もう一枚の翼からの放出も止まり、ユリに隙が生まれた。
リアはもう一本短刀を出現させると、先程と同じように翼に向かって投げつける。
それと平行し、再度蒼い刀を出現させた。
それを地面に突き刺す。
もう一枚の翼に亀裂模様が走り、ユリにさらに大きな隙が生まれた。
痛みに気を取られ、ユリが次に起こした行動を把握する事ができなかったのだ。
「よ…く...もォ!」
痛みに顔を歪めながらリアを睨み付けた。
視界に地面に突き刺さった刀が目に入る。
わずかだが、視界の上に蒼く輝く物が見えた。
慌てて上空を見上げると、彼女が突き刺している刀と同じものが自分に矛先を向けた状態で静止していた。
それも1本や2本では無い。
自分を取り囲むように10本近い刀が上空で静止しているのだ。
「……終わりよ」
リアは静かに告げる。
それが合図だった。
静止していた刀は一斉にユリへ襲い掛かる。
ユリは襲い掛かる刀の群れを自身が持つ刀で捌く。
だが、捌ききれる量にも限界はある。
事実、背後から遅いかかる刀はユリの足を抉り、動きを阻んだ。
その瞬間、ユリが捌ききれなかった最後の1本がユリの左胸に突き刺さった。
痛みと驚愕に顔を歪めながら、リアの方を見つめる。
そのままユリは地面へと落下し、崩れ去った。
「や、やった……」
リアは自身の勝ちを確信すると、ユリの元に近づいた。
背中の翼は魔力の供給が止まった影響からか消失していた。
左胸には先程の刀が刺さったままで、傷口からは血が流れ出ていた。
その証拠に、青いワンピースが血で赤くなっている。
まだ胸が上下に動いてるあたり、死んではいない。
トドメを刺そうとリアは刀の矛先をユリに向ける。
突き刺そうと力を込めた、その時だった。
「殺しちゃうの?」
「……!?」
背後から声が聞こえて振り返る。
そこには、先程まで倒れていたユリが立っていた。
「なんで……」
「まだ気付かないの?」
彼女の胸と足には傷は無かった。
背中の翼も健在だが、リアの攻撃で生じた亀裂はまだ残っている。
「よく見てみなさいよ
アナタが誰を刺したのかを」
嫌な予感がして目の前に横たわる少女に視線を移す。
ユリの白髪が白い粒子となり、天へと昇る。
「そして誰を殺そうとしたのかを」
背後からの言葉なんて届いては無かった。
聞いてる暇なんて無かったからだ。
リアの目の前には、胸から血を流してる優梨が横たわっていたのだから。
「ぁ……あ……あぁ……」
「かわいそうね。
彼女、何も知らないままアナタに刺されたのよ
唐突に足が裂けて、胸に刃が突き刺さる時の表情ったらもう、ね!」
リアは優梨のそばでうずくまった。
それをユリは背後から襲おうとせず、ただ淡々と状況を話していた。
「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい………!!!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめん...なさい……ごめ゛んな...い、ごめんなさい、ごめんなさい」
うずくまり、ごめんなさいという言葉を繰り返す。
それしか今のリアには出来なかった。
「……2日よ」
ユリは静かに宣言した。
リアは謝罪をやめ、ユリの方を振り返る。
その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「2日だけ時間をあげる。
その間に治療なり逃げるなりしなさい」
「2日経ったら、もう一度アナタ達を殺しにいく」
返答は無かった。
リアは無言で立ち上がる。
優梨の方へ向き直ると、憎しみを込めた口調で言った。
「次こそは───」
リアの体が光に包まれる。
「絶対に───」
耳と尻尾が消失し、リアを中心に光の柱が立ち昇る。
光が収まると、リアの姿は一匹の巨大なドラゴンへと変貌していた。
純白の身体に、白い翼と尻尾。
黄色い爬虫類の瞳に、銀色の角を生やし、四足で堂々と立っていた。
リアは優梨を魔法で背中に乗せると、ユリの方へ首を向ける。
「お前を殺す」
リアは優梨を背中に乗せたまま、巨大な羽を羽ばたかせて大空へと飛び立った。
一人取り残されたユリは虚空に向かって呟く。
その目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。
「えぇ、アナタには私を殺す権利がある。
たとえ違う未来だったとしても、それが私にとって唯一の贖罪になるのよ」
戦闘シーンが下手で申し訳ないです。
後日、加筆修正するかもしれません。
次は回想かな。