カンガルーのショー
俺のカンガルショーは中々に好評だった。
「お前のショーがネットの口コミで評判だぞ! 集客率が今までの1.5倍に増えてる!」
俺と牧場主とトラックの運ちゃんの3人は牧場の一角の酒場にいた。
牧場主はウイスキーを一本空けて上機嫌だ。
「今日は飲みますね。 大丈夫っすか?」
「気にすんな! しっかし、カンガルーは天からの召し物だったのかもしれねーな」
グイ、とウイスキーを飲み干す。
俺は会話に参加できないので、テレビを見ている。
すると、気になるニュースが目に付いた。
運ちゃんの肩を叩いてテレビを指さす。
「あっ! 有名カンガルのロジャーが来日するみたいっすよ!」
「集客アップの為に下野動物園に来るのか。 もしうちに呼べたらお前と戦わせて結構見ものなショーにできるんだがな」
確かに。
ガチで戦うことになったらもっと客は興味を引くだろう。
なんせ、今は対人の見せかけのショーだ。
「カンガルー対カンガルーのガチバトルっすか! それ俺も見てみたいっす。 ダメ元でオファー出してみますか?」
「無駄無駄」
牧場主はそう言って煙草を燻らせた。
翌日昼間。
ボクシングのステージの上にいるのは俺と相方のトオル(35)さんだ。
まずマイクパフォーマンスでトオルさんが煽る。
「おいおいカンガルー、何でこんな牧場にいるんだよ!? お前はミルクを出せるのか?」
シナリオ通り、俺はポケットからミルクを取り出しトオルさんにかける。
「や、やめろっ! ってそれうちの売店に置いてる牧場牛乳(300円税込み)じゃねえか! お近くに寄った際はご購入ください」
ははは、と笑いが上がる。
のどかな光景だ。
そこから軽くじゃれ合って最後はカンガルーキックを見舞ってショーは終わり。
全部で15分くらいの短いショーだ。
「お疲れさーん!」
舞台に降りてトオルさんとハイタッチをし、小屋に戻ろうとした時だった。
「おい! ビッグニュースだ! ロジャーと対決が実現するぞ!」
へ!?
どういう経緯でそうなった!?
「ダメ元のオファーが通った! 飼い主も来てたんだがそいつがノッて来て、ロジャーの強さを実際に証明するチャンスだ! とか言ってるらしい。 お前、ロジャーと戦うってだけで一気に有名になれるぞ! 場所は下野動物園で、期日は来週の日曜だ」
下野動物園か。
もし俺のことに気づいたらもめ事になりそうだ。
なんでうちのカンガルーがお宅の所にいるんですか! とか言って。
俺が言葉をしゃべれたら事情を説明できるが。
厄介なことになって来たな……