カンガルーの旅
トラックは高速を進み、かなり田舎の方まで来ていた。
田んぼや畑が多い。
(こんな所まで来たら、もう戻りようがないよなぁ……)
さらにそこから進み、ようやくトラックは下道を走り始めた。
ガタゴトガタゴト……
心地よい揺れにだんだんと意識が遠のいていった。
「おい、何でこんなやつを連れてきたんだ」
「い、いや、オレじゃないっすよ」
くあっ……
眠っちまってた。
何やら外でもめている。
目的地に着いたのか?
「お前、まさか盗んで来たんじゃないだろうな?」
「どうやったら盗めるんすか。 どこで乗り込んで来たのかも分かんないし…… あ、もしかしたら」
俺はヒョイと荷台から顔を出した。
片方の男は小太りで、結構おっさんだ。
っすよ! とか言ってる方はトラックの運転手か? 結構若い。
「うをおおおおおおっ」
おっさんの方と目が合い、相手は驚いてのけ反った。
「あ、起きたみたいっすね」
俺は敵意はないことを示すため、両手を上げた。
確か降参を示すボディランゲージだったはずだ。
「あはは。 なんかフレンドリーなカンガルーっすね!」
「……お前が思うに、このカンガルーはうちの牧場の牛乳を届けている時に、乗り込んだかもしれないんだな?」
「そっすね。 下野動物園でトラックを止めてる時に、ライオンが脱走したーって声が聞こえたんすよ。 多分その時に何かの手違いでカンガルーも抜け出して、それでトラックの荷台に乗っかったんだと思いますね」
「じゃあ、帰してくるんだ。 向こうも困ってるだろ」
まさか俺をこのまま送り返すのか!?
ちょ、まて!
ライオンを殴った手前、絶対ウェルカムな雰囲気じゃないのは分かっている。
俺は全力で首を振り、ノーを示した。
「なんか、めちゃ嫌がってますけど。 お前、帰りたくないのか?」
俺は縦に首をブン! と振った。
「帰りたい?」
俺は横に首をブンブン振る。
「……ここに残りたいみたいっすね」
「そんなに戻りたくないのか? 同時に2匹も抜け出すくらいだから、よっぽど居心地が悪かったのか? まともにエサを貰えてなかったのかもしれんな…… だが、うちの牧場だってカンガルーを飼うほど余裕はないぞ?」
「自分の分のエサ代は自分で稼いでもらったらどうすかね?」
お、どうやらこの牧場に身を置けるカンジか?
めちゃくちゃラッキーだぜ!
もし街に降りてたら間違いなく騒ぎになってた。
動物園に対してはちょっと誤解が生じてるところもあるが……
「よし、分かった。 お前を受け入れよう。 牧場主としても見過ごせんしな」
おおおおおおっ!
俺はジャンプして喜んだ。
荷台がガッチャンガッチャン言ってる。
「ただし、お前にはショーをやってもらうからな!」
ん?
なにすんの?
「キックボクシングのショーだ!」