そして彼は向かう
ギルドに戻ってきたケントは、受付に
何かを納品しているらしきトリスを見つけた。
(丁度良かった)
ケントはトリスに相談しようと思っていたので、
トリスの元へと向かった。
「ーーーというわけでおっさん、
どうすればいいと思う?」
「どういうわけだ坊主、あたかも状況説明
したかのように演出するなよ」
ギルドのテーブル席に座って、二人は
話していた。
「今日開かれる貴族のパーティに
忍び込みたい。 何か言い案は無いか?」
「...何が目的だ? 坊主」
「それは...」
言いかけてケントは話を止めた。
能力で、とある人が死ぬ運命が見えたから
助けにいきたい。
こんな話を信じてくれるだろうか?
悪事を働くためにパーティに潜り込むための
口実だと思われないだろうか?
だが、話さなければ、何も、始まらない。
「突拍子もない話だが聞いてくれ。
俺は触れた相手の人の死ぬ運命が見えるんだ」
「...」
「さっき依頼に行ったとき、俺は
ウルフ達に襲われた。 もう死ぬかと思った。
だけど、とある二人組が俺を助けて
くれたんだ。 何の見返りも求めず、ただ純粋に
好意でさ」
「それで、何らかがあってその二人のどっちかに
触れたときに死ぬ運命が見えたから助けに
行きたいってか? その二人でも死んでしまう
ような出来事が起こる場所へ?」
「そういうわけだ、信じられないかも
しれないがーーー」
「なら、協力してやる」
「そうだよな、こんな話ーーーは?」
ケントは目を点にしてトリスを見た。
「そんな簡単に信じていいのか...?
貴族のパーティに潜り込んで暗殺をしようと
企んでるみたいな感じに疑わないのか?」
「坊主、俺と最初に出会ったときのことを
もう忘れたのか?」
「...?」
何かあっただろうか? そうケントが思っていると
「その能力...俺の前で使っただろ?
不思議に思ってたんだ。俺と触れた瞬間顔色が
悪くなったり、まるでわかってたかのように
オークの投げた槍から俺を助けたりしたこと。 坊主のその話が本当だとすれば辻褄が合うんだ」
「そういうことか...」
「それに、命の恩人からの頼みだ。
無下には出来ねえな」
「...おっさん、元々断る気なかっただろ?」
「さあな、とにかく、パーティに事が
起こるってんなら時間がない」
トリスは真剣な表情になり
「ひとつだけ、パーティ乗り込む方法がある」
「本当か!?」
思わずケントは身を乗り出した。
「ああ、だが、貢ぎ物が必要だ」
「貢ぎ...物?」
「今夜のパーティは貴族達のパーティだなんて
言われてるが裏では姫様とのお見合いパーティみたいな
意味もあってな。
だから姫様への貢ぎ物が必要なんだ。
そして、貴族じゃなくとも金持ちなら行くやつもいる。
つまり、ある程度の身なりと貢ぎ物が
あれば意外と入れちまうんだ」
「...いいのか? それで...。 警備緩そうだな...」
「いや、建物に入る前に検査があってな。
武器や怪しいものは帰るときまで
検査員が預かることになってんだ。
そしてさらに、建物内にも騎士が控えているし、
姫様は対魔法用障壁が
付与される国宝級の魔具を付けている。
警備が緩いなんてことはない。」
だが確かにあの恐ろしい殺人者は映像で
剣を使っていた。
剣を隠していた様子は微塵もなかったはずだ。
「じゃあなんで...?」
ケントが思考にふけっていると、トリスが
声をかけた
「何か考えてるようだが、坊主。
お前、貢ぎ物は何かあるのか?」
「貢ぎ物は...一応心当たりはある」
ケントには貢ぎ物と言われたときに
差し出そうと考えていたものがあった。
「そうか...なら、あとは身なりの問題だな。
少なくとも、その服装じゃあ入れてもらえない
だろうな」
「...確かに、どうするか...」
今のケントの服装は学ランだ。
といっても暑くなって上を脱いでいたので
今はワイシャツだが。
服は土や草などで汚れており、パーティに
いけるようなものではなかった。
「おい坊主、服装なんざ一番最初に
解決できる問題だろうが、俺が何を仕事に
生きているのか忘れたのか?
俺は服屋マラリスのトリス。
そう言ったはずだぞ?」
そう言いながらトリスは悪そうな笑みを浮かべた。
「おっさん...ってことは...」
「ああ、動きやすくて、なおかつ貴族に見える
服装一式、お前に貸してやる」
ーーーーーーーー
辺りはすっかり暗くなり、パーティの会場には
大勢の貴族達が集まっていた。
その会場の前に、ケントは居た。
執事服のような格好をしているが、
所々に豪華な装飾がしてあるので、彼が
執事でないのは一目瞭然であった。
(ついに来ちまったか...)
ケントの脚は少し震えており、
歩き方が少々ぎこちなかった。
ケントは一度立ち止まり
(怖がってる暇なんてない...それに...)
『最悪破けたり
してもいいがそのかわりひとつ条件がある』
『条件?』
流石に服装一式は高いだろうし、無償では
無理だったのだろう。 とケントは思った。
トリスはもう一度真剣な表情をして
『絶対に死ぬな、生きて帰ってこい。
それが条件だ、いいな?』
「あれ...条件って言わねぇよ、おっさん...」
最後の最後まで優しいトリスに感謝して
「助けるんだ」
いつの間にか脚の震えは止まっていた。
「そんで、絶対に生きて帰ってやる!」
止まっていた足を、大きく一歩、前に出して
ケントは歩き始めた。




