無力な少年の決意
前話でバラン→ラエルに修正しています。
キャラの名前を間違えてしまい大変申し訳
ありませんでした。
それはどこかのパーティ会場だった。
その場は多くの貴族達で賑わい、皆笑顔で
楽しんでいた。
イリーナも様々な貴族に話しかけられており、
ラエルはそれを少し離れたところから
見守っていた。
イリーナが周りに集まっていた貴族と
話し終わると、一人の男が近づいてきた。
男は黒く長めのハットを頭に被っており、
また、黒い執事服のようなものを着ていて、
全身を黒いもので纏った人物だった。
「フフッ...お初にお目にかかります
イリーナ様ァ...」
男にしてはやけに高い不快な声で、
ハットで顔が隠れてイリーナからはよく
見えないが、口元だけは確認出来た。
「貴方は一体どちら様でしょうか...?」
「知る必要はありませんよぉ...」
その口元はまるで裂かれたかのような
三日月の形をしていた。
「っ! 姫様! 離れーーーー」
「だってアナタ、ーーー死ぬんですカラ」
男が舌舐めずりをすると同時に、イリーナに
剣が刺さった。
「ーーーえ?」
何が起こったのか理解出来なかった。
唯一わかったのは体の中に何かが
入り込み這いずり回っているような感覚
だけで
イリーナは次の瞬間、文字通り破裂した。
血が、手が、内蔵が、目が、骨が、
全てが飛び散り、彼女の死体すら
残らなかった。
「な...に...?」
ラエルはイリーナであったものに近づき、
膝から崩れ落ちた。
「イリーナ様...? イリーナ様!!?!!」
いくら叫んでも、喚いても、何をしても、
彼女は戻っては来ない。
「貴様、よくもーーー」
怒りに染まった顔を目の前の敵に向けて上げた
ラエルの眉間に剣が刺さった。
「所詮、堕天の貴方ではこの程度デスカ...。
まァ、そもそも期待などしていません
でしたがネェ...。 マ、脳を貫いたので即死
だとは思いますが...念には念を入れましょうカ。
散っちゃってくだサイ」
パァンと風船が弾けるような音と同時に
ラエルの体がイリーナと同じように弾けた。
そして、世界はまた暗転する。
「っ!?!!!!!!!」
現実に引き戻されたケントは、驚きのあまり
ラエルの手を離し、そのまま後ずさった。
「っ! ...はぁっ...はぁっ...」
思わず吐き気がして口を手で押さえる。
なんだ、あの映像は。
まさかあれがそのままそっくり同じことが
起こるとでもいうのか。
だが、自分に何が出来る。
仮にその場に居たとしても殺されるのがオチだ。
「ケントさん...大丈夫ですか?」
「ラエルさん...すまん...ちょっと静電気に
やられちったぜ...」
「静...電、気?」
「なんでもない。 ところで、近いうちに
パーティか何かあるのか?」
「今日の晩に年に一回の王族主催の貴族が
集まるパーティがありますが...それが何か?」
「今日...マジかよ...」
ケントは思わず親指の爪を噛んだ。
あと数時間後にはパーティが始まってしまう。
二人が死んでしまう。
あの強大な相手に対策を練るのに許された時間は
あまりにも短いものだった。
「悪い、なんでもない。
それより、助けてくれてありがとな。
改めて礼を言う」
ケントが頭を下げると、ラエルは慌てて
手を振り
「そんな、お礼なんて滅相もありません。
私は騎士としての勤めを果たしたまでです」
「ケントさん、ラエルがこう言ってますし、
あまり気にしないでください」
「...わかりました」
ケントが頭を上げると、ラエルはほっとして
「そういえば、私たちはそろそろ
行きますが、グラムまでお送りしましょうか?」
「いいや、大丈夫だ」
ケントが手を振って遠慮すると、
イリーナとラエルは「それでは」と
行って去っていった。
「...どうする俺...」
いくら考えても打開策は浮かばない。
大体触れただけで体が弾ける剣に勝ち目が
あるのだろうか。
そもそも、何故自分は自ら死地に飛び込もうと
しているのか。
わざわざ命を危険に晒してまで何も出来ない
自分が加勢しに行く意味などあるのだろうか。
「そうだ...逃げちまえば楽になれる...」
だが、それで良いのだろうか。
彼らは危険をかえりみずに自分を助けてくれた。
自分の傷を治してくれた。
見返りなど出せないというのにここまで
やってくれた彼らを見捨てるなど
してもよいのだろうか。
「...いいや」
答えなど最初から決まっていた。
出来るか出来ないかなんて関係ない。
例え死地に飛び込むような真似をすることに
なったとしても、
この恩を返すためにも
「どうせあの二人が居なきゃ散ってた命だ、
ならあの二人のために使わないと...な!」
ケントは両方の頬を手でパチンと叩くと
「よぉし! いっちょやるか!」




