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転移された者

学校の帰り道、真鍋(まなべ) 健斗(けんと)

電車に揺られていた。


中肉中背で平均的な学力、平均的な運動力、

そして平均的な顔。


どこにでもいるような少年だった彼は座席に座り

スマホを弄りながら降りる駅に着くのを

待っていた。


『次はーーーー』


「そろそろだな」


次の駅を告げるアナウンスが流れた。


降りる駅を次に控えた健斗は立ち上がり、

扉の前へ近づいていく、だがどこか違和感を

覚え周囲を見渡し、絶句した。


誰もいなかった。


普段この時間は帰宅ラッシュでかなり混雑しており、

今日健斗が座席に座れたのは運が良かっただけである。


普段は健斗が降りる駅では、まだ車両内は

混雑している。


いままでこんなことは有り得なかった。


(なんかやな予感がすんなぁ...)


『ーーーー、ーーーーに到着しました』


(こういうときは巻き込まれないうちに

早く帰るに限る)


駅に到着すると、健斗は両目を瞑り、ため息を

吐きながら電車を出た。


何故だかいつもより空気が美味しい気がした。

頬を撫でる風も心地よい。


健斗は目を空け、目の前を見た。


「...は?」


目の前に広がるのは慣れ親しんだ地元の駅ではなく

森の中だった。


ちらほら見たこともないような植物が育っており、

健斗の頭の中に"異世界"という言葉が浮かぶ。


「いやいやいやいや、まさか電車で異世界に

来ちまったってか? 信じたくはねぇけど...


っ!!」


背後から草が揺れることが聞こえた。

まるで何かが草を踏んだような音だった。


健斗は冷や汗をかきながらも勇気を持って

後ろを振り向いた。





ーーー居たのはただのおっさんだった。


「はぁ...よかった」


安堵の息を吐く健斗が、森の中で怖がって動けずに

いた、か弱い少年に見えたのか、


「坊主、人のいるところまで送ってやろうか?」


「あ、出来ればお願いしーーー」


彼の優しい提案に乗ろうとしたが、

そこまで言って健斗の口は止まった。


彼の頭上に"Danger!!"という文字が

浮かんでいるのを見つけたからだ。


(危険? もしかしてこの人、危ない人なのか...!?)


「おい、どうした坊主? 大丈夫か?」


少し顔を青くして後ずさった健斗を心配したのか

彼は不安を感じさせない笑みを浮かべ

健斗の肩に触れた。


その刹那、視界がブレた。

まるでテレビで映らない番組にチャンネルを

回したときのような光景が目の前に広がった。


(なん、だ...これっ...! 雑音(ノイズ)が...

五月蝿(うるさ)い...!)


思わず耳を塞いでしまうような音と、

視界に広がる映像に、耐え続けていると、

ようやく元の光景に戻った。


うなされるような健斗を見た彼は

一度頷き


「なあ坊主、ここは危険だから、俺の地元に

案内しようか?」


はい、と返事をしようとしたのだが、

声帯を取り除かれたかと錯覚するように

声が出なかった。


まるで、干渉することを許されないような。

そんなものを健斗は感じた。


そして次の瞬間、突如投擲されたと思われる槍が

目の前の彼に突き刺さった。


槍は心臓を貫き、即死したであろう彼は、

健斗の方に倒れかかった。


(う)


「うあぁああぁあ!!!?」


「おい坊主! 大丈夫か!?」


「...え?」


健斗は突然のことに驚くが、もう一度彼を

見ると、彼は普通にピンピンとして

立っていた。


「あっ、悪ぃ。 突然触られたらそりゃ

警戒しちまうよな」


「あ、いや。 そういうわけじゃない。

ちょっと気分が悪いだけだ」


「そうか」


彼は一度まるで同じ動作を繰り返すように頷くと、


「なあ坊主、ここは危険だから、俺の地元に

案内しようか?」


(その言葉と動作...まさかーーー!!)


健斗は彼の肩を掴み思いきり横に押し退け、

自らも瞬時に横に体を反らした。


完全には避けきれずに頬に槍が掠り、一筋の傷からは

少量の血が流れた。


(()ぅ...さっきの映像と同じ攻撃!? なんなんだよ

これ...!)


「坊主、ありがとな! 恩にきるぜ!

つい油断しちまった!」


彼は健斗を守るように前に立ち、槍を投擲してきた

犯人を見た。


それは豚のような頭をした醜い顔の人型魔物。

人呼んで


「オーク...か、よくもやってくれたじゃねぇか」


そう言って彼は背中にかけた大剣を取りだし


「お返しさせてもらうぜ!」


威勢の良い声をあげてオークに向かっていく

彼の頭上には既に"Danger"の文字は無かった。


(消えてる...ってことは、あれは俺が手を出さなかった

場合の未来を予知した映像っつーことか?)


「おらあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


そう考えている間にも雄叫びをあげながら

オークを大剣で斬り裂いている彼の姿が

見えた。


「対死亡フラグ用の能力(スキル)ってわけか...」


「坊主! オークは倒した! もう大丈夫だ! 」


「ああ、それはよかった。 ところでおっさん」


「お? なんだ?」


死ぬ映像を見なければならないデメリットが

あるので、健斗はもうこの能力を使いたくは

なかった。


だから


「...いや、なんでもない」


この能力は使わないようにしよう。


ただただ単純に健斗はそう思った。

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