取り調べ室での籠城戦
[長い耳の少女に襲われた裕志とメリッサ。サングラスの女が助けに入り、取り調べ室に籠城しました]
サングラスの女が扉に耳を当てていると、突然、
バシュッ!
扉の閂の近くに先端が尖った鉄の棒が突き出した。
クロスボウの矢だ。外から扉を破壊する為に撃ってるんだ。
「長くはもたないわね」
女がサングラスを取ってこちらを見る。
美人だ。この国には美人が多いみたいだ。
二本に編んだ金髪を頭の後ろでくるりとまとめている。
シンプルだが上品なドレスを着ている。
本当は足下までスカートが伸びているのだろうが、今は大胆に裾を腰のあたりまで捲ってしばってあり、健康的なふとももが丸出しになっていた。
その格好に気付いたメリッサが顔を青くして叫ぶ。
「あ、アンブローシア様! ななな、なんてはしたない格好をなさっているんですが!」
「ドレスを引きずっていては上手く走れないでしょ? 緊急事態よ。文句があるなら王女を娶りなさい」
「なななっ!」
アンブローシアと呼ばれた女の子はあわあわしているメリッサを気にせず俺の傍にしゃがむ。
そして俺の腰に刺さった矢を見た。
「出血がないのは矢が刺さったままだからかな……いいえ、内臓を綺麗に避けてるんだわ。神の奇跡に感謝なさい」
「きっとその神様はSだな。俺が死ぬ時間が伸びるのを楽しんでる」
「憎まれ口を叩く余裕があるなら大丈夫ね」
バシュッ!
閂の横から二本目の矢が突き出る。扉の金具が微妙に歪んだ。
アンブローシアがメリッサを見る。
「扉が壊されると同時に外に飛び出して、逃げましょう」
「あのエルファンを振り切れるでしょうか?」
エルファンというのは、あの長い耳の少女のことだろうか。
アンブローシアは腰に巻いているベルトに手を当てる。
ドレスとは明らかに雰囲気の違う、使い古されたベルトには、皮のポーチが幾つも下がっていた。
彼女はそのうちの一つを開け、折りたたんである羊皮紙を取り出す。
「光の呪文がもう一枚あるの。さっきと同じように、この羊皮紙で黒石を包んで投げつければ――」
そこまで言って、急に黙ってしまう。
「アンブローシア様?」
「……石を入れてるポーチがない」
「ええっ!?」
確かに、腰のベルトに連なるポーチのうち、一箇所がぽっかりと空いていた。
「さっき、クロスボウの矢が掠ったんだわ。それで落としてしまった」
「そんな……!」
バシュッ!
3本目。
黙り込んでしまう二人。俺は寝っ転がったまま、アンブローシアが持っている羊皮紙を見た。
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instant light(brack_stone bs1, brack_stone bs2){
reverse_element(bs1 + bs2, LIGHT)
}
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「……それは、黒石2つを使って強力な光を放つ、呪文か?」
「!? あなた、呪文が読めるの!?」
驚くアンブローシアの様子を見る限り、当たっているようだ。
ナツミの所で見た呪文と違って、今度は入力が二つある。
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instant light(brack_stone bs1, brack_stone bs2){
--------------------------
"brack_stone bs1"と"brack_stone bs2"が入力だ。
プログラムでは、こんな風に",(カンマ)"で区切って、複数の入力を持つことができる。
ここでは、「黒石のbs1」と「黒石のbs2」を入力として受け取った。
そして、受け取った入力を光に変換する。
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reverse_element(bs1 + bs2, LIGHT)
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bs1とbs2を「+」で結合して、それを光に変えている。
1個ではなく2個の黒石を合体させて変換したから、あんなに長く眩しい光が出るのだろう。
よし。大体わかった。
俺は痛みを堪えながらアンブローシアに言った。
「あんた、『写本』スキルは持っているか?」
「『写本』、ですか?」
「なんでもいいんだ。俺の言う通りに呪文を書けるか? やって欲しいことがある」
するとアンブローシアが急に怒り出した。
「おい貴様失礼だぞ! アンブローシア様になんという口の聞き方を――」
「構いません、メリッサ」
アンブローシアはそう言って、俺の顔を覗き込む。
「この状況を打開するアイデアが、なにかあるのね?」
「短期的にはイエスだ。長期的もイエスかどうかは、俺にはわからない」
ふともも丸出しのドレスの女の子は、少しだけ驚いたように目をパチクリさせた。
そして、いたずらっ子のように、色っぽく微笑んだ。
「あなたに賭けるわ」。
籠城戦はもっと早く終わる予定でしたが予定より長くなりました。
ちなみに、前回「祈り続けなさい!」と叫んだのは、
メリッサが光で目をくらまさないよう、瞑らせておきたかったのです(書く余裕がなかった)
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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