サングラスの女
[王城でメリッサの尋問を受けていると、クロスボウを持った長い耳の女が城を襲撃、主人公の田乃上裕志はメリッサを庇って矢を受けてしまいました]
あまりの痛みに気絶しかけたその時、メリッサが俺の肩をゆすりながら必死の形相で叫んだ。
「おい、しっかりしろっ! 私と手錠で繋がっているのを忘れるな!」
身勝手な言い分だが、おかげでなんとか意識が保たれた。
とはいえ、痛みから逃げるために脳が強制的に気絶させようとしていたわけだから、気絶しなかった今、超痛い。
首を捻って背中を見る。
太さ5ミリ、長さ20センチほどの銀色に輝く鉄の棒が腰に刺さっている。
身体の中に何センチ刺さったのかは考えたくもない。
顔を上げ、俺にこの棒を撃ち込んでくれた相手を見る。
少女だ。ナツミと同い年くらいか、もっと下かもしれない。
ショートパンツにチューブトップの胸当てをしていて、くびれのある腰とちいさなおへそが覗いている。
なにより耳が長い。
すげえ長い。
俺の手より長いかも。
その耳が怒りによる物か、ピンと斜めに立っていて、綺麗だった。
長い耳の少女は俺の行動が予想外だったらしく、しばらくポカンとしていたが、慌てて腰につけた矢筒から2本目の矢をクロスボウにセットし始めた。
メリッサもそれに気付いて叫ぶ。
「逃げるぞ!」
「OK!」
走り出そうと一歩足を出したその途端、腰の辺りから超絶な痛みが脳天を貫いた。
「ガアアッ!」
あ、そう言えば俺クロスボウで撃たれたんだった、と思っているうちに地面に転がる。
「うわっ!」
手錠で繋がっているメリッサも引っ張られて転び、俺に覆い被さるように倒れた。
その間に長い耳の少女は矢のセットを終えて、クロスボウをこちらに向けて構えた。
「て、手錠を、外して、逃げろ……」
痛みを堪えながらメリッサに言う。
「ダメだ! ここで解放したら職務に反する!」
死んだら職務もなんもねーだろと思うが、この真面目さがメリッサの良い所なのだろう。
「ああもう、もっと恋とかしておけば良かった!」
メリッサは死を覚悟したのか、そう叫んで祈るように両手を組み、ぎゅっと目を閉じた。
長い耳の少女が引き金に指を添えて言う。
「恨むなら、王女を恨め」
その時、長い耳の少女がいる方と反対側の廊下の奥から女の叫び声がした。
「メリッサ! 祈り続けなさい!」
直後、俺の頭上をボールのような物が飛び、床に倒れている俺達と、長い耳の少女のちょうど中間あたりに落下した。
その瞬間、まるで突然そこに太陽が現れたみたいに、廊下が眩しい光に包まれた。
光源は恐らくさっきのボールだろう。
床に倒れていた俺は光源を直接見ていなかったが、あまりの眩しさに上手く目を開けられない。
長い耳の少女はガチで見てしまったらしく、身体をよろめかせてクロスボウを床に向けてしまっていた。
眩しい光がまだ続く中、俺達の傍に誰かが駆け寄って来た。
「メリッサ! この方を支えて! そこの部屋に入ります!」
女だ。サングラスのような物をしているらしく、この光の中でも普通に動けるようだ。
「は、はい!」
メリッサはサングラスの女に言われて俺を肩で抱え、今出て来たばかりの取り調べ室に引きずっていく。それに気付いた長い耳の少女が焦って叫ぶ。
「ま、待て!」
そしてクロスボウを撃つ。
バシュッ!
しかし、まだ眩しい光が続いているため、狙いが定まらず、俺達には当たらなかった。
俺とメリッサが転がるように取り調べ室に入ると、サングラスの女が扉を閉め、閂をかけた。
「た、助かった……のか?」
「一時的にという意味なら、イエスよ。長期的にという意味なら、残念ながらノーね」
俺が聞くと、サングラスの女は扉に耳をあてながら答えた。
「このままではみんな死ぬわ」
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