『写本』スキル
「じゅ、呪文を書き換える!? 無理ですよう!!」
ナツミが驚く。革製のコルセットで強調された巨乳が揺れる。
「どうして? 君が原書から書き写したんだろ?」
※原書……呪文を書き写す元になる魔導書のこと。魔導書に書かれている呪文は消えない。
「書き写すなら私にもできますよ。『写本』スキルがありますから」
「『写本』スキル? なにそれ?」
「呪文は読めるのにスキルは知らないんですか?」
ナツミは呆れたような顔をして、奥の部屋に行き、手の平におさまるくらいの鉄の箱を持って戻って来た。
「これはスキルチェッカーです。私が作ったんですよ」
自慢げに胸を張る。巨乳が揺れるたびに視線がそっちに向かうのをなんとかしたい。
ナツミは箱を握りしめてこう言った。
「スキルチェック:『写本』」
すると、ナツミの頭の上に、光で描かれた「2」の数字がポンと浮かんだ。
「これを使うと、周囲2メートルの中にいる人のスキルレベルを確認出来るんです」
俺は真上を見上げる。なにも無い。
「つまり、俺には写本のスキルがないってことか?」
「そうなりますねえ。まあ、もし本当にクラスが『賢者』だったら、私のチェッカーでは弾かれちゃうかも」
「しかし、スキルがないと書き写せないというのはどういうことなんだ?」
俺が聞くと、ナツミは机の上にあった羽根ペンと、何も書かれていない羊皮紙を摘み上げて俺に渡した。
「インクも紙も魔術師ギルドが販売している特別製です。呪文はこの紙とインクで書かないと発動しません。そして『写本』スキルがないと、この紙には文字が書けないんです」
なるほど。理解した。
「なら、俺が元の呪文をどこかに書いて、それをナツミが書き写すならできるよな?」
「はあ。できますけど」
よしよし。なら実験は可能だ。
「ひとまず、さっきの光の呪文を書き換えてみよう。赤石以外にも光の元素が入った石はあるか?」
「色々ありますけど……」
ナツミが机の上に置かれた幾つもの小さな壺の一つの中から、黒い石を取りだした。
「黒石です。赤石よりも値段がずっと安いです。十分の一くらい」
「光の元素が入っている量の違いとかあるのか?」
「ほぼ同じですね」
「だったら、黒石で光の呪文を使う方が経済的なんじゃないか? そういう呪文はないのか?」
「呪文自体はありますけど、原書はここにはありません。お師匠様が魔導書を持っていってしまったので……」
ナツミは急に悲しげな顔をして、お腹に手を当てた。
「黒石の光の呪文を『写本』で作れれば、それを売ってお金にできるんですが……」
「お金、ないのか?」
「ありません。実は昨日から何も食べてないんです。お師匠様がなにか売れる物を残してないか調べていたら、あなたを召喚する呪文を見つけたんです」
「その呪文を売らないでくれて助かった。じゃあ、はじめよう」
俺はナツミに普通の紙を用意してもらい、そこにサラサラと呪文を書いた。さっきの光の呪文を少しだけ変えてある。
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instant light(brack_stone rs){
reverse_element(rs, LIGHT)
}
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変えたのは1行目の[入力]の所だ。"red_stone(赤石)"を"brack_stone(黒石)"に変えた。
「ひとまずこれでやってみよう」
「わかりました。『写本』しますね」
ナツミが羊皮紙に書き写す。面白いことに、書き写し終えると、俺の書いた文字は消えてしまった。ナツミによれば、魔導書に書かれた原文以外は、『写本』をすると元の文字は消えてしまうのだそうだ。
「できました」
「よし。カーテンを閉めてくれ」
俺はナツミがカーテンを閉め終わるのを待ってから、黒石を握り、羊皮紙に投げつけた。
パアッ!
さっきと同じように部屋が明るくなる。
「すごーい!」
目を輝かせるナツミに、俺は言った。
「もう一回同じ物を作って、それを売ろう。夕食代になるだろ?」
「はい! ご馳走作ります!」