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ツインクロス  作者: 龍野ゆうき
終末へと向かう足音
67/72

22‐3

何やら声を掛け合い、こちらに向かって走って来る男達に。

「…っ!?気付かれたっ。逃げるぞっ」

雅耶と夏樹は元来た道を戻って走った。


夜の静かな住宅街を、全速力で駆けて行く。

どれだけ本気で走っても、足の長い雅耶の方が断然に速く、必然的に夏樹が雅耶の後について行く形になる。

ひたすらに住宅街を駆け抜けて、丁字路へと差し掛かった時。


「…っ!!」


別の道から回り込んで来たのか、怪しげな男達が反対側から出て来た。

雅耶が構える前に、素早く一人の男が殴り掛かってくる。

だが、雅耶は瞬時にそれに反応すると攻撃を受け止めた。


「まさやっ!!」


だが、その後から来たもう一人の男も加勢に入る。

「…くっ!冬樹っ逃げろっ!!」

雅耶が二人相手に応戦しながら、声を上げた。

「でもっ!」


(雅耶を置いてなんか行けないっ!)


すぐに自分も加勢に入ろうとするが、

「いいから行けっ!早くっ!!」

本気で雅耶に怒鳴られて、思わず踏み止まった。

その間にも、男達の打撃や蹴りが雅耶を襲う。

そんな男達を相手にしながらも、動けずにいる夏樹に雅耶は視線を流して来る。


『俺を信じろ』


雅耶の瞳が、そう言っている気がした。


(…雅耶!!)


そうしている間にも、自分の後方からは別の追手が追い付いて来る。

「…くっ…」

夏樹は後ろ髪を引かれながらも、もう一方の道へと駆け出した。

「道場まで突っ走れっ!!」

背後から雅耶の声が聞こえた。



ただ、ひたすらに前へと足を運ぶ。

とにかく必死だった。

自分を逃がしてくれた雅耶の為にも。


(雅耶。どうか無事でいて…)


祈ることしか出来ない自分。

何て自分は無力なんだろう。


…泣きたくなった。


(自分のせいで雅耶にもしもの事があったら…)

そう思ったら、足が止まってしまいそうだった。

引き返して、雅耶の元へ…。

本気でそう、思った時。


十数メートル前方の角から曲がって来た一台の車が、そのまま前方で停車した。その車からは、即座に数人の男達が降りてくる。

不穏なものを感じて、瞬時に夏樹はその場に足を止めた。

すると、その後部座席からは、ゆっくりと一人の男が降りてくる。

高級そうなスーツを身に纏った、中年の男。

その男は、息を切らして立ち止まっている夏樹を見詰め、微笑みを浮かべた。


「君が冬樹くん、だね。随分とご無沙汰しているね」

「…っ!…アンタはっ…」


それは、力の父親であり、以前父の大の親友であった男。

他ならぬ神岡、その人だった。

「見違える程大きくなったな。君は野崎よりも聡子さんに良く似ている…」

神岡の口から父と母の名が出てきて、夏樹はその目の前の男を見据えた。


(気安く両親の名を口にするなっ!友人(づら)しやがってっ!)


そう怒鳴りたいのを、すんでのところで我慢する。

挑発するのは簡単だが、まずは相手の出方を待つ方が得策だと思ったのだ。

だが、そうしている間にも後方からの追手がすぐ後ろまで迫って来ていた。


(神岡の周りに三人。後ろに二人…か…)


すっかり挟まれてしまい、どう考えても不利な状況だった。


後方の動きに警戒しながらも、夏樹はその目の前の男に問うた。

「こんな時間に、こんなに沢山の人数を引き連れて…。オレに何の用ですか?」

ある意味、ワザとらしい問いではあるが、目の前にいる黒幕がどう対応するか試したかった。

すると、神岡はそれに平然と答えた。

「君に、私共と一緒に来て欲しいんだ。協力願えないだろうか?」

まるで、この状況が何でもないことのように言ってのけた。

神岡の、そのスカした様子が癇に障って、つい挑発的な言葉が口から出てくる。

「ハッ。よく言う。協力も何も…突然、殴り掛かって来て。最初から選択肢なんかないんじゃないか?」


その時、後方にいた一人の男が、隙を見て背後から掴み掛って来たので、夏樹はそれを瞬時に避けると、よろめいたその男の背にかかと落としを食らわせた。男は、そのまま道路に倒れ込んでしまう。そこにもう一人の男が殴り掛かってきて、夏樹はそれを掌ではじくと、相手が一瞬(ひる)んだ隙に姿勢を低くして、その足元を思いっきり蹴りで払った。男は後方に勢いよく倒れると、後頭部を思い切り強打して倒れ込んだ。


その、瞬時に二人の男をのしてしまった鮮やかな動きを、神岡は目を細めて眺めていた。

だが、次に冷たい微笑みを浮かべると言った。

「分かっているなら話は早い。下手な抵抗は被害を大きくするだけだよ。そう、例えば…君の友人とか、ね」


「……っ…」


その言葉に、夏樹は動きを止めると大きく瞳を見開いた。

「向こうにいるのは、組関係の助っ人の方々だからね。少しばかり乱暴なんだ。君の大事な友人は、今頃大丈夫かな?」


(…雅耶っ…)


「…くっ。…卑怯者め…」

「何とでも。もう、今更引き返せないのだ。私も、君も…ね」


大人しくなった少年を見詰めて、神岡は満足気に微笑むと。

「君さえ大人しくこちらに従えば、向こうの方達は引かせよう。君の友人への手出しもさせないと誓うよ」

そう言って、傍に居た男達に顎で指示を出すと。

男達は夏樹を捕らえるべく、傍へと歩みを進めて来るのだった。




(くそっ、これじゃキリがないっ!)

雅耶は苦戦していた。


雅耶は空手の有段者である。

その為、一般人…と言えるのかどうかは定かではないが、いくら正当防衛とはいえ、決定的な打撃を与えて良いものかどうかを迷い、加減をしながら応戦していた。

相手の攻撃を受け止め、流してはいるが、こちらからの攻撃は思うように打てない。そうなると、必然的にいつまでもしつこい輩を長々と相手にし続けなければならなくなる。

流石に加減をして戦っているとはいえ、数人を相手にしていれば骨が折れるし、何より道場へ向かった夏樹のことが心配だった。

(こうなったら、段位も何も関係ない。皆まとめてさっさとやっつけて夏樹を追い掛けるしかないか)

そう、腹を括った時だった。


「生意気なガキがっ!こうなったらっ…」


そう言って、一人の男が懐から取り出した物は、何とスタンガンだった。

思わぬ凶器の登場に雅耶は驚き、当然のことながら警戒の対象がスタンガン一つに絞られてしまう。


(あんなの食らったらマジ、ヤバイだろっ!)


スタンガンにばかり気を取られてしまっている雅耶を、容赦なく他の攻撃が襲う。

次第に受け止めきれずにダメージを喰らい出し、思わず別の攻撃に反応したその時だった。


「くらえっ!!」

「…っ!!」


(…しまったッ!!)


スタンガンを持った男の腕を避けきれず、瞬間的にその衝撃を覚悟した、その時だった。



バシッ!!



一瞬の内に横から現れた何者かが、その男の腕からスタンガンを叩き落した。


「ぐあっ!!」


男の呻きと同時に、カシャーンという落下音が周囲に鳴り響く。



(…誰だっ?)


そう疑問に思いながらも、未だ止まない男達の攻撃に対応することに精一杯で、その人物の顔をよく見ることが出来なかった。

だが、その人物も雅耶に加勢する形で、男達を相手に次々と技を繰り出していく。

(こいつ、なかなかやるな…)

その鮮やかな身のこなしに、雅耶は感心していた。


その人物が入ったことで、明らかにこちらが優勢になって来た頃、脇から一人の男が何事か指示を出し、男達はあっという間に引いて行った。

そして、そこには静寂が戻ってくる。

「……ふぅ…」

雅耶は一呼吸すると、拳で額の汗を拭った。

そして、同じようにその場に佇んで呼吸を整えている人物に目を向ける。

その人物は雅耶の視線に気付くと、ゆっくりとこちらを振り返って微笑みを浮かべた。


「えっ…?…お…前…、は…」

「雅耶…。お久し振り、だね」


そこに居たのは。

紛れもない『冬樹』…本人だった。


「冬樹…?ホントに冬樹なのかっ?」


信じられないと言う表情で雅耶はその人物の両肩を掴むと、顔を覗き込んだ。

「うん。幽霊…では、ないよ。残念ながら」

そう言うと、冬樹は悪戯っぽい顔をして笑った。

「バカ。残念な訳ないだろっ!お前っ…無事だったんだなっ。良かった…」

感極まって涙目になっている雅耶に。

「…雅耶…」

冬樹は眉を下げて微笑んだ。


再会を喜び合っていた二人だったが、今の状況を思い出して雅耶はハッとした。

「…っと。そうだ。夏樹を追い掛けないとっ」

慌てて夏樹が向かった道へと足を向ける。

冬樹も頷いて、それに続いた。

「でも、今…並木さんが向かってくれてるハズだから、きっと大丈夫だよ」


「…なみきさん?」


聞き慣れぬ名に、雅耶は思わず足を止めて冬樹を振り返った。

「うん。最強の助っ人…だよ」

微笑みながら冬樹が答えた、その時だった。

道の向こうから「冬樹っ」と、手を上げて走ってくる一人の人物が目に入った。

「あ…並木さんっ」

冬樹も、そちらに大きく手を上げて応えている。


(あれ…?あの人は…)


薄暗くて顔までは良く見えなかったが、街灯が照らすその背格好には見覚えがあった。

それは昼間夏樹を届けに来た、あの謎の男だった。

昼間見せていた柔らかな表情とは違い、男は険しい表情のまま傍までやって来ると、横にいる雅耶に気付いて「さっきは、どうも」…と、一瞬だけ表情を和らげた。

それにつられるように雅耶も軽く会釈を返す。

だが、その並木という男は、すぐに表情を引き締めると言った。

「やられた、冬樹…。向こうに車が待ち伏せしていたんだ…」


「…えっ?」


その言葉に、雅耶は愕然とした。

冬樹も、まさか…という表情で並木を見詰めている。

「面目ない…。俺が行った時には、もう遅かったんだ」

「それじゃあ、もしかして…なっちゃんは…?」


二人が呆然と立ち尽くす中、並木は申し訳なさそうに瞳を伏せると、悔しげに言った。

「あの子は、神岡に連れて行かれた」


(夏樹…っ!!)


「…くそっ!」

守りきれなかった悔しさに。

雅耶は、自らの拳をギリギリ…と握りしめるのだった。



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