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ツインクロス  作者: 龍野ゆうき
違和感の先にあるもの
24/72

9‐1

期末テスト一週間前。


「あーあ…、今日から部活は休みかー…」

「こうも暑いと、早く帰ったって勉強する気になんないよねぇ…」

雅耶と長瀬が隣でぼやいている。


今日からテスト前の部活動禁止期間に入る為、「一緒に帰ろうぜ」と雅耶と長瀬に声を掛けられ、珍しく三人で昇降口へと降りてきた。

「冬樹、バイトは?やっぱりテスト前とかは休み貰ってるのか?」

靴を履き替えながら雅耶が聞いて来る。

「いや…、とりあえずテスト期間中だけ…かな。本当は、テストとか関係なくバイト入ろうと思ってたんだけど、前回直純先生に怒られたんだ」

「怒られた?」

意外そうに聞き返してくる雅耶に、冬樹は笑って言った。

「そんな怒鳴られたりしたワケじゃないけどな。『お前にとっては勉強も仕事の内なんだぞ』って。だから一応テスト前日から、テスト終わるまでは休む感じかな」

「へぇー。冬樹チャン働き者ーっ。きっとイイお嫁さんになれるよーん♪」

茶化す長瀬に、「…なんでだよっ!」と、軽く蹴りを食らわせた。

そんな風にじゃれ合っている二人を横目に、雅耶は一人思いを巡らせていた。


(やっぱり直純先生は、冬樹にはすごく親身になって接しているんだな…)


彼は、もともと周囲への気配りも凄く出来る人だ。特にひとり暮らしをしながら頑張ってる冬樹のことは、傍で見ていて心配で放っておけないのだろう。

普段とは違う、冬樹に向ける時の直純先生の優しい瞳を思い出して、また少しモヤモヤして。

気が付けば、鞄を持つ手に余計な力が加わっていた。



昇降口を出て、門へと向かって並木道を歩いているところで、長瀬が伸びをしながら嬉しそうに言った。

「テストはイヤだけどっ!このテストさえ終わっちゃえば、待ちに待った星女の子達との合コンが待ってるんだー♪あー早くテスト終わんないかにゃー」

「…結局、終業式の日にやることになったんだって?合コン…」

「ああ…。あいつらに押し切られた…」

隣で浮かれてる長瀬を他所に、冬樹と雅耶は会話を続ける。

「その日、部活ないからさ。急きょ決定したんだ」

「結局、何人が参加するんだって?」

「確か、合計12人…。俺を入れて…だけど」

「…すご…」

苦笑している雅耶に合わせて、冬樹も笑顔を見せる。


特別、意識しないように努めながら。



だが、その時。

「久賀くーんっ」

門の向こうから手を振る女の子の姿が見えて、三人は自然と足を止めた。


「今日も健在だねっ。唯花ちゃん」

長瀬はすっかり顔見知りのようで、雅耶と一緒に近付くと自ら声を掛けた。

「あっ長瀬くん、こんにちはー」

彼女も笑って長瀬に挨拶している。

「久賀くん、今日から部活お休みだよね?待ってて良かったー。今日も一緒に帰ろう♪」

「あ、うん…」

嬉しそうに笑っている彼女、大貫唯花(おおぬき ゆいか)は、雅耶が近づくなり、当然のように隣にピッタリと並んだ。


「………」

それを数歩後ろで立ち止まって見ていた冬樹は、ゆっくりと再び歩き出すと、

「じゃあ、オレは先に帰るね」

すたすたと、雅耶達の横を抜けて行った。

「あっ冬樹っ待てよ。一緒に…」

雅耶が慌てたように声を掛けるが、冬樹は足を止めることなく振り返ると、

「オレ…馬に蹴られたくないからさ」

そう言って笑うと「じゃあな」と手を振った。

「あっそれって、『人の恋路を邪魔する奴は…』ってやつ?あっ冬樹チャン!待ってよーっ。俺も蹴られたくないし、冬樹チャンと一緒に帰るよーっ」

長瀬も冬樹の後を追って行ってしまった。

冬樹の隣に並んだ長瀬が、向こうから手を振っている。


結局、余計な気を使われて二人に置いて行かれるカタチになり、雅耶は心の中で小さく溜息を付くと、このところ毎日のように一緒に帰っている唯花と歩き出した。



本当は、そろそろ限界だと思い始めていた。

最初は、帰り道に女の子に待ち伏せされる…という、その行為そのものがどこか照れくさい新鮮なものに感じていたけれど、今は苦痛でしか無かった。思っていたよりも周囲の反応が大きく、皆に騒がれ過ぎたのも気が重くなった要因の一つかも知れなかったが。

本当は、告白されたその場で断る筈が、自分のことを知ってから答えを出して欲しいと彼女に押され、確かに知りもせずに即断るのは失礼かなと思ってしまった結果がこの状態だった。

今となっては、それを後悔している自分がいる。

ヘタに『悪い子ではない』と知ってしまった分、逆に断りにくくなってしまったのは事実だった。


「でねーその子がねー…」

隣でにこにこ笑って話す彼女は、確かに可愛いとは思う。

だが…。


帰る方向が一緒なのだから当然なのだが、ずっと目の前を歩いている冬樹と長瀬の姿が気になって、雅耶はつい目で追ってしまっていた。今では、何だかんだと仲の良い二人は、ずっと楽しそうに会話を続けながら歩いている。


『本当なら、俺があそこにいる筈なのに…』


思わず、そんな言葉が頭に浮かび。

(俺は最低だな…)

そして、自己嫌悪に陥った。





ある晩のこと。

夜更けの人通りのない薄暗い路地裏に、怪しげな二つの影が揺らめいていた。


「は?データ持ち出したのがあの野崎のガキじゃないって?どういうことだっ?」

一人の男が片方の人物に詰め寄る。

言葉の荒い、その素行の悪そうな男とは対象的に、もう一人の男は落ち着いた様子で静かに口を開いた。

「その言葉の通りですよ。彼にデータを持ち出せる筈がないのです。何故なら彼はずっと、私達組織の監視下に置かれていたからです。あの日以前に、彼があの家に足を運んだことは一度もない。だから誰か別の者の仕業なのですよ。今何処にあるかは別にして…ね」

丁寧な物言いではあるが、その口調は冷たい。

「おいおい、別の…って。それじゃあどうすれば良いんだ?何か心当たりとかはねぇのか?」

「ないから困っているんです。何とかして探し出すしか仕方ありませんね。…まぁ、とりあえず、さり気なく周囲への聞き込みや、野崎の身内関係から探ってみるしかないでしょうね」

落ち着いて淡々と話す相手の言葉に、一方の男は若干イラついた様子で腕を組んだ。

「聞き込みなんてのは、俺の専門外だ。そっちに任せるぜ。何か進展があったら、また連絡くれよ。こっちはこっちでちょっと当たってみるからよ」

そう言うと、男は相手の返事も待たずに、その路地裏から去って行った。


その後ろ姿を見送りながら、残った男は溜息を付くと誰に言うでもなく呟いた。

「…分かっていますよ。貴方が表立って動いたら、いかにも過ぎて怪しまれてしまいますからね…」

そうして小さく鼻で笑うと、男が去って行ったのとは逆方向の闇の中へと消えていった。





キーンコーンカーンコーン…


HRが終わり、生徒達のざわめきが校舎内に響き渡る中、帰り支度をしている雅耶の元へと長瀬がやって来た。

「雅耶ー、今日は用があって俺先輩と帰るからさ、また明日なー」

「おう。またなー」

最近は一緒に帰ると言っても、結局門の所までのことが多いのだが、長瀬は毎回律儀に声を掛けてくれる。

雅耶は荷物を鞄に詰め込むと、窓際の席を何気なく振り返った。

冬樹はまだ席に着いて、教科書等を鞄に詰めているところだった。


(『一緒に帰ろう』と、声を掛けたいところだけど…)


また、唯花が門の前で待っているかも知れないと思うと、下手に誘うことが出来ない雅耶だった。

「…はぁ…」

雅耶は肩を落とすと、小さく溜息を付いた。


いい加減、この状況を打開したいと思っていた。

既に自分の中で、彼女への答えは出てしまっているから。


だが、皆が楽しみにしている合コンの、ある意味幹事役になってしまっている自分と彼女が、今ここで決裂すれば…当然合コンも流れてしまう可能性もある訳で…。

(皆に押されて渋々引き受けたとは言え、これで中止になんかなった日には、どんな恨みを買うか…分かったもんじゃないよな…)

考えただけで気が重い…。

それに、今となっては、まるで『それが生きがいだ』とでもいうように、その日が来るのを楽しみに待っている友人の姿を見ていれば、出来れば希望を叶えてあげたいとは思う。

だが…それだけの為に、いつまでもこの状態のままでいるというのも彼女には悪い気がして、雅耶は思い悩んでいた。


思わず考える方に集中していたのか…。

気が付けば冬樹の姿はもう、教室内にはなかった。

(仕方ない、帰るか…)

雅耶は席を立つと、そのままゆっくりと教室を後にした。




冬樹はひとり門へと続く並木道を歩いていた。

長瀬から用があるから今日は先に帰ると伝えられて、雅耶に声を掛けるかどうか考えて…止めた。

多分、彼女が今日も門の前で雅耶を待っているだろうから。

(流石に目の前でイチャイチャされるのは勘弁して欲しいし…)

雅耶は本意ではないと、散々訴えてはいたけれど。

きっと…あんな可愛い子に慕われたら、男なら誰だって悪い気はしないだろうと思う。


今まであまり意識したことはなかったけれど、以前、雅耶にぴったりと寄り添って並んで歩いている彼女を見て、『友人』と『彼女』との距離の違いを改めて見せつけられたような気がしていた。

男同士では、有り得ない距離感。

女の子というだけで、そのテリトリーに入り込める彼女が、少し羨ましく感じた。

だからと言って、自分が同じように雅耶にくっついて歩いているのを想像しても、やっぱり気持ち悪いだけなのだが…。


(あれ…?)

校門の傍まで来ると、何だかいつもと様子が違っていた。

彼女は、いつものその場所ではなく、学校に面している道沿いの向こう側で、数人の男達に囲まれていた。

見る限りでは、上級生達に言い寄られている感じだった。

クラスメイト達が数人、遠巻きにどうしたらいいか不安げに眺めていて、冬樹に気付くと声を掛けて来た。


「なぁ…あの子って、例の久賀の彼女だろっ?…なんかヤバイことになってねぇ?」

「何かさっきから絡まれてるみたいなんだ…」


皆、不安げにそう囁き合っているだけで、面と向かって助けに行く気はないらしい。

「………」

冬樹は無言でそちらの方へと足を向けた。

「おっ…おいっ野崎。戻ってこいっ」

「待てよっ…久賀を待った方が…」

後ろで自分を止める声が聞こえたが、冬樹は足を止めることなく近付いて行った。



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