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ツインクロス  作者: 龍野ゆうき
忍び寄る影
19/72

7‐1

ある夜のこと。


雅耶はその日、普段通り部活を終えて帰宅した後、夕食と入浴も済ませ、自室でゆっくりくつろいでいた。朝から降っていた雨は夕方には止み、部屋に風を入れる為に窓を開けていた。外からは、既に夏の虫達の鳴き声が聞こえてくる。

(何か、随分ムシムシしてきたな…)

湿度が上がってきたのか不快感を覚えた雅耶は、読んでいた雑誌をベッドに置くと、エアコンを付けようと窓を閉めに立った。窓の縁に手を掛け、何気なく暗い外に目をやる。目の前に見える冬樹の実家は、相変わらず人の気配はなく、暗く静まり返っている。

(冬樹…この家に戻って来る気はないのかな…)

そもそも、この町に越してきてから、一度もこの家に足を運んでさえいないのかも知れない。雑草に覆われた家主のいない家は、あまりに冷たく寂しい感じがする。

(きっと、まだ…色々思い出してしまってツライんだろうな…)

それでも、最近の冬樹は笑顔を取り戻しつつある。

高校入学当時と比べたら、段違いに良い顔をするようになったと思う。

(焦らなくていいんだよな…。無理してこの家に向き合うこと…ないよな…)

自分も最初は、この景色を見るのが辛かったのを思い出す。



いつも温かな光と笑い声に包まれていたこの家が、その日からずっと…暗く閉ざされたままで…。

この家のドアを叩けば、いつだって冬樹と夏樹が飛び出して来て、一緒に笑い合っては楽しい時を過ごしていたのに…二人の姿はもう何処にもなくて。


どうして、こうなってしまったんだろう?


この暗く閉ざされた家と共に、自分だけが忘れ去られ…置いていかれてしまったようで、とても悲しかった。


(でも、そうじゃない…)


一番辛く、苦しい思いをしたのは冬樹に違いないのだから…。



雅耶は視線を落とすと、窓を閉めようと手を掛けたその時。

(…誰か…いる…?)

冬樹の家の前に、佇む人影を見つけた。通りすがりに眺めている…というよりは、じっ…と、門の前に足を止めて家を見据えている感じだった。

(もしかして、冬樹…?)

雅耶は目を凝らして見てみるが、そこには丁度街灯がなく。

暗くて顔や表情まではよく見えなかった。

だが、冬樹とは少し背格好が違う気もした。


(何を…してるんだろう…?)


雅耶が眺めていると、その人物は不意にこちらに気付いた様子を見せ、足早にその場を去って行ってしまった。




「えっ?昨日…?」


冬樹は、驚いた様な表情で雅耶を振り返った。

「ああ、夜10時半位…だったかな…」

朝練が終わって教室に戻るところで丁度冬樹に会ったので、一緒に教室へと向かいながら歩いていた。

「いや、オレじゃないよ。昨日もバイトで、9時半位には店を出たけどそのまま帰ったし。そっちの方には行ってない」

昨夜、野崎の家の前に佇んでいた男のことが気になり、冬樹に聞いてみたのだが、返ってきた答えはそれだった。


冬樹とは『家のこと』について話したことがなかったので、気にする様子を見せるかな…?と少し心配していたが、別に平気そうだった。

(でも『そっちの方』…と言うからには、今冬樹が一人で住んでいる家は、ウチの辺りから少し離れた場所なのか。何にしても少し方向が違うんだな…)

実は、未だに冬樹が何処に住んでいるか俺は知らない。清香姉は、あの熱の日…冬樹を車で送って行ったというから、聞けば教えてくれるのかも知れないけど。

それは何か…面白くない。

最近、変な意地が自分の中にある気がする。


「そっか。やっぱり違うよな…。ちょっと、冬樹に似ていた気がして聞いてみたんだ。変なこと言ってごめんな」

確かに雰囲気も背格好も違う気はしたのだが。

「いや、別にそれはいいけど…。そいつ、家に何かしてたのか?」

「それが…よく分からないんだ。俺が見た時は、門の前で立ち止まって、ただ家を見上げてたんだけど…」

「ふーん…」


「もしかして…ドロボウ?とか?」


突然後ろから、俺と冬樹の間に顔を出して話に入って来た長瀬に、思わずビクッ…とする。

「…お前ね…。登場の仕方を考えろよ。ビックリするだろー」

「にゃはは。おはようー、お二人さんっ」

冬樹も一瞬固まっていたが「おはよー」…と、律儀に長瀬と挨拶を交わしている。

「でも、そうか…。長瀬の言うように、泥棒が下見してたってことも有り得るのかな…」

可能性も無くは無いのかも知れない。

俺が呟くと「でしょでしょー」と長瀬が嬉しそうに相槌を打つ。

「でも…大したものはないと思うぜ?」

冬樹が考える仕草をしながら呟くと、言葉を続ける。

「だいたい、何年も空き家になってる家に、今更…金目の物があるとは普通思わないだろ?」

「あー…確かになぁ…」

「うーむ…」

そんなことを話している内に、三人は教室へと辿り着いた。



(でも…)

自分の席に着いた冬樹は、ふと思った。

(オレ…今、家がどんな状態で置かれてるのか全然知らない…)


冬樹は叔父の家に引き取られて以来、一度も家には足を運んでいなかった。この街に戻って来てからも、少し足を延ばせば行ける距離なのだが、ずっと避け続けてきたのだ。


(オレは…沢山の思い出が詰まったあの家に戻るのが、ずっと怖かった…)

時間が経てば経つ程…それは、大きくなっていって。

あの家に戻ることで、孤独と現実を思い知らされてしまう気がして。

(でも、そんなのはもう…今更だ…)

結局は、自分の保身の為…あの家に向き合えなかっただけだ。

その勇気がなかっただけ。

目を反らして逃げていただけ…。


だが、今は不思議とそこまで重いイメージはない気がした。

(それは、清香先生や直純先生。…それに、雅耶のお陰だよな…)

以前のように『一人』に固執することがなくなった自分。

以前は『孤独でいること』こそが、一人残ってしまった自分に対しての罰だと思っていた。でも、結局それも…自分にとっての都合の良い解釈でしかなかったのだ。

そんなことをしていても、自分の『罪』が消えることはない。


この『罪』が赦されることはないのだから。


でも…それを自覚したことで、逆に気持ちが楽になった。


一人物思いにふけっている内に既にチャイムは鳴り、いつのまにか担任も教室に来ていたようだ。前で担任が出席を取り始める中、冬樹は窓の外を眺めると小さく息をついた。

(今度…家に帰ってみようかな…。様子を見るだけでも…)




「…え?お休み…ですか?」

「そう。明後日の日曜日。ROCOは、丸一日お休み」

『Cafe & Bar ROCO』店内。

夕方、バイトに入ったばかりの冬樹は、直純からの突然の報告に驚いた。

「急…ですね。何かあったんですか?それに、日曜日お休みなんて珍しい…」

バイトを始めてから、初めてのような気がする。

すると、直純が苦笑いをして言った。

「うん。もともと俺が空手の大会入ってて、本当は仁志と冬樹にお店お願いしようと思ってたんだけど…、仁志も急な用事が入っちゃってね。仕方なく今回は休むことに決めたんだ。急でごめんな、冬樹…」

「いえ、オレの方は全然大丈夫です」

(日曜日に丸々休みなんて珍しいし、何処かに出掛けようかな…?)

突然開いてしまった日曜日の予定に、冬樹は考えを巡らせていた。



そして、日曜日。


晴れ渡る空の下。

冬樹は、ゆっくりと静かな住宅街を歩いていた。

昨日降った雨が、家々の庭先の葉に雫となってキラキラと光っている。湿度が高くムシムシとしていて、今日も暑くなりそうだ。


(この辺りも随分変わったな…)

記憶を辿りながら、冬樹は直純の家である『中山空手道場』を目指していた。

事の発端は、直純からの誘いだった。

『そうだ、冬樹っ。日曜日、特に予定がないようなら…大会見に来ないか?ウチの道場でやる地元の空手大会なんだけどさ。今回、雅耶も出るんだ』

その話を聞いた時は、正直どうしようか迷っていた冬樹だったが、

『会場は自由に出入り出来るし、散歩がてら覗きに来たらいいじゃないか』

という直純の言葉にそれも良いかと思ったのだった。


懐かしさは勿論ある。

大好きだった空手。

毎回、楽しみだった稽古。

そして…。

(直純先生と出会えた場所だ…)

今みたいに、また先生にお世話になることになるなんて思っていなかったけれど。


そして、雅耶と兄と一緒に通った思い出。

兄と入れ替わって通った稽古。

稽古の後は、色々お互いに教え合ったりして遊びながら帰った。

楽しい、優しい、温かい思い出。


(思い出すと、辛いこともあるけど…)


あの日も、空手の稽古があった。

あの時…兄と入れ替わってさえいなければ…。

何度そう思ったか分からない程、後悔してもしきれない。


でも、現在の道場の様子を見てみたい気がした。

そして何より、雅耶の空手にも興味があった。


(ついでに、後で家の方まで歩いてみるのもいいかも知れないな…)

家の鍵は、こちらに引っ越してくる前に伯父から貰っている。伯父が鍵を保管していたということは、現在の家の管理も伯父がしてくれているのかも知れない。

(だとしたら、流石に中が大荒れってことはないよな…?)

少しだけ別の意味で不安になりながらも、冬樹は家に帰ってみる決心をした。



無事迷わずに道場の前に着くと、賑やかな掛け声や床に響く足音などが聞こえてきた。周囲には試合が終わったのか帰る者や、休憩をしている者など賑やかで、部外者でも門をくぐるのに特に構えず入れる雰囲気だった。

冬樹は懐かしみながら門をくぐると、試合をやっている道場へと足を向けた。



靴を脱いで道場に入ると、身内の応援に来ている者や見物人が多く、周囲は人で溢れていた。


(すごい熱気だ…)

コートは二面あって、両方で試合を進めているようだった。

(直純先生と雅耶は何処だろう…)

冬樹は入口に立ち尽くしながら、周囲を見渡していた。

すると…。

「よっ冬樹。来てくれたんだなっ」

直純先生が、人の合間を縫って奥から出てきた。

「先生…」

遠くから冬樹に気付いて、わざわざ迎えに来てくれたようだ。

冬樹が「こんにちは」…と頭を下げると、直純は「お疲れ」と笑顔を見せた。

「こっちだよ、冬樹。ついておいで」

直純が手招きをして歩き出したので、後をついて行く。

人の合間を縫って進みながらも、直純はゆっくり振り返って冬樹を待ってくれる。

少し空いている場所に出ると、笑顔で口を開いた。

「丁度良かったよ。もうすぐ雅耶の試合が始まるんだ。あいつ、次勝てば決勝進出なんだよ」

そうして先生が目で示した先に、やっと雅耶の姿を見つけた。

コートを挟んで向かい側に待機している。


(雅耶…。緊張…してるのかな…)


いつもの柔らかい雅耶のイメージとは全然違う気がした。


(いや、集中…してるんだ…)


遠くから見ていても分かる気迫。

初めて見る、雅耶の一面。


冬樹が、じっと雅耶を眺めている様子を直純は微笑んで見ていた。

「凄い気迫を感じるだろ?あいつ、最近調子いいんだ。次の相手も強いけど、お互い十分優勝狙える実力は持ってるからな。良い試合になるんじゃないかな」

直純が腕を組みながら言った。

(先生も…嬉しそうだな。教え子の成長が嬉しいんだろうな…)

冬樹は直純の様子を横から見上げていたが、「あ、始まるぞ」という直純の声に、視線をコートへと移した。


試合は、始まりの合図と同時に目が離せない、鬼気迫るものがあった。

(…すごい…)

こんなに間近で、本格的な試合を見たことがなかった冬樹は圧倒されっぱなしだった。

(雅耶…)

いつも人懐っこい笑顔を浮かべている雅耶の…真剣な眼差し。

背がある分、手足が長く…その迫力や力強さは半端ない。


見せ掛けだけの自分とは違う、雅耶の『男らしさ』を目の当たりにしてしまった気がして…。

それに衝撃を受けている自分に、冬樹は動揺していた。


「よし、勝ったなっ。俺は雅耶のとこに行ってくるけど、冬樹…お前も来るか?」

直純先生が嬉しそうに声を掛けてくる。

先生は、決勝に向けてのアドバイスや何かがあるんだろう。

「オレは良いです。ここでこっそり観てます」

「…そうか?分かった。また後でなっ」

直純先生は軽く手を上げると、コートの向かい側にいる雅耶の方へ、また沢山の人の合間を縫って歩いて行った。


コートの奥、仲間達に囲まれて笑顔を見せている雅耶を、冬樹は遠く眺めていた。

本当は、自分も傍まで行って激励の言葉の一つでも伝えて来ればいいと思うのに…。

何故か先生に誘われた時、雅耶の傍へ行くことを躊躇してしまった。

(何故だろう…。今…あの雅耶の目の前に行って、何を言ったらいいのか分からない…)

妙な不安感で一杯だった。

でも、何に対して不安になってるのかが自分でも分からない。

(雅耶が、別人のように見えるからか…?)

傍に行って、いつもの雅耶じゃなかったら…と思うと恐怖さえ覚える。

(変…だな…。何だか…胸が痛い…)

冬樹は訳の判らぬ胸の痛みに俯くと、小さく息を吐いた。




「やったなっ!雅耶っ!!優勝だーっ!!」

「おめでとうなっ!!」


試合を終えて同じ道場の仲間達の所に戻ると、皆が自分のことのように喜んで出迎えてくれた。その一歩奥で、直純先生が腕を組んで笑顔で待っていた。

「良くやったな、雅耶っ!おめでとうっ!」

「ありがとうございます。…何とか、勝てました…」

タオルで汗を拭きつつ答えると、

「なーに謙遜してんだよっ。今日の試合は本当に良かったぞっ」

直純先生はそう言って、軽く肩をポンポンと叩いてきた。そして周囲が未だに盛り上がってる中、笑い合っていると「あっそうだ、雅耶…」と呟いて、そっと耳打ちしてきた。


「そういえば、冬樹が来てるんだよ」


その言葉に。

「えっ?ど…何処にっ?」

思いきり動揺してしまった。

「コートの向こう側にさっきは居たんだけど…。あれ…?移動しちゃったかな…?」

先生の指さす方向に冬樹の姿はなく。

「俺…ちょっと行ってきますっ」

慌てて人の合間を抜けていく雅耶の背中を、

「おう、行ってらっしゃい」

直純は、穏やかな笑顔で見送っていた。




冬樹は、試合が終わって帰ろうとする人の流れに沿って歩いていた。


「冬樹っ!」

少し離れた所から声を掛けると、こちらを振り返って驚いた様子で立ち止まった。出口へと続く流れから、他の人の邪魔にならないように少し外れると、こちらを向いて待っていてくれる。

「冬樹っ…来てたんだ?びっくりしたよ。今直純先生から聞いてさっ」

「雅耶…」

やっと傍まで辿り着くと、冬樹は「お疲れ」と微笑んで言葉を続けた。

「優勝なんてすごいじゃないか。おめでとう」

「ありがとっ。自分でもまだ、実感湧かないんだけどさっ」

思わず照れながら言うと、何故か冬樹は大きな瞳でじっと、こちらを見上げていた。

「なっ…なに?冬樹っ。…俺の顔になんかついてるっ?」

変に動揺してしまった俺に対し、冬樹は少し視線を外すと、

「いや…別に、何でもない…」

そう言って小さく俯いた。


(冬樹…?なんだろう…いつもと様子が違う…?)


不思議に思いつつも、敢えてそこには触れずに雅耶は明るく続けた。

「なぁ、もう帰っちゃうのか?もう少し待っててくれれば一緒に帰れるのに…」

残っているのは閉会式だけだし、その後解散になる筈だ。

「でも、お前…祝勝会とかあるんじゃないのか?優勝したんだし…」

「えっ…どうなんだろ?そんなのやるのかな…?」

そんな話とか何も聞かない内に、冬樹を探しに来てしまったので思わず困っていると。

見物人が減ってだいぶ見晴らしが良くなってきた道場内で、向こうから直純先生が歩いて来るのが見えた。


「雅耶、打ち上げ祝勝会は夕方5時半から『ROCO』でやるぞー」

「あっはい。5時半…」

まだ3時前だし、少し時間がありそうだ。

「じゃあ一度解散…ですよね?」

「ああ、そうなるな。…冬樹、良かったらお前も来るか?昔一緒に稽古やってた知ってる奴等が何人かいるぞ?」

そう言って、直純先生は冬樹にも声を掛けるが、

「いえ、今日はこの後…少し寄りたい所があって…」

冬樹は、直純先生に笑顔を向けると「すみません」と頭を下げた。

「そうか?じゃあ、またな。今日は来てくれてありがとうなっ」

そう言って、先生は冬樹に優しい笑顔を向けると「そろそろ閉会式が始まるぞ」と言いながら戻って行った。


(直純先生って、冬樹には特別優しいよな…)


元来、優しい人ではあるけれど。

冬樹の苦労を知っているからなのかも知れないけれど…。


何だか、また…胸がモヤモヤしてきた。




「なぁ、冬樹。この後寄りたいとこって…?」

後方で「閉会式を始めるので集まるように」…という声が掛かっている中、雅耶が聞いて来た。

「ああ…家に。ちょっと帰ってみようかなって…」

「そうなんだ?じゃあ、尚更一緒に行こうぜ。なっ?少しだけ待っててよっ」

向こう側で、既に皆が整列し始めているのを横目に、若干慌てながらも手を合わせて『お願い』してくる雅耶。


(オレのことなんて放っておいてくれていいのに…)


向こうでは、仲間達が遅い雅耶を呼んでいる。

(お前には、向こうに沢山の仲間達が待っているんだから…)

そう、思うのに。

返事をしないと、いつまでもこの場にいそうな雅耶に。

「…わかった。ちゃんと待ってるから。…早く整列してこいよ」

そう答えると「了解」と笑顔で走って戻って行った。



冬樹は出口付近まで移動すると、壁に寄り掛かり、一つため息をついた。

(別に、不自然じゃ…なかったよな…?)

雅耶相手に緊張するなんて。


(オレ…どうしちゃったんだろ…)


空手をやっている時の雅耶は、自分の知ってる雅耶とは全然違くて。

その迫力と力強さに、違いを見せつけられたような気がした。

それは単に、オレがこの町を離れた後も空手を続け、実力を付けてきた雅耶に対しての羨望からなのか。どんなに男を装っていても、実際は女である自分とは違う、その力の差を見せられた気がするからなのか。

それとも…?


(何にしても、こんなに動揺してちゃダメだろ…)

冬樹は俯いて目を閉じると、大きく深呼吸をした。

乱れた心には、蓋をする。


そうこうしている内に、表彰式…そして閉会式と、滞りなく大会は終了した。

優勝者としてトロフィーと賞状を受け取り、仲間達の笑顔に囲まれて写真撮影をしている雅耶は、何故だか眩しくて…。

そして、とても遠い存在のように感じた。


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