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猿と姫の異世界旅行記  作者: 暗根
第一章 異世界の灯
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適合するモノ

「武器、やっぱりいるんじゃないか?

完全にスキル頼りはあんまりよくねえと思うしな」


そんなヴェードの一言で俺たちは武器を手に入れるために武器屋へと寄ることになった。

どうせ暫くはこっちの『世界』にいるしかないみたいなので、

いつか武器は欲しいと思ってたし、ちょうど良いと言えばちょうど良い。

…剣とかに興味が無いわけないし?

…と思って意気揚々と武器屋にやってきたわけだが…


「う、お、重い。なんだこれ。剣ってこんなに重いのか?」


…剣が重かった。

いやまあ持てないかと聞かれれば、そういうわけではない。

持つことはできるのだが、

ヴェードみたく片手で振り回すとなると結構骨…というか多分無理だ。


「訓練も無しで剣が振り回せると思ったの?

そんなに大きい剣じゃなくても、こういう剣って1.2kgくらいはあるものなのよ?

いくら異世界に来たからって脳みそまでファンタジー化してないわよね?」

「してねえよ!でも振ってみたいだろ!少しくらい!」

「身の丈にあった武器を選ぶのが一番だと思うけど?ああ、でもあなたの脳みそってファンタジー以前に猿だし分からないか」

「いつまで猿って引きずる気だよ!」

「何を言ってるの?人類だって類人猿よ。

大きく見れば猿って見れなくもないでしょう?偶々猿の特徴が脳みそにまで現れたのね。

悲観することじゃないわ」

「するよ!というか俺の脳みそは猿でもファンタジーでもねえ!」


なんで剣持っただけでここまで言われなくちゃならねえんだよ!


「まあまあ、二人とも落ち着けって。実際、アズサが言ったことは間違ってはいない。

自分に合った武器を使うのが一番だからな」


く…横でアズサがドヤ顔してるのがひしひしと伝わる…


「ほら、ゴウ。これとかどうだ?」


そう言って差し出されたのは一本の短剣と思わしき物だった。

シンプルな鞘から抜いてみると、青く輝く刀身が姿を現す。

片手で十分持てるサイズで重さもしっくりくる。振り回すのも簡単そうだ。


「確かに、これいいかも…買おうかな…?」

「お金無いでしょ。窃盗罪で捕まるつもりかしら?差し入れくらいならしてあげるわよ」

「誰も盗むなんて言ってねえだろ!

いいかなーって思っただけだよ!」


…そう、残念ながら、未だに解決していない問題が俺たちにはある。

それは…無一文であるということ。

そもそもまだここの通貨がどういったものなのかも分かっていないし、

金銭面で言えば完全にヴェードに依存状態である。

流石に早くこの状況から脱出したい。


「ははっ。気に入ったなら買ってやるよ。今は、多少懐事情がいいからな」

「え?いいのか?こんな良さげなの。高そうなんだが」

「いいって、気にすんな。まだお礼らしいお礼してなかったしな」


気前いいなあこの人。

そんなこと思ってる間に既にレジ行っちゃってるしな。


「…も、もう少し安くなりませんかね…」


…なんか聞こえた気がする。

うん、お金できたら、その時は返そう…


「で、そういうアズサはどうする気なんだよ?

俺にそんなこと言うってことは当然自分に相当合ったもの見つけてんだよな?」

「見つけられるわけ無いじゃない。

私はその手のプロでも専門家でもないのよ?それなのに自分で選ぶなんて愚の骨頂。

あなただってヴェードさんに選んでもらったでしょう?

そんなことも分からないの?」

「さいですか…」


く、何故ここまでぼこぼこに言われなくてはならない…


「…武器をお探しかい」

「うおわっ!?」


突然の声に驚いて後ろを振り返ると、

それはそれは厳つい顔をした、

林檎を片手で握り潰せそうなおっさんが…


「えっと…店員さん?」

「…店長」

「あ…スンマセン」


店長かあ。

半端ねえ威圧感出してる。

見た目もそうなんだが、内面から滲み出るオーラみたいなのが凄まじい。

この人相当出来そうだ。


「…君はさっきの短剣を使うつもりか?」

「え、あ、はい!」

「…あれは長い間使い手の現れなかった、逸品だ。使われない武器以上に寂しいものもない。大事に使ってやってくれ。君なら安心して託すことができる」


そういって少しだけ歯を見せて笑うおっさん。

そんなに売れたのが嬉しかったのか?


「さて…お嬢さん。どんな武器がお望みかな」

「お任せしてもいいかしら。

そういう知識は全然無いから」

「そうか…見た所お嬢さんは普通の武器よりも魔道具、杖などその類の物が入り用なようだ。どれ、少しだけ冒険者カードを貸してくれるかい」


そうしてアズサのカードを受け取ったおっさんは急激にその顔を曇らせた。


「そんな、いやしかしここに書かれている以上…」


そんなブツブツ言う声が聞こえてくる。

…なんかあったのか?


「お嬢さん。残念ながら、うちには君に合った魔道具は取り扱ってない。

いや、使える魔道具はあるだろう。だが君に合ったものは無い」

「え…」

「自覚があるかは知らん。

だが、その魔力量SSというのはな、はっきり言って常識の範疇を超えている。

並みの魔道具では、下手に出力を全開しようものなら壊れてしまうだろう。

うちとしても、ほぼ確実に壊れると分かっているものを売るわけにもいかない」

「そうですか…」


アズサの顔が沈む。

口ではなんだかんだ言いつつもそれなりに楽しみにしてたのかもしれない。

それが無いと言われればこうもなるよな。

俺も魔法の件で経験済みだし。

…というか出力に耐えられないほどアズサの魔力ってやばいのか?


まあ後で慰めてやるかとか考えていたのだが…


「だが、手に入らないのかと言われれば、それは別だ。可能性はある。

…無いなら、作っちまえばいい。可能性は低いがな」


□□□□□□


「ヴェード!ありがとな!」

「振り回すのやめなさいよ。危なっかしい。」

「仕方ねえだろ。こういう武器って一回は持ってみたかったんだからよ!」


そう言いながら私の隣で青白い刀身が翻る。

嬉しいのは分かるが、自重してほしい。

普通に危なっかしい。


「それで…その鍛冶屋さんとか言うのはどこにいるのかしら?」

「あー…一応俺は場所は知ってるが…あのじいさんものすごい気難しい上に多分仕事してくれないから、行くだけ無駄になる気がするんだが…」

「駄目で元々。もしやってくれれば上々。どう転んでも不利益はないわよ。

いいから連れて行って」


結局私は武器屋で私に合った武器を見つけることは叶わなかった。

なんでも私の魔力量が多すぎて普通に作られた魔道具では壊れかねないということらしい。

…自覚してなかったがSSの魔力というのは相当おかしいようだ。

いまいち実感がないせいで、喜ぶべきなのかいまいち判断に困る。


まあ、何はともあれそういう体質だったらしいので一般に売られている物だと使うのは少々厳しいらしく。

半ば諦めかけていたわけなのだが、だったら作ってしまえばいいという武器屋の店長の言葉に従って、鍛冶師の工房に直接行って作ってもらおうという話になったわけだ。


…が、ヴェードの反応を見るに相当厄介な人物らしい…

大丈夫だろうか…?

いや、きっと大丈夫。うん。


「お邪魔しまーす…」


ヴェードの挨拶の声がいつもより格段に小さい。

…そこまで苦手なんだろうか?


と考えていたところ、それを裏付けるように工房の入り口に罵声が響いた。


「また来おったなヴェード!儂はもう武器は作らんとあれほど言うたはずだ!

これ以上ここに来るのであればもう容赦せんぞ!」


と杖を振り上げて部屋の奥から現れるお爺さん。

白髪、長い白髭、鋭い眼光等々…ぱっと見た雰囲気は仙人というのがしっくりくるだろうか?

いくつもの皺が額に刻み込まれ、かなりの歳であることが窺える。

…というか杖振り上げて走ってきているのだが、杖を使う必要はあるのだろうか…?

背筋真っ直ぐだし…


「お前が来た時はロクな事がなかったからなっ!今すぐ出て行け!」

「わー!待て待て爺さん!今日は俺じゃねえ!こっち!こっちの二人だっ!

いいから杖仕舞えって!」


敵意むき出しである。二人の間に何があったんだろうか。


まあそれはさておきヴェードのその言葉に渋々といった感じでお爺さんが杖をゆっくりと降ろす。

そのまま殆ど私たち2人を見ずに続けた。


「…知っておるはずだ。儂はもはや引退した。もはや鍛冶をする事は無いと。

もう一度儂が作品を作るときは…本当に儂の目に適った人間が来るときであると。

…どういった経緯でここにたどり着いたかは知らんがのう。

悪いことは言わん。お二人ともさっさと帰りなされ。ここにいても何も手に入りはせんよ」


そう言ってこちらを見るお爺さん。

…やっぱり、そうは上手くいかないか。

半ば分かっていたことではあるけれど、少し落胆しつつ出口に向き直った。

まあ少なくとも指輪はあるし…


が、私は出て行かなかった。

正確には、行けなくなった。


「…ちょっと待ちなさいお嬢さん」


力強い声が響く。

決して怒ったりしている声色ではない。

しかし、その声は先ほどまでの少し震えていた声とはうって変わって工房の入り口で静かに響く。


振り返った私を鋭い眼光が射抜く。

その視線はゆっくりと、私の全身を捉えていく。

不思議と不快感は感じなかった。

これは『品定め』であると心の何処かでわかっていたからだけれども。


お爺さんがふっと小さく息を吐き、

その顔が少しだけ笑む。


「…お嬢さん。何が望みかな?」


声が、響く。

決断の時とか言うには大袈裟かも知れないが、ここで答えを誤れば私の望むものはもはや手に入ることはないだろう。

しかし―――私の答えは、一つだ。


「私にあった武器を。私の出力に耐えられる魔道具を、望みます」


お爺さんの笑みが広がる。

何が嬉しいのかは分かりかねるが…

この答えは正解だったようだ。


「…いいだろう。…儂は待っておった。この儂にしか作れぬ、そんな武器の使い手が現れることを」


お爺さんの目が爛々と輝く。

獲物を見つけた獣の様に、貪欲に輝いていた。


「待っておった。ようやく、ようやくこの時が来た。ああ、お任せ下され。この儂の最高の逸品を作って見せましょう」


そのままお爺さんは背を向ける。

杖を投げ捨て、そのまま奥に消えていく。

その動きは生き生きとしていて、さっき以上に年を感じさせない。


「約束は三日後。お待ちしてます。

必ずや、あなたに合う武器を作りましょう」


その言葉を最後に、お爺さんは扉の奥へと姿を消した。


□□□□□□


「つまりどういうことだよ?」


ギルドの席に座り込みながらそうヴェードに問いかける。

何のことかというと当然さっきの爺さんについてなんだが。


「あの爺さんはな。前からずっと次作る作品、まあ要するに武器なんだが、それを最後で最高の作品にするっつっててな。

腕は確かな爺さんだったから、その最後を手に入れるためにいろんな人があの爺さんも下に訪れたんだが全員門前払いだった」


俺もその一人さと笑うヴェード。

まあ欲しくなる気持ちも分からなくはないかな。誰でも良いもの欲しいに決まってるし。


「ずっと武器を与えるに相応しい者が来るまで待つつって聞かなくてな。

そのうち相手にされなくなっていったわけだが…」

「…アズサが爺さんの封印を解いちまったって訳か。でもなんでだ?」

「そんなもの私が超優秀だからに決まってるでしょ。さては本物の職人ね。いい目してるわ」

「どっから湧いて来るんだその自信…そういえば、みんなアズサの魔力量見た途端に腰抜かしそうになってたけど、そんなにやばいのか?」

「あーそれはだな…」


が、その答えを聞くことはできなかった。

突然ギルドの扉が思い切り開かれたのだ。


「報告!森林調査部隊より緊急報告!

ウルフの、ブレードウルフの大群が森林奥地より街へと進行して来るのを確認!その数約500と想定されます!」


平和だった時間が、終わりを告げる。

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