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猿と姫の異世界旅行記  作者: 暗根
第一章 異世界の灯
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発現する力

「まあ…ゴウ。気を落とすな。魔法が使えなくても大丈夫だからな…」

「るっせえ!なんでだよっ!なんでよりによって、一番やりたかったことができねえんだっつーの!

魔法!魔法使えねえってなんだよくっそおおお!」

「…ゴウ、同情はしてあげなくもないけど五月蝿いわよ」

「五月蝿くもなるさ!お前はいいよなあ!魔法使えるんだし!つーかなんかすげえこと言われてたし、さぞかしすげえ魔法使えるんだろうなあ!あー!俺の夢えええええ!」


…いやまあ、その点は真面目に同情こそするが、頼むから周りに人がたくさんいるギルドの中で叫びまくるのはやめてほしい。

さっきから周囲の筋肉ダルマの方々がチラ見どころかガン見してきていてものすごく落ち着かない。


私たちはあの後、とりあえず冒険者登録を終わらせるためにロビーの受付へと戻ってきていた。


「…えー、と、とりあえず冒険者登録はこれでおしまいね。

はい、これカード。無くしちゃだめよ」

「ありがとうございます。…ゴウ、睨んでないで受け取りなさいよ。結果は結果でどうしようもないでしょ」

「く…神がいるなら、ぜってえ許さねえ…」


…恨み言多すぎでしょう。受付嬢さんが若干引いてるし…。


受け取ったカードは軽い金属製だった。

名前と一緒に冒険者ランクがCと書かれている。


「それから…アズサさん。あなたにはこれも」


そう言って手渡されたのは銀色の指輪だった。

…どうしろというのだろうか。装飾品関係は余り興味が無いのだが…。


「それはね、魔法が使える人に必ず渡している物なの。

魔道具ってわかるかしら?」


…また聞いたこともないような単語が出てきた。

当然知るわけもないので首を横に振る。


そこから聞いた話によると、

魔法は、ただ魔力があるだけでは使えないらしい。

何もない状態だと、体内にある魔力を外に放出し気化魔力に干渉することができない。

気化魔力への干渉がいわゆる魔法に相当するものなため、それができないということは魔法が使えないということになる。

それではどうするのか。ここで先ほどの『魔道具』の登場だ。

魔道具は体内の魔力を外に放出するために作られたもので、

これを体につけるなりしておくことで気化魔力に干渉し、現象を引き起こす、すなわち魔法が使えるという状態になるということだ。


「この指輪は一般的に世に出回ってる一番基本的で性能の低い魔道具なの。

いちおう魔法は使えるようになるけど、気化魔力への干渉効率が悪いからあんまり大規模な魔法は使えない。

まあ簡単に言えばあくまでも魔法のお試し程度に使って頂戴ってことよ」


…つまり、逆を言えば、性能の良い魔道具を手に入れることができれば大規模な魔法――どんなものなのかは分からないが――が使えるようになるということだろうか。


「魔法の使い方が分からない時は私に聞いてもいいし…、そこのヴェードも一応魔法の使い方知ってるはずだから聞いてみるといいかもね」

「一応とはひどいな…下手なのは確かだが…」


その指輪を、はめてみる。

こうやってしてみるとただの指輪にしか見えないのだが…本当にこれで魔法が使えるようになるのだろうか?


「じゃあ、登録は本当におしまい。また来て頂戴ね」

「…ええ、また、来ますね」

「魔法…」


…いまだにいじけ続けているゴウはともかく、

こんな物が手に入ったらどうしたいか。

…決まっているだろう。私だって人間だ。

こんなにも好奇心を刺激する物体を目の前にして…どうするかなんて一つだ。


「…ヴェードさん。お願いがあるんだけど」

「何だ?俺にやれる範囲のことなら言ってみろ。」

「…魔法を使っても大丈夫そうな場所ってないかしら。」


□□□□□□


吹く風が私の頬を撫でる。


「ここなら大丈夫だろ。何にもねえ平原だからな。

草地に向かって魔法の試し打ちなら大丈夫なはずだ」


ヴェードが連れてきてくれた場所は街から少し離れた場所の平原だった。

道からも少し外れたその場所は緑の草原がかなり先まで広がっており…

まあ、簡単に言えば、何もない。本当に正しく、何もない。

ところどころに木が生えてるのを除けば、見渡す限りが緑一色のそんな場所だった。


「なあ、アズサ。魔法って何使うんだよ?

こうなんかド派手なのバーン!ってやってくれ!」


何時の間にか復活したゴウがそう悲願してくる。

確かに、そっちの方が分かりやすいし、見た目的にも綺麗だろう。

…でも、ちょっと待ってほしい。私は魔法の天才でもなければ、そもそもここの住人じゃないのだ。


「…それで、どうやって魔法って使えばいいの。

ヴェードさん」

「あ…」


ゴウ…あ、じゃない。私はいたって普通の人だ。

忘れないでほしい。


「んーそうだな。俺は詳しいことは分からねえから感覚を教える感じになるが…

それでもいいか?」

「とりあえず、使えるかどうかだけ試したいだけだから、なんでもいいわ」

「そうか。じゃあ今から言うとおりにしてくれ。たぶんできるはずだ。

ああ、ゴウ、少し危ないから俺の横にいてくれ」


ゴウがヴェードの横へと移動する。

そうして私は一人、二人から少し離れた草地で真っ直ぐ立つのだ。


「まずはさっきもらった指輪してるよな?

その指輪があるほうの手を前に突き出す感じで上げるんだ」


その言葉に頷きつつ言われたとおりに腕を上に上げる。

片腕だけを前へと突き出している状態だ。

異世界の昼の太陽が右手の薬指にはめた銀色の指輪を照らす。

…鈍い輝きだ。この光を放つ指輪が、本当に私を、その魔法という奇跡へと導いてくれるのだろうか。


「そこでだ。ここが一番難しいんだが…体の中にある魔力をイメージして、

それがその指輪…手の先へと集まるようにしてみろ」

「え…そんなことどうやって」

「あー…これは本当に感覚なんだ…俺からはそういうものだからそうするしかないとしか言えん。

とにかくやってみるんだ。コツさえ掴めばすぐにでもできるはずだからな」


…難しいことを簡単に言ってくれる。

こちらは無かった物をあると認識するだけでも大変だというのに。

さらにそれを動かせとか。普通に考えて無理だろう。

―――それでも、やってみようじゃないか。

だって、そうするだけの価値があるだろう。

そうするだけにおもしろい物じゃないか。

やれなくて当然。なら、もしやれればそれは、ものすごく楽しくなりそうじゃないか。


目を、閉じる。

心を落ち着かせ、雑念を振り払い、自分の中へと入りこんでいく。

体を隅から隅まで探索していくようなそんな感覚。

言うなれば、知らない人を人ごみから探す感覚。

砂漠の中でガラスの破片を探す、そんな感覚。

どんなものなのか、そんなのは分からない。どこにあるのか、それすらもさっぱりだ。

ただただ、訳の分からないものを目指して、ひたすらに、自分の中を探し続ける。

そして、私は、どこなのかも分からないその場所で立ち止まる。

ここだと、何かがそう告げていた。

――瞬間、私は、それを理解した。


ふっと現実に引き戻される。

はたから見れば何も変わっていないように思えるだろう。

だけど、確かにそれは、私の中にあったみたいだ。


感覚として、何かが変わったわけじゃない。

でもなぜか今は分かる。さっきまでは知覚できなかった自分の中のその存在が、今の私には分かる。

――これが魔力というものか。


上げた腕に目がいく。そこに向かって、魔力よ動けと、…思わない。

ただただ自然に、勝手にそこに魔力が動くのが、分かる。

私の中に現れたそいつは、何も考えずとも、私の手足のように自然に動いた。

――手先へと、新しい感覚が集まってゆく。


自然と口から言葉が紡がれる。

この世界へと落とされて、最初に見た、私が知っている、魔法――


「ファイア」


刹那、『世界』が動いた。

手の先を何かが渦巻く。

体の中から何かが吸われていく感覚と共に、手の上が光り輝き―――


微かに、ボッと音が鳴る。

――不思議と熱さは感じなかった。


私の、人生で初めての魔法が、発動した瞬間だった。


―――炎が煌々と私の手の中で輝く。


「おおっ!すげえ!」

「おお、もうコツを掴んだか。やっぱり才能あるんじゃないか?

…つーか炎、かなりでかいな…伊達にSSランクとか言われてたわけじゃなさそうだな」


これが、魔法。

普通ではありえない小さな奇跡が私の手の中で巻き起こる。

そのまま炎を出したり消したりを繰り返す。

コツさえ覚えてしまえば後は楽。

考えずとも、体の中を流れる魔力が伝わってくる。

満足感と共に、私の中でもう一つ、新たに芽生える好奇心。

―――他のも、使ってみたい。


「ヴェードさん…他の魔法、教えてくれない?」

「ああ、別に構わんが…疲れてないのか?初めて魔法を使った時なんざしばらく疲れて動けなかったもんだが…」

「大丈夫よ」

「…さすがだな。魔力量が桁違いか」


少し気怠いことが無いといえば嘘になるが、動けなくなるほどではない。

それに、今はそんな体のことよりも、こっちの方が重要だ。

…こっちの『世界』に来たのが突然なら、帰るのも突然かもしれない。

そうすれば、私は再び変わらない繰り返しの世界へと、縛られ自由の利かない世界へと戻ることになるだろう。

だったら、せめて、今を楽しむくらいはいいはずだ。


「じゃあそうだな、基本的な魔法しか俺は知らねえけどそれでいいなら…」


□□□□□□


…いいなあアズサ。


俺が見ている横でアズサの手からなにやら色々出てきている。

一番最初の炎を筆頭にして、水が出るわ風が出るわ――扇風機みたいで結構気持ちよかった――等々。

まあ確かに俺が望むような派手な物とは言い難いけれど、

それでもやってみたかったなあ…。


くそ、適当にやったら俺にもできたりしねえかな?

こう手を前に突き出すだろ。で、なんかこう指先に集中させる感じでこうポンって…。


手の先が急に重くなってバランスを崩した。


「うおわっ!」


思いっきり前へとつんのめる。

―――いきなり、何が…?

と思って手を見やると…。


「え、あ!?また銃!?は!?」


…また銃が手元にあった。


「ちょっとゴウ、いきなり前に出てこないでよ、死にたいの?自殺願望でもあるわけ?

しかもなんであんた銃構えてるわけ?何?やる気?」

「いやいやいや!違うから!」」


そう、今俺の手元にあるのは、先日狼との戦いで使ったものではない。

というか、そっちに関しては今腰に差したままなので、今俺が手に持ってるこいつはまた突然どっかから出てきたということになるんだが…。


「ゴウ、どうしたんだ?危ないぞ」

「い、いや、なんかこう魔法使えないって言われたけどちょっとやってみたくなって

アズサの真似したらいきなり手の中にこれがポンッ!って出てきて…」

「…ちょっと貸してくれ」


そう言われてヴェードにその銃を貸す。

形状的には今回のは拳銃っぽいのかな?


「…魔法で作られた物質ってわけじゃあなさそうだな…

ちゃんと形があり、重さもある…俺には何に使うかは分からんが、これは魔法じゃあないな」


…じゃあなんだってんだこれは?


「これ、最初にやったのはいつだ?最初にこんな感じのがいきなり出てきたことあったんじゃないか?」


…そりゃ、あったな。

忘れようにも、あの状況は忘れようがない。


「ああ…ここに来てすぐ、ヴェードと会う少し前だったと思う。

そう、あの狼たちに襲われた時だ」

「成程ね…」


少しヴェードが目を細めて、何か考え込むような様子になる。


「…この世界には、魔法の他にもう一つ、謎の力とでも言うべきものがある。

欲しても手に入るかは分からず、望まずとも勝手に手に入ることもある。

俺たちはそれを『スキル』と呼ぶ」


スキル…、聞き覚えのある単語だ。

俺のやっていたゲームでは技とかそんな感じの意味だったが…。


「『スキル』は魔法と違って一切の法則性がない。基本的に『スキル』一つにつき一つの能力しか使えないから、魔法と違って万能性は無いが、その能力は如何なるものの影響も受けない。制限がないんだ。例えば、無から物体を作り出したりな」


つまり…俺のこれは、


「『スキル』ってことなのか?これは」

「多分な。『スキル』は何か無意識の内に強い望みを持ったときに発現すると聞く。

お前の狼を倒したいという思いが『世界』に働きかけたんだろう」


再び、手元に何かを引き寄せるように、力を込める。


―――一瞬だった。


手の内に新しい銃が出現する。


「やっぱりな。お前のそれは『スキル』

世界の理から外れた力だよ」

「…なんだ。あんただって、とんでもないもの、持ってるじゃない」


…そうか。そうか。どうやら神はまだ俺を見捨ててはいなかったようである。


「…よーし!魔法は使えねえけど、なんかとんでもねえもの持ってたぜ!

やっぱこういう所に来たならこういう力が欲しいよな!まだまだ『世界』も捨てたもんじゃねえぜ!」


―――その後、銃を生み出しすぎて、処理に困ったのは目をつぶってほしい。

テンション上がってたんだよっ!


□□□□□□


広くはない部屋に、二人の人影があった。

片方は、ギルドで受付嬢をして4年になる女性。

もう片方は、ギルドを取り仕切る管理官とでも言おうか、ギルド長である。


「…して、魔力量SSランク、規格外が現れたとは本当か?」


初老の髭の男性、ギルド長がそう問う。


「はい…測定の為の水晶球が光を放ってはじけ飛びました…

あんなことは一度たりとも見たことがありませんでしたから。

Sランク…通常の魔力量の最大量までは測定可能だった筈ですし…」

「ふむう…水晶球の異常などではないのだな?」

「ありえません、今朝メンテナンスしたばかりですから」


男の顔が曇る。

――SSランクの魔力を持った者が世に現れた前例はほとんどない。

それこそ、最古の時代に生きた、大賢者くらいのものである。

歩んだ道には奇跡が起こったとまでも言われた伝説的な存在であるのだ。


…そんな存在と下手をすれば同格の存在が、再び世へと現れたのだ。ただ事ではない。


「それで、その者は今はどこに?」

「おそらくこの街にいると思われますが…どうするべきでしょう?」


間を開けて、男が答える。


「…何もしなくていい。何かしたわけではないのだろう。だったら、私達ギルドは、あくまでも普通に接するべきだと私は思う」

「…分かりました。では、私はこれで」

「ああ、報告ご苦労だった」


男が一人、部屋に残される。


「…何か起こるやも知れんな…」


部屋を照らす蝋燭の光のように、ぼんやりした希望とも不安とも言えない予感が、男の頭をよぎった。


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