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猿と姫の異世界旅行記  作者: 暗根
第一章 異世界の灯
4/11

冒険者ヴェード

冒険者…ってなによ?


「ねえ、冒険者って…何?」


アズサがヴェード?とか言ってたっけ?

に聞いている。


「ん?君たち、冒険者のことを知らないのか?

それなりに有名だと思うんだが…」


おっさん…じゃないらしいけど、ヴェードが走りながらつぶやく。


そう、俺たちは今ちょうど走っているのだ。

狼たちはいなくなったわけだし別に急がなくてもと思ってたんだが、


「馬鹿言うな!あいつらは一匹いたら百匹はいると思え!」


というゴキブリにも通じそうな一言により、大急ぎで逃げることになったのである。

…とまあそれは置いといて、


「冒険者っていうのはな、ギルドってとこで依頼受けて、魔物倒したり、

軽いお使いとかやりながら生計立ててるやつのことを言うんだよ」

「…魔物?ギルド?何の話だ?ゲームか?」

「…おいおいまさか魔物も知らねえのか…?」


知ってて当然な顔されても困るという。

魔物だなんだとかゲームでしか見たことねえよ。


「知らねえな。なんだそれ?」

「魔物っていうのは…ん、というかちょっと待て。

君たちどっから来たんだ?」

「ん?俺は日本だけど」

「私も日本ね」

「ニホン?あー…そういうことか。」

「一人で納得してないでくれよ。どういうこった?

というかそもそもここ何処なんだ?」

「何処か…たぶん言っても分からんだろうが…

ここはメランコリン森林。南西大陸最南端くらいに位置する辺境の地だよ」


南西大陸って…?というか名前の響き的に日本じゃねえよな?

海外にワープでもしちまったのか?


「…南西の大陸じゃ分からないわよ。

いったいどこの国なのここは。…少なくとも海外っぽいけど…」

「残念ながら、たぶんここはそのカイガイとか言うとこってわけでもない。

ここは王国が取り仕切る巨大大陸だ。そこに固有名称はない」

「…王国?というか海外でもないって一体…?

まあ確かに海外ならなんで言葉が通じてるのか不思議だけど…」


と、そこまでヴェードが喋ったところで、何かが俺の頭の中ではまる気がした。

―――中世みたいな服装をした男に、突然襲い掛かってくる狼の群れ。

聞いたこともない魔物という存在に、海外でもないこの場所は―――


「…もしかしてこの場所は…」

「なによゴウ。知ってる場所だったの?」

「…地球じゃない?」

「…は?」


とそこまで言ったところでヴェードが足を止め、

振り向き、こう言い放った。


「…俺も実際会うのは初めてだが…ようこそ俺たちの世界へ。

『俺は』歓迎するぜ。異世界人」


□□□□□□


…異世界?何を言っているのだろうかこの人たちは。


「…何を馬鹿なことを…そんなことが現実にあるはずが…」

「だが、たぶん現実だ。少なくとも俺は実際にここにいる」


そう言い放つヴェード。

…確かに言われてみれば、おかしなこと続きだった。

朝起きたらいきなりここにいたのはもはや考えるまでもなくおかしいのでさておき、

その後だって十分おかしい。

突然狼に襲われ、それを銃を虚空から生み出した少年――ゴウが倒し、

叫び声を聞いて行ってみれば、なぜか剣と鎧という、現代では

まずありえないような恰好をした男がいて…


「…納得したか?いや正直俺も本当に君たちが異世界人なのか自信はないんだがな。

なんせ、滅多に会える相手じゃないしな…」

「…な、何かこう完璧な証拠を…」

「あー…まあそうか。…なけなしの魔力だがいけるか…?」


そう言ってすでにボロボロになっている腕を少し前に出すヴェード。

…何をする気だろうか…?

といった思った瞬間だった。

―――ぼっ

ものすごく、淡泊で単純で…でも、ここで起こってはいけない音が響いた。


――火がついてた。しかもヴェードの手のひらに。


「…っとこんなもんか?異世界から来たやつは魔法を知らないらしいから、

見せると驚くって誰かに聞いたような気がしたからやってみたんだが…」

「!おい、ヴェード!なんだそれ、魔法ってマジか!?」

「ん、ああ、そうだが…そんなに驚くことなのか?」

「当たり前だろ!子供の時から誰もが一回は夢見ることだろ!

というか本当になんか違う世界に来ちまったのか俺たち!」

「…信じるしか…ないわね。さすがに…」


当たり前のように手のひらで巻き起こるありえない現象。

…信じざるえないだろう。

オカルトとか魔法とか、ずっと信じてなかったし、おこるものでもないと思ってた。

今、まさに一瞬でその私の常識が崩れ去ったのだった。


「…っと、いかんいかん。これ以上やったら魔力切れになっちまう」


出た時と同じく一瞬で炎がスッと手のひらから消える。

…どういう構造してるのだろうか…。


「…なんか、アズサ。すっごい目がキラキラしてね?」

「…しかたないでしょ。目の前でこんなにわけわからないことが起こってるのに…

気にならない方がおかしいわ」

「まあ確かにな!なあ、ヴェード!それ俺でもできるのか!?」

「今は分からん。街に戻れば分かるだろうが…よし、早くこの森から出てしまおう。

そろそろ抜けられるはずだ」


…気づけば、生い茂る木々で暗かった辺りが幾分か明るくなっている。

木の量が減ってきたようだ。

やっと、森を抜けれるらしい。


「…ヴェードさん、この先って何があるの?」

「ああ、この先は街がある。…俺の故郷さ。ちっちぇえけどな。

お、森抜けたっぽいな」


その先に広がるのは草原だった。

青々と草地が広がる中、整備されていない茶色い土が見える道が走っている。

そのすぐ向こうには壁に囲まれた街が見える。

確かに大きな街ではないようだが、私にとってはなんだか新鮮だ。

ここにきて、ようやくハッキリ見えた空は真っ青で、

先ほどまで下手をすれば死ぬかもしれない状況にいたことを

忘れるほどだった。


…ここに来るまで、私の世界は狭かった。

家に半ば閉じ込められるような状態で、

自分の自由なんてほとんどなかった。

見える景色はいつも同じで、代わり映えのない同じ日常に飽き飽きしていた。

…もしかしたら、こんなことが起きるのを心のどこかで、願っていたのかもしれない。


「…世界って、広かったのね…」


眼前に広がるその景色に、私は思わず呟いた。



「…」

「…サ」

「おーい!アズサ?どうした?」

「え、あ、な何でもないわ」

「どうしたんだよ。いきなり反応無くなるから驚いたぜ」

「いや、景色見てただけよ」

「ん?そうなのか?まあ確かに綺麗だなここ」


…少し感動してたのにこれである。

空気読んでほしい。


「…ヴェードさん。行きましょう。さすがに、疲れてきたし」

「そうだな。まあ、もうここは危険な生物はいねえから気楽に行こうか」

「そうだ、ヴェードさん。歩きながらでいいから、もう少しここのこと教えてくれない?」

「そうだな。まあゆっくり語るとしますか」


そこからの話は聞いたことも――少なくとも私は――無いものだった。


ここは――分かりにくいので『世界』と表現する――四つの大陸からなっているらしい。

それぞれ大陸ごとに主になる国家が違い、

それ故に全く違う文化などで構成されているらしい。

今私たちがいるのが南西の大陸。

王国と称されるここは話を聞く限り、

中世の様で、剣や鎧が出回り、魔法に最も長けているんだとか。

絶対王政ではなく、議会政治してるらしいけど。

南東に位置するのが、

倭国とか呼ばれる場所。

…長ったらしく説明してくれたヴェードには悪いが、一言で言えば嘗ての日本のようだ。

なんでも閉鎖的であまり外の人を歓迎しない傾向にあるとか…。

北東にあるのが帝国。

科学に長けているらしく、

話を聞く限り現代日本くらいの文明が

あるみたい。

そして北西大陸。

魔国と呼ばれるこの場所は、

人が訪れるには危険すぎて誰も行こうとしないらしい。

内面なんて調べたことがないとか…


そしてこの『世界』最大の特徴が、

魔法の存在。

この『世界』では切っても切り離せない存在で、これを使わないと生活が成り立たないらしい。

その内容は、日常生活に使うものから、

攻撃のために作られたものまで非常に多岐にわたるそうだ。

大気中に存在する気化魔力とかいうのに干渉することで、現象を直接引き起こすものらしい。それによって物理的に不可能なことをも可能にしてるということだ。


そして、魔物という存在。

その気化魔力が高密度になると発生する魔物と呼ばれるモンスター――といっても先ほどの狼のように普通の生物と似ているのもいる――がこの『世界』には多数存在しているらしい。

非常に攻撃的かつ危険な存在で、さらに大気に気化魔力が存在する限り無限に湧いて出てくるためなお

性質が悪い。

そんな危険かつ面倒な存在ではあるのだが…一方でそこから手に入る素材は

非常に扱いやすく、この『世界』を構成するこれまた欠かせない物の一つとなっている。

危険と言われてる存在に頼らないといけないとはなんとも矛盾している気がするが…


さらに、当然そんな危険ではあるが価値の高い素材を持っている魔物なので、

当然それを狩ることを仕事とする人間もいるわけで。

それが『冒険者』と呼ばれる存在らしい。

彼らは依頼という形で、様々な仕事を引き受けるわけだが、

そこに、魔物狩りというものも含まれるそうだ。

なんでも、危険なだけ報酬も良い為、その手の依頼は好まれる傾向にあるとか。


…なにはともあれ、この『世界』は間違いなく、私たちがいたもとの世界とは違うわけで、


「…おもしろくなりそうね…」


と、思わず呟いたのは許してほしい。

だって、ものすごく楽しそうじゃないか。

確かに危険なのかもしれない、が、それに勝って私の耳には魅力的に聞こえた。

私の知らないことばっかり。

原理不明の魔法。聞いたこともない場所。

どれもこれもが私の興味をそそる。

理解できるのか。できないかもしれない。

でも、それでもかまわない。

どうやら、時間だけはあるようだから。

ここは私たちの世界から切り離された新しい『世界』。

なんで来たのかは分からないけれど、…私はここでは自由だ。


「…つまりどういうことだよ?」

「理解しなさいよ。大して複雑な話でもなかったでしょうが」

「いや、俺こういう話聞いてもサッパリ…

ま、アズサが理解してるみたいだし大丈夫だよな!」

「あんたね…さっき猿みたいって言ったけど、知能指数まで猿な訳?」

「いやー。難しい話はアズサに任せるぜ!

適材適所って奴?あと猿じゃねえ」

「うっさい猿。せめて理解する努力くらいしなさいよ。

思考放棄しないで」


…私がいなくなったらこいつはどうする気なんだろうか。

と思っていた辺りで、目の前にそこまで大きくもない門が出現した。


「まあ今話せるのはこんなもんだ。

ほら、着いたぞ。辺境街ファレス。

俺の故郷さ」


□□□□□□


草原を歩ききった俺たちは

丁度木でできた門の前にいる。


途中ヴェードがこの『世界』ってやつについて話してくれたが、

小難しいし長ったらしいので半分も理解出来なかった。

アズサからの視線が痛いが、気にしてない。

…ほんとに気にしてないってば。


まあそれはさておき…


「ヴェード、どうすんだ?

どう見ても門閉じてるけど…」

「ああ、開けっ放しだと魔物が入って来る可能性があるからな。普段は閉じてるのさ。

おーい!門兵!」


とヴェードが大きく声を上げると

兵と名のつく割には安っぽい武装をした男が歩いてきた。


「うるせえっつーの。聞こえてる。

…何時もより遅いじゃないか?」

「…ちょっとな。ああ、あとこいつらの手続き頼んでいいか?」

「ん?今時冒険者カードも持ってないとは珍しいな。じゃあ、お前は先入ってな。

君たちはこっちに」

「じゃあ君たちはあいつについて行ってくれ。俺は街の中待ってるからよ」


と言ってヴェードは門の中へと消えていく。

俺たちはなんか手続きがいるみたいだな。

…というか冒険者って意外とメジャーな職っぽい?

いや職なのかも定かじゃないけど。


そうやって俺たちが通されたのは、なんだか取調室を思わせる門の横の小さな部屋だった。


「いや、すまないね。こんなところに来る人に悪人なんていないとは思うけど、

一応これ仕事だから」

「いや、別にいいけど。なにすればいいんだ?」

「ああ、いくつか質問に答えてくれればいいよ。

特に問題なしと判断したら、門を開けるから」

「成程な。じゃあさっさと始めようぜ。正直俺たちも疲れてるから、

早く街に入って休みたいんだ」

「それじゃあ、質問始めるよ?まず、名前教えてくれる?」

「私はアズサ。こっちはゴウよ」

「ちょ、それただのあだ名…」

「じゃあ次。どこから来たの?」

「え、そりゃ当然にほ…ん!?」


とそこまで言ったところで思いっきり口を

アズサに押さえつけられた。


「ああ、えっと、島ですね。かなり遠くの」

「んー!んー!」

「…えーと何してるの?」

「ああ、お気になさらずに。吐きそうだったので抑えてあげてるだけです。優しいでしょ?」

「んー!!」

「ま、まあいいか。島?具体的には?」

「全然有名じゃないので名前無いんですよね。

あまりにも辺境の場所にありすぎて」

「ああ、成程ね。通りで変わった格好してると思ったよ。

じゃあ最後。何しに来たの?」

「ああ、観光です。初めて島の外に出たので色々見て回りたくて」

「…よし。こんなもんだろう。問題ない。入っていいよ。

じゃあこれ仮の通過許可証ね。とりあえず、中に入ったら冒険者登録しておくといい。

そうすれば、どこに行っても冒険者カード見せれば入れてもらえるからね」

「ありがとうございました。ほら、いくわよ。ゴウ」

「んー…ゲホッ!ったくいきなり何しやがる!」

「いいからいいから」


そのまま引きずられるように門を通る。


「…なあ?なんで嘘つくんだよ?

別に言っても分からねえだろうし本当のこと言えば…」

「…さっき、森を抜ける辺りでヴェードさんなんて言ってたか覚えてる?

あの人ね、『俺は』歓迎するって言ったのよ。

逆に言えば、私たちは基本的には歓迎されてないってことじゃない?」

「そうかあ?単純に歓迎しないやつもいる程度の認識でいいんじゃないのか?」

「用心にこしたこともないでしょ。…少なくとも、現状、私と同じ世界にいたのは不本意ながらもあなたしか今は居そうにないし…別の世界から来たってことは言わない方がいいんじゃないかしら」

「不本意ながらってどういうことだよ、不本意ながらって」


まあでも、アズサの言うことも最もかもしれないな。

普通に考えても別世界から来ましたーとか言っても正気を疑われるのがオチだよな。


「…まあそうだな。俺も気を付ける。…だけど、名前偽る必要なくね?」

「…素で間違えたわ」

「おいっ!人の名前間違えんな!」


そんなことを言いながら、俺たちは、街へと足を踏み入れたのであった。


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