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猿と姫の異世界旅行記  作者: 暗根
第一章 異世界の灯
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新たな目覚め

「ん…」


かかっていた霧が晴れるように、私の意識がゆっくりと浮上していく。

私の目に映ったのは見慣れない…正確にはまだ見慣れない天井が映った。

使い古された感じがありありと伝わるその場所は、私たちが泊まっていた宿の物だろう。


ゆっくりと体を起こす。

まだ朝なのだろう。少しだけ肌寒い。

毛布で体を包み込みながら記憶を思い起こす。


私は狼たちの襲撃が終わりを告げるとほとんど同時に意識を手放した。

戦闘に参加していない人間がいきなり倒れたのだ。

周囲にいた人たちも驚いたのではないだろうか。

…誰かがここまでわざわざ連れてきてくれたのだろう。後でお礼を言わなければ。


と、そこまで考えたところでとんでもないことに気付く。

――二人は、ゴウとヴェードは無事なのか。

戦闘が終わってからすぐに意識を飛ばしてしまったので、当然二人のことは見ていない。

死んでも死ななさそうな二人なので大丈夫だと思いたいが…さすがに心配しないはずがない。

ゴウに至ってはしっかりした戦闘自体が初めてなのだ。

その手の事には慣れているヴェードが手助けしてくれたはずではあるが、心配なことに変わりはない。


慌てて確認に行こうと立ち上がりかけた所で微かな寝息が聞こえた。

横を見るとベッドの一部が盛り上がっている。

少しだけ覗いてみると…涎を垂らしてアホみたいな顔をさらして眠っているゴウがいた。

…帰ってきていたのか。

ほんの少し安心したが、ヴェードはやはりこの部屋にはいないようである。

――ギルドまで行けば何か分かるだろうか。


寒いのを我慢しながら毛布をその場に畳んで部屋を出るために出口へと向かった。

…そういえば、体汚いままだな。これもヴェードがいないと今のところどうしようもないんだけど。


ドアに手を掛けようと前かがみで手を伸ばしたその時、強烈な衝撃を額に感じた。

言うなれば金槌で頭をたたかれたような強烈な衝撃で思わず後ずさってしまう。

痛む場所を手で押さえながらドアを見ると、


「あ…すまん。起きてたのか」

「…生きてたのね。でも、今ので死んで来てほしい気分になったわ」

「いやまさか起きてるとは思わなくてな…」


気まずそうに突っ立ってるヴェードがいた。


□□□□□□


「いや、すまない。本当に起きてるとは思わなくてな…」

「だからってあの勢いは無いわよ。ドアを壊す気なの?…まあ、別にいいわよ。そこまで気にしてないし」


若干赤くなってしまった額を氷で冷やしながらそう返す。

…あの後すぐに冷やすものを用意してくれたので、まあ許してやろうと思う。


「ゴウは…」

「見ての通り。アホ面引っさげて寝てるわ。…しかたないといえばその通りなのだけど」

「…まあ、いきなりあんな戦闘すれば誰だってこうもなるさ。寝かせといてやってやれ」


起こす気なんて最初から毛頭ないのだけれど。

…さすがに疲れているのは嫌でも分かる。


「…そういえば、お前も倒れたって聞いたが…大丈夫なのか?」

「私は平気よ。もともと体力もないし倒れることもあったからこんなこと慣れっこだわ」

「そうか。ならいいんだが…」

「…まあ、今回倒れた原因は疲れでも、戦闘を見ていた所為でもない気がするけど…」


ヴェードの頭にクエスチョンマークが浮かんだように見えた。

…まあ、そりゃそうもなるか。私があの場所でやったことを知ってる人間はいないはずだし。


「…スキルを、使ってみたの。その反動が私にも来たんじゃないかしら」

「使ってみたって…それ、そんなに簡単に使えるようになる代物じゃないぞ普通…」

「でも、なんなのか分からない力を使ったのは確かだわ。魔法って感じでもなかったし」


訳も分からず私が行った何か。

今思えばあれはスキルと呼ばれる物を私も手にしてしまったということなのではないだろうかと思う。

私が白い空間で縛り上げた赤い物。

あれに連動するように外の狼までも動きを止めていた。

どう考えてもありえないことだろう。

そのありえないことを起こす、世界の理から外れた力。それがスキルだっていうのならきっとそうなんだろう。


「それで…どういうスキルだったんだそれは」

「…こういうのかしら」


スッと、何の抵抗もなく私は白い場所にいた。

目の前に先日とは違う形の青い物。

それを軽く突っついてみる。


「痛っ!なんだ!」


その声で現実の世界へと帰ってくる。

目の前ではヴェードが何故か痛そうに頭を押さえている。


「な、何したんだ。一瞬頭痛みたいなのが…」

「それが私のスキルみたいね。…詳しくは不明だけど」

「…頭痛を起こすスキルか?」

「…違うわ。…説明しにくいけど、相手の内側へと干渉して、縛り上げたりできるみたい。そうしてる間は相手の動きが止められるから…」


繋縛心魂ソウルバインド

それが私のスキルだったようだ。

相手の内部へと干渉し、束縛するもの。

それを縛り上げてしまえば現実での相手は何を感じることも、何を考えることもできなくなるだろう。

つまり私が干渉している物は、精神、魂といったものに近い。

あくまでも行えるのは縛り上げることと…今分かったことだが軽く触れる程度。

攻撃はできないし、壊したり動かしたりすることはできない。

こうなったのは私が望んだから。私が、少しでも狼の動きを止めたいと、思ったからだと思う。


「…とんでもないスキルだな。戦闘に使ったらほとんど無敵に近いんじゃないかそれ」

「そうね。そうかもしれない。でも…うっ」

「おい、大丈夫か?」


確かにこのスキル。どう考えてもおかしい。インチキだ。

だって一時的とは言えど相手を完全に無防備にできてしまうのだから、触ったり、殴ったり、…あるいは殺してしまうことすら簡単にできてしまうだろう。


だが、何事もメリットだけでは済まないのが世の常だ。

このスキルにはデメリットがある。しかも割と大きな。


「…はあ、大丈夫よ。…このスキル、使うと私に強烈に反動がくるのよ。…全力で使うと意識が飛ぶくらいには」


そう、このスキル、使うだけで猛烈な疲労感…というか実際に私の体にダメージが来るのである。

それこそ今みたいにほんのわずかな時間の間、ほんの少し相手に干渉しただけで視界が回って、倒れこみそうになるレベルなのだ。

昨日使った時は長い間強力に干渉し続けていたので倒れるのも無理ないレベルだったというわけである。

しかもこれを使うにはあの白い精神世界とでもいうべき空間にこちらの意識を飛ばす必要があるためその間は当然無防備になるのだ。

戦闘中にこれを使おうものなら、相手を縛る間にこちらがやられるのが関の山だろう。

うまく使えばどんな相手でも簡単に倒すことができそうではあるが…相当に扱いにくい代物なのである。


「そういうことか…倒れるのも無理ないわけだな。昨日戦闘が終わって帰ったらお前まで倒れたとか聞いてな。何事かと思ってたんだよ」

「そういえば、あの後二人はどうなってたの?結局、私気絶して何が何だか分からないんだけど」


話がだいぶ…というか全く変わってしまっているが、元はと言えば二人が一体どうなってたのか調べようとしていたのだった。


「ああ、何があったか聞きたいのか?少し長くなるぞ?」

「構わないわ。どうせ時間ならあるし…」


□□□□□□


それからしばらくの間私はヴェードから何があったのかを聞き続けた。

思った以上にゴウは戦闘で役に立っていたらしい。

少なくとも剣がメインのこの世界で銃火器、しかも弾数無限で無限生成とかいうのは相当なアドバンテージだったようである。

まあ、近づかないと攻撃できない相手に遠距離から攻撃できる以上のアドバンテージもない。

が、そう快進撃を続けたのはいいが突如現れた巨大狼――魔族化個体とかいうのだと思う――との戦闘で二人そろって吹き飛ばされて気絶、という事態になったそうだ。

…というか、


「え、それじゃああの狼の近くで倒れてた人影って…」

「ああ、たぶんそれ、俺かゴウだわ。俺は木の中で倒れてたから塔の上から見えるならゴウの方じゃないかな。…というかよく見えたな。相当距離離れてるのに」

「視力はいいの。…にしても、あれ、ゴウだったのね…」


どうやらそうだったらしい。

気が付かないうちに手助けしていたようだ。

…放っておいたらゴウは死んでいたかもしれない。助けて正解だった。


「そうか。いや、本当にお前も連れてくべきだったな。二人だったら間違いなく死んでたとこだったよ。ありがとう」

「構わないわ。どうせ最初は足手まといになるだけだったし」


後ろで音がする。

…ゴウが目覚めたらしい。


「ぐお…体中がいてえ…」

「おはよう。安定の寝坊ねゴウ。早起きじゃなかったのかしら?」


どうせいつものように文句が返ってくると思ったのだが…


「アズサっ!ありがとう!」

「ちょ!え!?ゴウ!?」


がばっと。

いきなり抱きつかれるとか誰が想像できるというのだろうか。

突然すぎて回避することすらできずにそのままもみくちゃにされる。

…というか力強すぎて痛いのだが。


「あの時助けてくれたのアズサだろ!あのまんまだったら死ぬとこだったぜ!ありがとな!」

「え、ええ。というかよくあれが私だって分かったわね?」

「まあ、あんなことできそうなのお前しか居なさそうだったしな」

「そう。…それで、いつまで抱きついてる気かしら?生き返って早々にまた死にたいの?」

「あ、ごめん」


まったく悪く思ってるように見えないのだが…

しかし、気づいていたのか。鈍感かと思っていたがそういうのを読み取るのはできるのかもしれない。


「それで…どうやってあれやったんだ?魔法か?魔法なのか?」

「…いいや、違うわよ。あれはスキル。私にも使えるようになったの」

「え?」


…また説明する必要がありそうだ。


□□□□□□


「アズサ…」

「な、何よ。何ものすごい恨めしそうな顔してるのよ」

「…ずるいだろ!?なんだよ!?なんでお前魔法使えるのにこっちまで使えるようになってるんだよ!?こっちは俺の十八番だろ!」

「知らないわ。というか十八番ってほどでもなかったでしょうに」

「そういう問題じゃねえ!くそっ…魔法使えるのにスキルまで使えるようになるとか…世の中不条理しかねえ…」


また拗ねたし…

前もこんなことあった気がするし放置安定か。


「ま、何はともあれ全員無事みたいでよかったよかった。というか今回一番ろくな働きしてないの俺かもな。せいぜいゴウの盾程度にしかなっちゃいない」

「そうね」

「…できれば認めてほしくは無かったぞ」


自分で言っておいて何を言うか。


「でもヴェードの盾が無かったらたぶん俺生きてないぞ。ヴェードもありがとな」

「ああ。だが盾はやめてくれ盾は。昔似たようなこと言われたことあるんだよ」

「ということはもう公認盾ってことね。じゃあこれからもよろしくね。盾さん」

「…アズサ。わざとやってるだろそれ」

「ええ」

「せめて少しは遠慮しろ遠慮!」


…こんな会話をしながらやっと戦闘が終わったんだという実感をかみしめる私であった。


□□□□□□


木々がなぎ倒されいたるところが燃え上がって消失したメランコリン森林。

そんな森の奥深く。その女は居た。


「…へえ。まさか本当に居たとはねえ…冗談かと思ってたじゃないか。お前たちもそうだったんじゃないかい?」


黒い外套を身にまとい、黄金に輝く髪を後ろに流した女は、その手でゆっくりとブレードウルフの頭を撫でている。

対するウルフは静かに目を閉じてされるがままである。

女は静かにウルフへと声をかける。


「まあ私もさすがにお前たちのボスがやられるとは思ってなかったよ。すまないことをしたねえ…ゆっくりお休みよ」


そう言うと女は立ち上がり…手に持っていた鎌を振り下ろしウルフの首を刈り飛ばした。


「お前たちは残しておくわけにはいかないのさ。元々ここにいた魔物じゃないからねえ」


再び女が鎌を振ると、スッと目の前に黒い穴が出現する。


「…あれはスキルだったね。くだらない仕事かと思ったけどなかなか面白いものが居るじゃないか…しばらく退屈しなくて済みそうだね」


そう言って女は黒い穴の中へと消えていった。

後には森の中の戦闘でなんとか生き残っていたウルフたちが死体となって残るばかりであった。


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