異に落つる日
表と裏、二つの世界が触れ合う日。
数多の物が交じり合い、流れる日。
一瞬の出来事。その一瞬に、世界は、もう一つの世界に、望みを託す。
もう一つの世界の存在に、希望を見出し、願う。
□□□□□□
とある学校の校庭。
そこには動き回るいくつもの影――
そんな中一人の影が集団から大きく飛び出る。
「おいゴウ!そっち行ったぞ!」
「おらよ!任せろお!」
そんな影が大きく足を振りかぶって蹴り飛ばしたボールが
真っ直ぐサッカーゴールへと突き刺さっていった。
「じゃあなあゴウ!また明日なー!」
「おうよ!じゃあな!」
そんないつもの光景を展開しながら、ゆっくりと帰路へとつく。
「なんだ、ゴウくん、また一日中運動してたのー?」
「いいだろ別に。好きなんだから」
「そうは言うけどまた傷まみれだし…。あれ、絆創膏どこやったっけ…?」
「いいよいいよ。それくらい自分でやるからよ。じゃあな」
横を通りかかった幼馴染とのいつもと変わらぬ挨拶もそこそこに、
俺の家へとたどり着く。
くぁああ…今日も疲れたあぁ…。
そう思いながら、俺、竜也 剛は思いっきりベッドへと身を投げる。
つい先ほど、辺りの光が落ちるまでひたすら学校で運動し、走り回っていたのだ。
さしもの『体力バカ』だの『猿』だの呼ばれて久しい俺も疲れ切っていた。
そうしてそのまま俺の意識はゆっくりと遠のいていく―――
□□□□□□
夢を見た。
俺がとてつもなく長い道を歩いている夢だ。
遥か彼方の光へと俺は駆け出した。
呼ばれている気がしたから―――
現実へと、意識が戻る。
うーん…
太陽光の強烈な光が俺の安眠の邪魔をする。
カーテン閉めた筈なんだがなぁ…
そのまま横にごろりと寝返りをうつ。
ジャリッ
…ジャリッ?
おかしな感触に重い瞼が開いてゆく。
そこにあったのは俺のベッドでも俺の部屋でもない。
炎天下の森だった。
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何処だここ、次に何故ここにと頭の中の疑問が尽きない。
少なくとも俺の家の近くに森なんてないし
そもそも俺が寝ながら家を出ていくことなんて考えられない。
夢遊病に陥ったとかいう線も無いとは言えないが、確率的には相当低そうだし…
…正直、考えても分かりそうになかったので俺は考えるのをやめた。
胡坐を組んでいた状態から立ち上がり、とりあえず人がいないか探してみることにした。
人間一人だとやっぱり心細いものだ。知らない場所というならなおさらである。
…が、俺は立ち上がっただけで動こうとはしない。それは何故か?
…それもそのはずだ。先ほどから目の前で倒れている女性が一人いるのだから…
何故起こさないのか?考えてみよう。
俺はただの学生ではあるが、
幼少期から鬼教官のじいちゃんに、殴られつつ鍛えられたせいでそれなりの体つきになっている。
…いや、まあ背は低いけど。それでも、一人前に男と言える体つきではある。
それに対して、目の前の女性は細くて華奢で綺麗で、
―――少しでも力を入れたら折れてしまいそうで。
もし、彼女が俺と同じ境遇にあるのであれば、
俺が下手な行動を起こした場合、
え、あなた誰!?ここどこ!?誘拐!?
な展開になり、弁明もできぬままお縄頂戴、ようこそ独房へ、となりかねない。
じゃあ、無視してどこかに行けば…とこれもありえない。
少なくともぶっ倒れている人間を無視して何処かに行けるほど非情にはなれない。
結局、俺にやれることはその顔を眺めながら、
相手が起きてくれるのを待つ他は無いのである。
「あー… これ、現実だよな…?」
試しに頬を抓って…
「いっだああ!」
…現実でした。
俺が強く抓りすぎた痛みで悶絶していると、
「…何してるの。」
誰とも知れぬ声が…
いや、この場にいる人間なんて俺以外にもう一人だけ。
静かに響いた鈴が鳴るような綺麗な声は、その声の主が少なくとも俺ではないということを物語る。
俺は目を開けた美女に自分の頬を抓って悶絶しているのを見られるという、
最悪の出会いを成し遂げたのだった。
どうも、作者です!
勢いに任せて一気に書き溜めていた分を投稿してしまった…
長編初投稿ということで色々あると思いますが生暖かい目で見てくださると幸いです。
では。