アイツラあれで付き合って無いんだぜ? リア充実爆発しろ。彼女欲しい…。
一生懸命つま先立ちしてもどうしても見えなくて、彼女は百五十満たぬ己の身長を恨めしく思う。
彼女の前には人だかりという名の分厚い壁がそびえている。
掲示板に張り出された知らせを見たいのだが。
「ああ、宮代。またやってるのか」
背後から掛けられた低くて柔らかな声に、しかし彼女は猫が毛を逆立てる様に目をつり上げる。
しかし反論するより、振り返るより早く彼女の身体はひょいと持ち上げられた。
「ほら、高い高~い」
宮代の両脇に大きな手を差し入れて、猫の様にぷらーんと持ち上げた男は、HAHAHA、と笑う。子供をあやす様にだ。
「わー、見えるー、嬉しいなー」
明らかに棒読みの宮代のセリフに、男は無駄に爽やかににっこりした。
「役に立てて嬉しいよ!」
「……なんて言うわけないでしょ~っ!?」
宮代はブーツのカカトで男をげしっと蹴った。
「おっと危ない」
男はブーツに蹴られぬ様彼女をぶら下げる腕を前ならえをする様に前に伸ばす。
「下ろせ~!」
宮代がジタバタする様はさながら触られるのが嫌な猫が抱え上げられてオカンムリで暴れる様に似ている。
「危ないだろう、宮代。ほら、大人しくしないと。いや、落としたりはしないけど」
あやす様にぶらぶらと揺する。
悪意はない。揶揄っているのでもない。この男、ただの…いや、ドの付く天然だ。
「見ろよ、山下と宮代、またやってるぜ」
「何、また痴話喧嘩?」
離れたところで男の友人達がげんなり犬も食わないなんとやらを見て溜息を吐く。
「信じられるか? あのド天然とチビ猫、あれで付き合って無いんだぜ……」
「…マジで?」
遠慮なく暴れる宮代と、罵倒も乱暴さも全く意に介さぬ山下。大型犬が子猫にじゃれついて毛を逆立てられているようだ。犬猫なら微笑ましいが人だと何故か視覚の暴力である。
「リア充爆発しろ」
「だからアイツラ付き合ってねぇって…リア充爆発しろ」
「そうそう、あれで付き合って無いんだぜ? リア充爆発しろ」
「一人身の俺らを裏切りやがって…リア充爆発しろ」
語尾? と錯覚する合い言葉を友人達は交わし合った。
「あたしの身長絶対あんたが取ったのよ! 返せ、百九十も要らないでしょ?! 返せ~!」
宮代は駄々っ子さながらに無茶苦茶な事を叫びつつ、手足を振り回す。
しかし、体格差の為、リーチが違いすぎて全く当たらない。
「あはは、別に宮代は小さいままで良いじゃないか。可愛くて」
天然な山下はサラリとこうこうセリフを吐く。宮代相手では地雷でしかないが。
「バカにして~! 悔しい~!」
宮代が怒っても空気が読めない山下はにこにこ笑っている。
「リア充め……爆発しろ」
「もう行こうぜ」
「ああ、空しいしな」
「宮代、黙ってれば結構可愛くて、狙ってる奴も居たのに」
「言うな! …余計空しくなるだろ…」
「彼女欲しいー!」
「だからアイツラ付き合って無いって…リア充爆発しろ」
友人達は連れ立って掲示板の前から離れた。それに気付いた山下が暴れる宮代をぷらーんとぶら下げたまま、HAHAHA、と笑って追い掛けて来たので、友人達は口を揃えて彼を罵った。
「リア充爆発しろ!!」