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転移先は推しの作品世界〜経験したことしか書けない作家なんて……いるんですか!?〜  作者: exa(疋田あたる)


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一筋縄ではいかない

 面倒くさそうな青年たちを連れて、店の裏手へ。ほんの少し明かりから離れただけなのに一気に暗くなる視界に、ランタンのひとつも買ってくれば良かったと思うけれど、今更だ。


 ──さっさと依頼して捜索用にランタンを買わねば。

 

 算段をつけて、猪野は報酬としてペンケースを丸ごと、それからスティックのりを一本、青年たちに差し出した。

 塗ったのりが乾くと色が消える、実演付きである。異世界の人々はさぞかし驚くだろうと思ったのに。


「なんだ、それっぽっちか」

「店、戻ろ」


 青年たちの反応はいまいち。いまいちどころか、ちっとも興味を持っていない様子で背を向けてしまう。

 思っていた反応とは大きく違う行動に、猪野は目を丸くした。


「おやあ? 想定外なのですが」

「俺たちを簡単に使えると思ってもらっちゃ困るな。こちとら、何でも屋の腕だけで街から街を渡り歩いてるんだぜ」

「そんな金にもならない棒なんていらない」

「む、前回のとっておきペンは受け取ったくせに」


 やはりキラキラした物が良いのか。青年に見えても中身は小学生男子と変わらないのか。

 

 ──何かキラキラしたものがあっただろうか。

 

 猪野が鞄の中身を思い返していると。


「言っとくけどな。昨日のやつは透けてて珍しいから受けてやっただけだ」

「筆記具としての価値はないと? ああ、そういえばこの街に来てからまだ紙を見かけてないような……」


 猪野は記憶をさらって気がついた。もしや、この世界はまだ筆記具が発達していないのではないか。そう思ってみれば街中の屋台でも値札を見なかった。値札が無くても持ち前のコミュ力で聞きたいことを聞いて、問題なくやれていたから気が付かなかったが。


「なるほどなるほど。そうなると、私の手持ちの物で珍しさのあるものは……」


 何かあっただろうか。カチカチ鳴るボールペンやこすると消えるペンはすでに換金してしまっている。

 むむう、と考え込む猪野の前にカラカが立った。


「もう物はいらねえよ。それよりさあ、俺らもあんたたちを探してたんだよな」


 見れば、悪い笑みを浮かべている。


 ──あ、やな予感。


 ポフィンを連れて撤退をと思うが、もう遅い。


「お姉ちゃん……」


 不安げな少女を乗せた巨鳥の手綱は、パプラの手の中にあった。


 ──店に戻ろうと背を向けていたはずなのに、いつの間に……!


 ゆるそうに見えても、何でも屋としてやっているだけあるらしい。無警戒に人質を取られた形になって、猪野と青年たちの間にピリリとした空気が流れた。


「……探していたとは? 私の持ち物が目当てでないなら、何を目的に?」

「えー? 素直に言うの、なんか癪なんだけど」


 猪野の焦りを察知してか、カラカがにやりと悪どく笑う。さながら、獲物をいたぶる算段をつけた大型獣のように。

 

「カラカ、面倒くさい。さっさと済まして」

「ちえー。パプラ、ノリ悪ぅ」


 猪野が何を言うより前にパプラが促してくれて助かった。

 口を尖らせたカラカは、意識が逸れたのだろう。ひりつく空気もわずかに緩む。


 ──この隙をついて逃げる……なんて真似は、さすがの猪野ふらんといえど、平和な現代日本人が身につけているはずもなく。ううん、どうしよう……でも、なんだろう。そこまでマズいことにはならないような気がするのだけれど。いやほんと、気がするだけなのだけど。


 猪野はむむぅと悩んだ。

 猪野の勘はけっこう当たる。その勘が「たぶんこのふたり、善人でもないけどそこまで悪人じゃない」と告げているのだ。

 自分ひとりならば、迷わず勘を信じて動くのだけれど。

 猪野はカラカから目を逸らさないまま、視界の隅でポフィンをとらえる。巨鳥の上、不安げにしている少女。成り行きで出会っただけで助ける義理なんてない相手だ。義理なんてないけれど、一度取った手を勝手に離すつもりはみじんなかった。猪野ふらんの矜持が許すわけがない。


 ──あの子も私も無事でいるにはどうすべきか? ここに味方はいない。か弱い私ひとりで何ができるか……。


 脳をフル回転させて、良案など浮かばなくて、けれど、猪野は気が付いた。

 巨鳥が猪野をじっと見ている。


 ──そういえばあの鳥。やけにおとなしいような?


 暴れる鳥でないことはわかっていた。出会ったとき、魔物に追われている時からポフィンを振り落とすこともなく、猪野に手綱を握られても暴れはしなかったから。

 けれど状況もわからず、人の言うことを聞く鳥でもないと思っていた。

 ポフィンによく懐き、彼女を乗せなければ村を捨てる集団に加わらなかったというのだから。


 ──賢い鳥、のはず。ならば何故、大人しく彼女を人質に取られるような真似を?


 暴れられないような気弱な鳥でないことは、猪野にはわかっていた。野生の勘ではないけれど、何というか本能的に感じ取っていたから。

 ならば、なぜあの鳥は大人しく手綱を握らせている?


 ──取るに足りないからだ。


 猪野は気づいた。

 手綱を握られていながら賢い巨鳥が動かないのは、人に手綱を取られた程度で主導権を明渡してはいないから。いつでも振り払って、背中に乗せた大切な人を守れるという自信があるからだ。


 ──だったらポフィンは大丈夫だ。いざというときは、あの鳥が乗っけて逃げ出してくれる。だったら……。


 猪野は腹を決めた。自分一人のことならばどんな結果だろうと胸を張って受け止めるだけ。


「……良いでしょう。あなたたちの目的を聞きましょう。何でも答えますよ」


 にぃと笑った猪野にカラカが目を丸くし、パプラは眉を寄せる。


「なんだ、嫌に素直だなあ。おい」

「おや。私は生まれてこのかた、ずっと素直ですよ? 子どもの頃はご近所でも評判の『歯に衣着せぬふらんちゃん』と言われていたんですから」

「胡散くさ……」

「わはは! 失礼な人たちですね。まあ良いですよ。猪野ふらんは寛容なので」


 ここで猪野の幼少期エピソードを聞かせてやっても良いが、残念ながら今は時間が惜しい。

 猪野は青年たちが何か言うより早く言葉を続ける。


「目的を聞くのは構いませんが、その前にこれを見てもらいましょう」


 言って、素早く取り出したのはスマートフォン。

 画面を彼らに向けて側面のボタンを押す。

 黒い画面にぱっと表示されたのは、猪野にとっては見慣れた待受画面。

 けれど異世界の彼らにとっては見慣れているはずもない。


「は、何だそれ!?」

「光る、絵札……?」


 大きく見開かれる目に驚きの声。


 ──良い良い。これこそ未知の文明に触れた異世界の人の反応です!


 ついに思い描く反応を得られて、猪野は満足した。青年たちの向こうでポフィンも目をまんまるにしているのが、またかわいらしくて気分が良い。


「ふっふーん! 見て驚いたようですね? だったら次は聞いて驚くが良い! 私とオウジ先生はこことは違う世界から来たんですよ。異世界からの転移者というわけです!」


 良い気分のまま堂々と胸を張って言う。


「はあ?」

「……はあ?」

「ええっ!」


 三者三様の驚き顔を見返して、猪野はにっこり。


「報酬に、異世界のことを私の答えられる限りのことを答えましょう。だからあなたたちに依頼します。オウジ先生を、先生の行方を探してください」


 すすっとスマホの画面を操作して、表示したのは一枚の写真。初めましての時に理由をつけて撮りまくった、オウジキロクの写真だ。異世界転移者特典で、きっと彼らには先生の姿をはっきりと思い描けないだろうから。


「さあ、これで先生の顔がわからないとは言わせませんよ。情報は探しながらいくらでも喋りましょう。時間が惜しいので、諸々移動しながらよろしくお願いしますね?」


 未だスマホ画面に釘付けの三人を前に、猪野は完全に自分のペースを取り戻していた。

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