鐘 ~The Bell ~
初投稿です。読んで頂ければ幸いです。
雪の夜、街の鐘が静かに凍りついていた。
キリルはその音を聴いていた。
--鳴らない鐘の中に、確かに響く“何か”を。
大学の文学科で教鞭を執るアレクセイ教授。
その声、眼差し、その孤独に、キリルはいつしか惹かれていた。
彼の講義はいつも静かで、冷たい冬の空気のようだった。
けれどふとした瞬間に見せる微笑みが、キリルの心に小さな火を灯した。
「音は沈黙の中に宿る。聞こえないからこそ、そこに意味があるんだ。」
教授はそう言った。
その言葉は、キリルの心に鐘のように響き続けた。
けれど、愛は禁じられた音だった。
教授と学生⋯越えてはならない境界。
それでも、二人は互いに惹かれ合い、運命のように、その夜を迎えた。
雪の降る夜、鐘楼の下。
アレクセイの唇がキリルの名を呼んだ。
世界が静止したような瞬間、
二人の間に、確かな音が生まれた。
---鐘が鳴った。誰にも聞こえない、二人だけの鐘が⋯。
だが、その音は長くは続かなかった。
教授は世間の非難に晒され、大学を去った。
キリルは残された静寂の中で、
ただ一つの音⋯アレクセイの言葉を反芻し続けた。
「音は、聞こえないときこそ存在する。」
キリルは作曲を始めた。
鐘が鳴らないなら、自分の手で鳴らせばいい。
悲しみも、沈黙も、愛も全て音に変えて。
そして年月が過ぎ、キリルは一人の作曲家として舞台に立つ。
初演を迎える新曲の名は『鐘』。
それは、かつて彼を導いたあの音への返礼だった。
会場の灯りが落ちる。
指が鍵盤に触れる。
やさしい音が生まれ、空間を満たしていく。
まるで雪が降るように。
そのとき--客席の片隅に、彼はいた。
白髪が混じる髪、静かな微笑み。
キリルの手が震える。
教授。
二人の目が合う。
音が流れ、時間が逆行していく。
かつての冬が、再びそこに蘇る。
キリルは弾き続けた。
涙が鍵盤を濡らしても、音は止まらなかった。
そして最後の一音が消えたとき、会場は静まりかえった。
拍手の中、キリルは舞台を降り、外へ出る。
雪が舞う夜。
そこにアレクセイは立っていた。
「教授⋯」
「もう、教授ではない。君の前では、ただの一人の男だ。」
キリルは息を呑んだ。
何年もの沈黙が、言葉一つで溶けていく。
「鐘の音、聞こえましたか?」
アレクセイは頷いた。
「ずっと。君の鐘が僕をここまで導いた。」
キリルはそっと笑った。
「じゃあ、もう一度鳴らしましょう。今度は僕達自身のために。」
雪が二人の間に降り積もる。
触れ合う指先が、凍てついた空気の中で静かに温もりを取り戻した。
--鐘が鳴る。
--もう悲しみの鐘ではない。
--世界のどこかで、二人のために静かに響く音。
キリルはその音を胸に抱き、彼の唇にそっと触れた。
鐘は沈黙しても--愛は鳴り続ける。
~終わりの音が、永遠の始まりの音となる~
こんな感じの長編を書きたいと思っています。




