表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

鐘 ~The Bell ~

作者: よしお
掲載日:2025/10/21

初投稿です。読んで頂ければ幸いです。

雪の夜、街の鐘が静かに凍りついていた。

キリルはその音を聴いていた。

--鳴らない鐘の中に、確かに響く“何か”を。



大学の文学科で教鞭を執るアレクセイ教授。

その声、眼差し、その孤独に、キリルはいつしか惹かれていた。


彼の講義はいつも静かで、冷たい冬の空気のようだった。

けれどふとした瞬間に見せる微笑みが、キリルの心に小さな火を灯した。


「音は沈黙の中に宿る。聞こえないからこそ、そこに意味があるんだ。」

教授はそう言った。

その言葉は、キリルの心に鐘のように響き続けた。


けれど、愛は禁じられた音だった。

教授と学生⋯越えてはならない境界。

それでも、二人は互いに惹かれ合い、運命のように、その夜を迎えた。


雪の降る夜、鐘楼の下。

アレクセイの唇がキリルの名を呼んだ。

世界が静止したような瞬間、

二人の間に、確かな音が生まれた。


---鐘が鳴った。誰にも聞こえない、二人だけの鐘が⋯。


だが、その音は長くは続かなかった。

教授は世間の非難に晒され、大学を去った。

キリルは残された静寂の中で、

ただ一つの音⋯アレクセイの言葉を反芻し続けた。


「音は、聞こえないときこそ存在する。」


キリルは作曲を始めた。

鐘が鳴らないなら、自分の手で鳴らせばいい。

悲しみも、沈黙も、愛も全て音に変えて。


そして年月が過ぎ、キリルは一人の作曲家として舞台に立つ。

初演を迎える新曲の名は『鐘』。

それは、かつて彼を導いたあの音への返礼だった。


会場の灯りが落ちる。

指が鍵盤に触れる。

やさしい音が生まれ、空間を満たしていく。

まるで雪が降るように。


そのとき--客席の片隅に、彼はいた。

白髪が混じる髪、静かな微笑み。

キリルの手が震える。


教授。


二人の目が合う。

音が流れ、時間が逆行していく。

かつての冬が、再びそこに蘇る。


キリルは弾き続けた。

涙が鍵盤を濡らしても、音は止まらなかった。

そして最後の一音が消えたとき、会場は静まりかえった。


拍手の中、キリルは舞台を降り、外へ出る。

雪が舞う夜。

そこにアレクセイは立っていた。


「教授⋯」


「もう、教授ではない。君の前では、ただの一人の男だ。」


キリルは息を呑んだ。

何年もの沈黙が、言葉一つで溶けていく。


「鐘の音、聞こえましたか?」


アレクセイは頷いた。

「ずっと。君の鐘が僕をここまで導いた。」


キリルはそっと笑った。

「じゃあ、もう一度鳴らしましょう。今度は僕達自身のために。」


雪が二人の間に降り積もる。

触れ合う指先が、凍てついた空気の中で静かに温もりを取り戻した。


--鐘が鳴る。

--もう悲しみの鐘ではない。

--世界のどこかで、二人のために静かに響く音。


キリルはその音を胸に抱き、彼の唇にそっと触れた。


鐘は沈黙しても--愛は鳴り続ける。


~終わりの音が、永遠の始まりの音となる~

こんな感じの長編を書きたいと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ