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亡骸新婦・後編

 2005年2月19日 1時57分

 車を飛ばし、東王医科大学病院へと到着した漆ノ神と陣馬の両名は、搬送された上崎の緊急手術が終了するまで待機する為に手術室近くの待合所に向かう

 そして数分の移動の後に二人が辿り着いたその殺風景なソファのみが置かれた待合所には、何名かの捜査官に囲まれるような形で上崎の彼女である女性がソファに座っていた

 

 「上崎の彼女か?」


 待合所に着いてすぐ捜査員に囲まれる女性を目撃した陣馬が、声を漏らす

 上崎から話を聞いてはいたが容姿は知らなかったこともあり、疑問と共に出したその声は上崎の彼女を囲んでいた捜査員に拾われる


 「ああ! 陣馬警部補!」


 「おう。それでその子が上崎の彼女さんか?」


 「ええ、そうです。大内さん、この人が上崎巡査部長の相棒をしてる陣馬警部補です」


 陣馬の質問に肯定の言葉を返した捜査員は、憔悴した様子の上崎の彼女に向けて陣馬の事を紹介する


 「………………陣馬、陣馬さん」


 上崎の彼女、大内と呼ばれた女性は陣馬の名前に反応して顔を上げると、不安や緊張からか僅かに震える声で言葉を紡いだ


 「あの、初めまして。永利君とお付き合いさせて貰っている大内咲おおうちさきです」


 「ああ、永利の……いや上崎巡査部長の上司で普段チームを組んでいる陣馬穣です。今回の件は何と言ったら良いか……」


 陣馬と大内は現在の上崎の状況や巻き込まれた事件の情報を交えながら、会話を進めていく

 そして会話開始から20分ほどが経った頃だろうか、彼ら二人の話が一段落した頃を見計らって、それまで背後で立っていた漆ノ神が二人の会話に口を挟んだ


 「そろそろ良いかしら、お二人さん?」


 「ん? ああ、そっちの事を忘れてた悪かった。待たせたな」


 「別に良いわ」


 「あ、あの警部補、そちらの方は?」


 「こいつの事は気にしないでくれ、捜査で協力してもらってる者だ。それと此処からの話は、ちょっと聞かせられないから離れといて貰えるか?」


 「え、ええ。そういう事なら、分かりました。一旦、離れておきます」


 陣馬はこれから始まる話を聞かせるわけにはいかない為に、捜査員達をこの場から遠ざける

 そして陣馬達が居る待合所から離れていく捜査員達


 「行ったわね」


 その背を見送ってから、漆ノ神が口を開く


 「まず初めまして大内さん、私は漆ノ神一流斎と申す者です。現在、私は陣馬さんと行動を共にして上崎永利巡査部長が刺された事件を追っています」


 「はい……」


 大内は漆ノ神の巨大な体躯と独特な雰囲気に気圧されながら返事を返す


 「そしてその事件を追っていた中で私達は犯人の狙いは上崎さんであり、更に上崎さんが未だに犯人に狙われている可能性が高い事に気が付きました。ですのでその護衛に付かせて貰いたく参上しました」


 漆ノ神はさも自身は刑事であると思わせるような語りと口調で陣馬に話していた内容とは違う、怪異という言葉すら出ない話をする

 ただこの語りは、事前に車内で陣馬と示し合わせていたものであった

 

 「今までの事件から考えて犯人は、被害者に対して何らかの執着、恐らく切断して持ち去った部位だけどを見せているわ。だから近いうちに犯人は被害者を狙いに来る可能性が高いわね」


 「なら、護衛が必要か。だが怪異相手に出来るのか?」


 「忘れたの、何の為に私が居るのか。そこは私の専門よ、だから安心して任せて頂戴。ただ事件が事件だけに彼の周りに警察官がいるでしょ、そっちの方が私には面倒ね。部外者だから通常病室には入れないでしょ、だから貴方にはどうにか近くで護衛できる状態にはして欲しいわ」


 「チィ、面倒だな。分かった分かった、そっちはどうにかする。ただその時はお前にも演技してもらうぞ」


 「ええ、任せて」

 

 これまでの喋り方を止め、近寄りがたい独特な雰囲気は残しつつも真面目そうな刑事風を装う漆ノ神の演技力に対し、陣馬は感心を覚える


 (こいつ無駄に騙すのが上手いな)


 そして陣馬が詐欺師まがいの演技に感心している間に進んでいた漆ノ神と大内の話は、早々に漆ノ神と陣馬が病室で上崎の事を護衛する方向で纏まっていたのだった



 東王医科大学病院、16階病室 23時40分

 個室である病室内には漆ノ神と陣馬、そして手術を終え命を取り留めたが未だ意識の無い上崎に加え、特例で病室内での待機が許可された上崎の彼女である大内の合計四名の人物が居た

 その内、上崎の彼女である大内は未だ目を覚まさない上崎を心配してかその手を願い寄り添うように握っており、漆ノ神達はそんな彼女らを部屋の壁に寄りかかって見ていた


 「今夜来ると思うか?」


 「可能性はそれなりにあるわね」


 「はっきりしないな」


 「仕方ないでしょ。私はあくまで祓い専門で殴ることは出来ても感知とか予言とか出来ないから、はっきりとした事は言えないのよ」


 壁際で内緒話の様な小声で話す漆ノ神と陣馬

 曖昧な事しか言わない漆ノ神の発言に、陣馬が不満を浮かばせる

 ただ陣馬は、その後に続いた漆ノ神の言い訳を聞いて一応納得の素振りを見せる


 「まぁ、そういう事なら仕方ねえのか? 分からねえが……。ただ、その時が来たらしっかり働いてくれよ」


 「分かってるわ、任せて頂戴」


 そして深まっていく夜、時計の針は天辺を過ぎようとしていたその時だった

 特例で電気が付けられていたこの病室と、16階の廊下の電気が点滅を始める

 初めは接触不良かと思わるような一瞬の暗転だったが、その一回を皮切りに天井の蛍光灯が不自然なほど何度も何度も何度も点いては消えを繰り返した

 その点滅は誰の目に見ても人知を超えた異常事態で有る事が明らかであった


 「これは……!?」

 

 「何が起きてるの!?」


 恐怖を煽るようなその蛍光灯の点滅に対し陣馬と大内は、戸惑いの声を上げる

 ただその後、病室に響いた漆ノ神の声を聞いた陣馬はすぐに冷静さを取り戻し、漆ノ神へと疑問を投げかける


 「落ち着いて、二人とも。まだ安全だから」


 「漆ノ神、まさか……来たのか!?」


 「ええ、その様ね。それじゃあ、此処は宜しく陣馬さん。行ってくるわ」

 

 「ああ! 頼んだぞ!」


 漆ノ神は、この場を神馬に託すと病室の扉を抜けて廊下へと出た

 そして廊下の中心で腕を組むと、ただ一点を見つめる

 細められた漆ノ神の視線の先、廊下の奥(そこ)にはレインコートを着た大柄な男が立っていた

 点滅する蛍光灯の下、対峙した二人

 彼らの火蓋は今、切って落とされた

 

 走り出すレインコートを着た男、その速度は人の限界を超え、そして手には鋭い刃を持つ刃物が一本

 対して向かい討つ漆ノ神は、無手のまま一歩前に踏み込みただ構えを取るのみ

 進む秒針、狭まる両者の距離

 互いが互いを認識してから僅か2秒で、10mは在ったはずの距離は埋まっていた


 『ァァァァァァァァ!』


 「さあ、来なさい」


 そして遂に互いの距離がゼロに達し、次の瞬間には叫びと共にレインコートを着た男の振るった一撃が漆ノ神の心臓目掛けて放たれていた 


 『シィ――――――!』


 蛍光灯の点滅を浴び、煌めく刃の軌道

 心臓に向け一直線に進んだその切っ先は、漆ノ神の服を切り裂く直前に衝撃を受け横へとスライドし空を切る


 『――――――!?』


 驚き目を見開くレインコートを着た男、だがその驚きは刃の一撃が外れた事ではなく、刃の側面を手刀で打ち払った漆ノ神の技量に対しての驚きであった

 ただ一撃を流されて攻撃の手を緩めるレインコートを着た男ではない、ソレはすぐに体制を立て直すと再度逆手に持ち直した刃を振るった


『アァァァァァァァ!』


 だがその振るった刃はまたしても空を切る

 漆ノ神は横薙ぎされた刃を頭を屈めて避ける、そしてそれと同時に引き絞った拳を撃ち放つ

 轟音、続いて苦悶の声

 

 『グゴォ!?』


 弾丸の様な音共に放たれた漆ノ神の拳がレインコートを着た男の胴体に突き刺さり、その意識を軽々と奪い取った

 崩れ落ちるレインコートを着た男

 その姿を見下ろす漆ノ神の中にあったのは、勝利の高揚ではなく己のミスを悟った焦りであった


 (この音………………まさか心音? なら――――――、本命は!)


 漆ノ神が勘違いに気が付いたその瞬間、最悪な事態が引き起こる


 「誰だお前! 何を――――――グゥ!」


 驚愕そして苦悶を乗せた叫び声が廊下に響く、それは上崎の病室内から上がった陣馬の声であった

 その声に反応した漆ノ神は即座に地面を蹴った

 瞬きの間に病室へと辿り着いた漆ノ神が、病室の扉を開ける

 そして内部へと駆け込んだ漆ノ神が目撃したのは、血が滲む肩を抑えて地面に倒れる陣馬と、大内を抱えて窓枠に座る女の身体の部位を張り付けた人体模型の様な姿をした異形の女であった


 (あの外見……! だったら奴の目的は女の部位を取集する事で、初めから狙いは大内さんの肉体。そして私達が主犯だと思っていたレインコートを着た男は、今、目の前に居るこの怪異に操られて人を殺し特定の部位を収集していただけで……。

 ……っ、これは完全に私のしくじりね)


 漆ノ神は怪異の外見と事件の情報を繫げ合わせる事で目前に居る異形の女こそが今回の一連の真犯人である事を察すると同時に、事件の全容を読み取った

 己の勘違いに知識不足、そして慢心が引き起こした事態

 だが今更、事件の全容を理解し己の失敗を悔いても遅い

 陣馬は傷つき倒れ、今、大内は異形の手に墜ちた

 そして次の瞬間、更に状況は悪化する

 異形の女は漆ノ神の姿を認識したと同時にその醜悪な手で大内の下顎を剥ぎ取る

 瞬間、耳を劈く程の絶叫が響き、噴き出した血飛沫が病室の床に降り注がれた

 そしてその蛮行と共に窓枠を蹴った女の怪異は、飛び出た空中で未だ口から大量の血を流す大内から手を離す


 「――――――っ!」


 落下を始める大内の身体

 消えていく女の怪異

 この瞬間、漆ノ神は二つの選択を迫られる

 一つは消える前に女の怪異を殺す事で、もう一つは大内が地面に叩きつけられる前に救う事

 漆ノ神であっても選べるのは一つだけ

 

 地面を蹴った漆ノ神、彼は――—

 思考する、どちらが己にとって理があるのか

 思考する、どちらが人の世の為になるのか

 思考する、思考する、思考する

 漆ノ神は思考する、己が誕生した意味を


 そして瞬きの間に病室の扉から窓枠へと辿り着き、窓枠に足を掛けた漆ノ神が選択したのは――――――


 落下する大内を救う事だった

 空に跳び出した漆ノ神は空中で落ちていく大内の手を掴むと己の方へ引き寄せ、抱き締めた

 そしてそれから間もなく、漆ノ神達は地面に叩きつけられた

 

 「ぐ――――――!」    


 上がる轟音、まるで爆弾でも爆発したのではないかと思えるその衝撃によって地面が、空気が、建物が大きく揺れた

 そしてその地響きのような衝撃によって消灯し静まり返っていた病院内は、叩き起こされ騒ぎが伝播していく

 それから数分もせずぞろぞろと外に出てきた医師や看護師と、窓から覗いた患者たちが晴れてきた土煙の中で目撃したのは、クレーターの中心で倒れる二人の人影であった

 

「大丈夫ですか!?」


 驚愕と困惑の面持ちで近寄って来た医師達、その彼らが安否を確認するために掛けた声に反応したのは女性の下敷きなって倒れていた漆ノ神であった

 漆ノ神は自分の身体を下敷き、つまりクッションにする事で落下の衝撃を受け止めて大内へのダメージを軽減させていたのだった

 そして未だその命を保つ大内を優しく退かして地面に降ろした漆ノ神は、立ち上がると駆け寄って来た医師達の言葉に返事をした


 「私は大丈夫だから、すぐにこの娘を見てあげて。危険な状態だと思うわ」

 

 「貴方は、えっ、まさか上から……!」


 「そんな事は良いから、今はこの娘を」


 「あ、ああ、分かりました! おい、担架をすぐに」


 「は、はい!」


 担架で運ばれていく大内

 その横で振り返った漆ノ神は、空を見上げる

 だがそこにはもう、何の気配も姿も残っていなかったのだった


 そして数分後、16階の高さから落下し叩きつけられたとは思えない軽々しい足取りで大内が運ばれた手術室前に辿り着いた漆ノ神は、そこで電話をかけて呼んだ陣馬と再度合流を果たす

 肩周りに厳重に包帯を巻かれた陣馬は、手術室横のソファに座る漆ノ神の横に重い腰を下ろして座ると、短い溜息と共に言葉を漏らした


 「さっきの電話での話は本当か?」


 「ええ、全て事実よ。あの女の怪異の狙いは初めから大内さんで、上崎さんはその巻き添えを食っただけ。それと女の怪異のこれまでの行動から目的を推測した場合、狙いの部位を奪われた彼女はもう狙われる事は無いでしょうね。まぁ、今まで散々推測を外してきた私の言う事に信頼は無いでしょうけど」


 漆ノ神は病室に視線を送りながらそう陣馬からの言葉に返答する

 その発言を横で聞いた陣馬は、考え込むように目元を抑える


 「…………確かにそうかもな。ただ、あんたが居なければ大内咲《彼女》は確実に殺されていただろうから、そこは感謝する。……本当に」


 「………………その言葉は受け取れないわ。貴方との約束を守れなかった」


 互いの間、そして手術室前の廊下に重々しい空気が充満する

 その触れたくない空気を破ったのは、陣馬であった

 陣馬は初めてこの場所にやって来た時と同じように溜息を吐く、そしてそれから話を始める


 「なあ、漆ノ神さんよ。あんたはこれからどうする? 此処で手を引くのか? 俺は、奴を追う気でいる。相棒を刺され、その彼女も守れなかった……目の前に居たのに、守れなかった! このままじゃ、悔しすぎる。悔いが残る」


 ソファに拳を叩きつけ感情を露わにする陣馬


 「そう、ね。私も悔しいわ」


 「だったら、また手を貸してくれないか? 今回みたく、また俺とあんたで奴を追おう!」


 陣馬から吹き出た熱い思いを受け取った漆ノ神は噛み締める様に何度か頷いた後、顔を上げて手を差しだした


 「その申し出、有難く受け取るわ。ええ、また共に戦いましょう」

 

 「ああ!」


 互いの手が握られ、約束が交わされる

 そしてこの日を境に動き出した陣馬達は、あの醜悪な怪異討伐の為にある組織を立ち上げる事になった

 それこそ現在、漆ノ神が所長を務める組織、漆ノ神超常現象調査所であった



          ――――――――――――――――――――――



 「ご清聴ありがとう、これが私達の過去。そして目的よ」


 漆ノ神は過去話にて己と陣馬の目的を開示する

 それは『東京都婦女連続解体及び部位消失事件』から始まった怪異の強行を止める事であると


 「では、その怪異が私を……」


 「ええ、狙っているわ」


 「………………」


 自身を狙う怪異の起こした事件の内容とその凶悪さを聞いた皆月は、視線を下ろし唇を噛む

 それは恐怖からか、それとも――― 

 僅かな、されどこの場を掌握する空気の中ではとても長く感じられる沈黙の後、俯いていた皆月が顔を上げる

 その上げられた顔には強い覚悟が浮かんでいた

 彼女はふっと息を吐くと、漆ノ神の事をまっすぐに捉えながら口を開く


 「あの、だったら! 私もその事件の怪異を追うを手助けさせてください!」

 

 「良いの?」


 「元々そのつもりでしたよね?」


 「それはそうだけど、貴方を危険に晒すことになるから……」


 「ならそもそもその怪異をどうにかしないと私の命に危険があるんですから、手伝うにして手伝わないにしてもどっちにしても変わらないですよ。だったら私は、私のように狙われ亡くなってしまった方達の為に少しでも手伝いたいんです!」


 「そう言ってくれるのね……」


 皆月の思いを聞いた漆ノ神は、サングラス越しの瞳を細め微笑みを浮かべた

 それからゆっくりと立ち上がった漆ノ神は、前へと右手を差し出すと皆月と陣馬の二人に声を掛ける


 「それじゃあ、手を拝借しても良いかしら? 陣馬さんも」


 差し出された手と続く言葉から意図を汲み取った皆月と陣馬に二人は、揃って漆ノ神の下へと集合する

 そして差し出された漆ノ神の手に皆月と陣馬の手が重なり合う

 漆ノ神はその重なり合った手を空いた左手で包むと、目前に居る二人に視線を配る


 「これ以上犠牲者を出さない為にも……必ず私達の手で怪異を祓い、この事件を解決しましょう。良いわね?」

 

 「ああ」


 「はい!」


 「それじゃあ漆ノ神超常現象調査所、始動よ」


 「おお!」


 「おーーー!」


 宣言と共に重なり合った手が、それぞれの覚悟を乗せて宙にへと放たれるのだった


 そして動き出した漆ノ神超常現象調査所の面々達が、最初に手を付けたのは警視庁から送られてきた『東京都婦女連続解体及び部位消失事件』の資料と、その事件の黒幕的な存在である女の姿をした怪異が操っていた男達の所持品の確認であった

 三人はそれぞれ別々の資料を読み込んだり、操られた男達の所持品を確認することで新たな情報を探し出そうとしていた

 今だからこそ分かる情報や、男達の共通点は無いかと山積みになった凄まじい量の資料を漆ノ神超常現象調査所の面々は読み込んでいく

 深夜から始まった調査は、数度の夜を超えても続いていた

 

 「ん~」


 窓から僅かに入った朝日の光を浴びて目覚めた皆月が、瞼を擦りながらソファから身体を起こす

 するとその時の声を聞いて台所に立っていた陣馬が、皆月の居るソファの方へと視線を送る

 

 「おはようございます皆月さん。お茶要りますか?」

 

 急須を使いお茶を作っていた陣馬は、皆月に向けて声を掛ける

 その質問に「はい、お願いします」と寝ぼけた声で返答した皆月は、凝り固まった身体を伸ばすために簡単なストレッチを始める

 腕を伸ばしたり、首を回したり、腰をひねったりとソファの上でストレッチをしていた皆月は、ストレッチの最中に背後の机に向き合って資料を読み込む漆ノ神の姿を視界に捉える

 普段の怪しい微笑みを隠し、真面目な表情で資料を読み進める漆ノ神は、今まで一睡もせずに事件解決の糸口になる情報を集めていた

 その証拠に事務所の壁には事件解決の証拠になる可能性のある資料が、穣うよう度別に分けられ貼られていた

 皆月はその漆ノ神の姿と壁の資料を交互に見ると、「私ももっと頑張らないと」と小さく呟き頬を叩いた

 そうして決意を新たにした皆月の下に、急須とコップが乗せられたお盆を持った陣馬が歩いて来る

 そして皆月の居るソファに到着した陣馬は、机の上にお盆を置くとお茶を注ぐ準備を始める


 「ありがとうございます、陣馬さん。先、片付けますね」


 皆月は陣馬の邪魔にならないように机の上に置かれた資料や、怪異に操れていた男が使っていた携帯を端に寄せ始めたその時だった

 慌ただしく動かしていた皆月の手の甲が机の上に置いていた携帯を叩き、その衝撃で携帯が机の上から地面に落下する


 「おっと」


 落下の衝撃でスマホの画面が点灯し、皆月が寝落ちする前に調べていたアプリが画面に映る

 そのアプリは出会い系アプリであり、怪異に操られ皆月を部屋に踏み込んで襲った男が生前に使っていたものであった

 皆月は落ちたスマホを拾い上げると、画面を操作しながら愚痴を溢す

 

 「何処に重要な情報があるのか分からないので隅々まで目を通してるんですけど、中々これってものは見つからないですね」


 「そうですね、恐らく相当な長丁場になると思います」


 「最悪の場合は私が身体を張ればいいんですけどね」


 「まあ、そうならないように此処であの怪異の居場所に繋がる証拠を見つけましょう。とりあえず今は、これでも飲んで休んでください」


 「すみません、ありがとうございま――――――す?」


 スマホを操作しながら陣馬が用意した温かいお茶を呑もうと伸びた皆月の左手が、特定のページを見た途端に停止する

 

 「皆月さん?」


 突然目を見開き停止した皆月の姿を見た陣馬が困惑し、声を漏らす

 その声に反応したのかは定かではないが、陣馬の呼びかけに合わせて皆月が慌ただしく動き出す


 「あ、あの陣馬さん! 最初の、福島県で起きた事件の犯人の! スマホ、スマホを持ってきてもらえませんか!」


 「あ、ああ」


 陣馬は上擦った声でそう捲し立てる皆月の指示に驚きながらも、部屋の端に置かれた調査済みと書かれた箱へと駆け寄り、その中から福島県の事件の犯人として逮捕された医師のスマホを取り出す

 それから行きと同じ様に小走りでソファへと舞い戻った

 

 「何かあったの?」


 そして突然上がった皆月の大声を聞き、漆ノ神も自身の席からソファへと辿り着いていた


 「す、少し待っててください」


 漆ノ神と陣馬が見守る中、受け取った一件目の事件の犯人のスマホを操作する皆月は3分ほどの沈黙の後、先程のスマホと合わせて二つのスマホの画面を掲げる


 「あの! この画面の女性と、こっちの画面に映っている女性、同一人物では無いですか?」


 そう言って皆月が漆ノ神達に見せたスマホの画面には、出会い系アプリでマッチした人物が映っており、そして服装は違うがそのどちらのマッチ欄にも容姿が似ている女性の写真が表示されていた


 「まさか」


 スマホの画像を見た漆ノ神は、棚に置かれたマンションのエレベーターホールで皆月を襲った犯人のスマホを取り出しアプリを確認していく

 そして先程の二人の犯人とは違う別のアプリではあるが出会い系アプリのマッチ欄の中から、件の女性に似た女性を探し出す

 それから二人の下へと舞い戻った漆ノ神は皆月の持つスマホの横に3人目のスマホを並べ、画面内の女性の容姿を比べていく


 「二人ともこれ」


 「ああ、これは……!」


 「間違いないです」


 「ええ、同一人物ね」 「同一人物だ」 「同じ人です」


 数分後、漆ノ神達三人が出した結論は、犯人たち三人が出会い系アプリで出会った女は同一人物である事と、この女が20年前から始まった『東京都婦女連続解体及び部位消失事件』から続く事件の黒幕である怪異に繋がる重要人物でもあるという事だった

 

 「陣馬さん、彼に連絡して頂戴。警察の権限でこの女性のアプリ内の会話から個人情報まで全て調べさせて」


 「分かりました」


 「さあ、奴を眼前に引きずり出すわよ」


 そして怪異に繋がる情報を手に入れた漆ノ神達は、20年前から続く事件解決の為に動き出すのだった



         ――――――――――――――――――――――



 怪異に繋がる女の情報が発覚した日から1週間後の5月13日、時刻は間もなく19時

 日が落ちきり、空を暗転が包むこの時間に漆ノ神達三人は、窓が全て分厚いカーテンで塞がれた大型の車両内に居た

 漆ノ神ら三人が乗るその車両は警察が所有する、事件などで指揮が行われたり外部の様子を監視するためのモニターが置かれた指揮車であった

 そして今、漆ノ神はそのモニターに映る映像をじっと睨みつけていた

 漆ノ神が見つめるその複数のモニターには、駅の近くにある広場をバラバラのカメラから撮った映像が流れており、そしてその映像の中心にはスーツを着た恰幅の良い一人の男が映っていた

 緊張した面持ちで映るその男の名は、近藤こんどうみつる

 かつて福島の山中に現れた幽霊の正体を明かしてほしいと、漆ノ神超常現象調査所に依頼を持ってきた男であった

 なぜもう依頼としては解決したはずの事件の依頼者が、また漆ノ神の見つめるモニターに映っているのかと言うと、それはあの怪異に関係する女性が利用していた出会い系アプリに関係していた

 あの日、漆ノ神達からその不審な女とアプリの件の情報を受け取った警察は、その件を重要事案として人員を派遣し、2日と待たずに女の個人情報とアプリ内の情報を入手していた

 女の名は宮金みやがねみやこ、職業フリーター。数年前に亡くなった両親から引き継いだ八王子の自宅在住の27歳。近所の人間との交流は無く自宅に籠りがちであったが、2年ほど前から派手な服で出かける姿が何度も目撃されていた

 そして件の出会い系アプリ内では女が使い始めた1年程で4名とマッチングしており、内訳は福島の犯人と皆月をマンションで襲った二人の犯人、そして近藤充であった

 近藤は警察がアプリ内の情報を入手した日から数日後の5月13日に、件の女と待ち合わせをしており、その事を警察から知らされた漆ノ神は丁度良いと自身が考えていた作戦内に近藤を埋め込むことにしたのだった

 そして翌日、早速近藤と顔を合わした漆ノ神は『東京都婦女連続解体及び部位消失事件』から始まったある怪異との確執の話や、漆ノ神超常現象調査所が現在置かれている状況、更にその怪異を討伐する為の作戦が進行している事を話し協力を仰いだ

 そして現在、近藤の協力を得た漆ノ神主導の作戦が進行しており、その作戦の重要な役目を任せられた近藤へとイヤホン越しに漆ノ神の声が届く


 「近藤さん、聞こえる? 聞こえてたら腕を組んでもらえる?」


 漆ノ神の指示から数秒後、緊張した面持ちの近藤が腕を組み指示が聞こえている事を示した


 「監視している警官らの話だと後5分程で件の女が到着するようだから、事前の計画通り頼むわね」

 

 近藤への最後の指示を送った漆ノ神は腕時計に視線を下ろし、作戦開始の時刻を待ち望む

 そして作戦開始が迫るごとに緊張感が増すこの指揮車内の扉が開き、男が一人電話をしながら入って来た

 面の良い40代後半ぐらいのその男は、耳に当てていた携帯をモニター前に立つ漆ノ神に投げ渡す


 「漆ノ神所長、現場の刑事からだ」


 「ありがとう」


 携帯を受け取った漆ノ神は、電話の向こうに居る刑事と会話を始める

 

 「それでどうだったかしら?」


 「漆ノ神さんの予想通り遺体を一つ、床下から見つけました」


 「性別は?」


 「女性です、腐敗が酷いですが検視官の話だと亡くなってから1年程だそうです」


 「ありがとう、助かったわ。これ返すわね」


 電話の向こうの刑事からの報告を聞いた漆ノ神は、横に立つ面の良い男に携帯を返却する

 

 「報告は聞いたな? 見つかった死体は恐らく宮金都だろう。なら今、宮金都としてこちらに向かっているあの女は———」


 「奴でしょうね」


 「そうか……。漆ノ神所長、逃がさんでくれよ」


 「ええ、もうあの日と同じ過ちは繰り返さないわ」


 「なら良い」


 話を終える漆ノ神と面の良い男、その話が終わるのを待っていたかのように駆られの背後に居た陣馬が口を開く


 「監察官」


 「ん? ああ、ジンさん。急に監察官呼びなんてどうしたんですか」


 「いや、部下の前だろ。そっちの方が良いかと思ってな」


 「今更良いですよ。私達の仲でしょう」


 「そうか、なら上崎」


 「はい」


 「此処まで力を貸してくれてありがとう。20年続いて来たあの日の因縁にようやく終止符を打てる」


 「そうですねジンさん。終わらせましょう」


 上崎永利は彼女である大内の事件を切っ掛けに、ノンキャリアでありながら監察官の立場まで昇進を果たした

 これも全て彼が20年前の『東京都婦女連続解体及び部位消失事件』から続くこの因縁に終止符を打ち、彼女である大内の仇を取るためだった


 そして陣馬と上崎が互いに思いを胸に覚悟を決めていた頃、近藤が待つ駅近くの広場を囲むように設置されたカメラが一斉に一人の人物を捉える

 黒髪、白いワンピース、そして整った目鼻立ち

 誰が見ても美しい人間にしか見えないその女こそ、件の宮金都を名乗る何者かであった

 そしてその姿をモニター越しに捉えた漆ノ神が一言、静かに呟く


 「じゃあ、行ってくるわね」


 その言葉に陣馬と皆月が揃って返答する


 「ご武運を」


 「後はお願いします、漆ノ神さん」


 漆ノ神はその声援を背に、指揮車を後にするのだった


 

 

         ――――――――――――――――――――――

 



 2025年5月13日19時5分

 無数の人が往来する駅にほど近い平場にて、事前の待ち合わせの時刻から5分遅れてその女は現れる

 件の女は時計の下に立つ近藤目掛けて一直線に駆け寄ると、僅かに息を乱しながら口を開く


 「あの、近藤さんですよね?」


 「あ、はい。そうです」


 「お待たせしてしまって、すみません。約束していた宮金です」


 「あ、えーと、今日はよろしくお願いします」


 目前に立つ女の事を事前に知らされている為、僅かな恐怖と恐怖で表情の硬い近藤に対し、件の女は優しそうな笑みを零す


 「ふふ、近藤さん緊張してます?」


 「え、ええ、はいっす」


 「ならお互い様ですね。私もとっても緊張してるので」


 「そうなんすか?」


 「そうですよ。ドキドキです」


 最初は緊張していた近藤であったが、その緊張の要因である筈の件の女との話で緊張が解けて来ていた


 「あっ、そういえば予約の時間大丈夫ですか?」


 「え? ああ、それなら大丈夫です。30からの予約ですし、それにここからすぐなので。でも遅れるといけないので、そろそろ行きましょうか」


 「はい!」


 それから近藤は件の宮金を名乗る女と共に予約しているレストランへ向かった

 そして待ち合わせの駅近くの広場から約5分、彼ら二人は予約しているレストランが入るホテル到着する

 

 「ここのレストランからの夜景が綺麗なんすよ」

 

 「そうなんですか、それは楽しみです」


 近藤たちは高級感溢れるそのホテルのドアマンの立つ入口を抜けラウンジを通り、エレベーターで47階へと昇る

 そして47階にあるレストラン到着した近藤は、入口に立つ従業員に名前を告げる


 「7時半から予約していた近藤です」


 「はい、近藤様ですね」


 ホテルの従業員は近藤の名を聞くと無線で何処かに指示を送った

 そしてその指示から、2分と経たずにレストランの扉が開いた瞬間だった

 近藤の背後、彼らの死角となる位置から漆ノ神が音も無く現れ、近藤の真横に立っていた件の女の背中に蹴りを放った


 「ブ――――――!?」


 その蹴り、常人では一撃で命を取られかねない一撃を背に受けた件の女は、驚愕の声を上げてレストラン内へと吹き飛ばされていく

 そして先にレストラン内に入場した件の女に続いて、漆ノ神がレストランへと降り立った


 「こんばんわ。私の事、覚えてるかしら」


 無人のレストランの中心で苦悶の声を上げる件の女へと、漆ノ神は普段通りの声音で質問を飛ばす

 その質問に対して帰って来たのは、困惑の声であった


 「いきなり何なんですか貴方は! 暴力なんて――――――!」


 「あら、まだ人のふりを続けるの? 熱心で良いけど、その身体じゃ難しんじゃないかしら」


 「は? えっ――――」


 漆ノ神の指摘を聞いて件の女が見たのは、肉が抉れ背骨が露出した自身の身体であった

 

 『ぎ――――――ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

  

 傷ついた、人であれば死んでいてもおかしくないその傷を目撃した件の女は、金切り声を上げる

 ただそれは痛みから来たものでは無く、怒りから来たものだった


 『よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも、よくも! 私の美しい身体に傷を付けたな!」


 「私の? は、最初から貴方のじゃないでしょ』


 漆ノ神は自身に向けられた空気が震える程の怨嗟の声を、鼻で笑って受け流す

 

 『これじゃ、これじゃ娶って貰えない! 美しくないと花嫁になれないのに!』


 「…………人を傷つけ殺し、凶行を続けていた理由がそれ?」


 美しくなって花嫁になる、まるで人の様な望みを語る件の女、いや20年間凶行を繰り返してきた女の怪異

 その到底信じれない言葉を聞いた漆ノ神は、静かに表情を消す

 そしてもう語りは必要ないと宣言するように一歩、力強く踏み出した

 狙いは勿論、あの女の怪異の排除である


 『――――――ヒィ!?』


 凄まじい殺気を感じ取った女の怪異は悲鳴を上げながらも、迫る漆ノ神へ肉体から生やした無数の腕をぶつける

 だがしかしその腕々は、簡単に引き裂かれて宙を舞う

 

 『ぁぁぁぁぁ!』


 反撃の一手が空振りに終わり、勝てない殺されると悟った女の怪異は、即座に逃げの姿勢に転じる

 地面を蹴り、漆ノ神との距離を取ろうとした女の怪異は背後へと跳び退こうとした

 だがその時、地面から跳び上がり空中にあった女の怪異の脚が掴まれ、その行動を止められる

 

 『!?』


 驚き声も出せない女の怪異

 その足を掴んでいたのは、当たり前だが漆ノ神その人であり

 そして次の瞬間、漆ノ神の目前に引っ張られた女の怪異の頭目掛けて、漆ノ神の拳が振り下ろされる


 『ヒ――――――!』


 響いた悲鳴、その短い音を掻き消すように振り下ろされた拳が女の頭蓋を地面に叩きつけて砕き、この世からその存在を消滅させるのだった


 「………………」


 まるで霧のように消えていく黒い血潮の上で怪異の消滅を見届けた漆ノ神は、ポケットからスマホを取り出し電話を掛ける

 

 「もしもし、陣馬さん終わったわ」

 

 相手は相棒である陣馬、漆ノ神は彼に怪異の目的や事の顛末を伝え終わると電話を切り、その場を後にするのだった

 


         ―――――――――――――――――――――― 


 

 そして女の怪異を祓ったあの日から数日後、漆ノ神達三人は事務所から30分ほど車を飛ばした場所にある、高層マンションにやって来ていた

 その高層マンション前の道路に車を止めた漆ノ神と陣馬は、車内に皆月を残して車外に出ると目前に聳える高層マンションの入り口近くの壁に寄りかかって時間を潰していた

 時間にして15分ほどだろうか、待っていた彼ら二人の近くに車が一台停止する

 そして高級感のあるその車から運転手が降りてすぐ、楽しそうな話声と共にマンションの自動ドアが開き家族連れが出てきた

 大人が二人と子供が一人、そのうちの男性は陣馬の元部下であり漆ノ神達と30年前の事件から始まった一連の怪異事件を共に追っていた上崎永利であった

 漆ノ神と陣馬はマンションから上崎が出てきたのを見ると、深々と頭を下げる

 幾つもの気持ちが込められたそのお辞儀は、上崎だけではなくその横に立つマスクを付けた女性にも向けられていた

 その女性は20年前に上崎の彼女として漆ノ神達と出会った大内咲であり、彼女は20年前の事件で顎を損傷したが何とか一命を取り留め、そして現在は上崎と結婚し一女を儲けていた

 

 「………………」


 大内は頭を下げる漆ノ神と陣馬の姿を見ると、目元に涙を滲ませながら同じ様に深々と頭を下げる

 大内も漆ノ神達と同じに20年前から続く事件には並々ならぬ思いが有り、その事件を解決してくれた二人に向けて感謝があった


 そして数秒の後、頭を上げた互いの間を割るように声が響く

 

 「お母さん、行かないの?」


 それは上崎夫婦の娘の声であった

 上崎夫婦はその娘の声に急かれるように漆ノ神達に「それじゃあもう行きますね」とだけ伝えて車に乗り込んで行ったのだった

 そして上崎達を乗せて走り去っていく車を見送った漆ノ神と陣馬も、自分たちの車へ歩き出す


 「そういえば陣馬さん。これからどうするのかしら?」

 

 「どうするのとは?」


 「ほらあの日交わした私達の契約は、あの事件を解決するまで協力するって話だったでしょ。だからもうさよならになるのかと思ってね」


 「ははは、何を言うかと思ったらそんな事か」


 「ふふ、笑う事無いじゃない。これでも20年共にした相棒と別れることになると思って寂しくしてたのよ」


 「ふ、お前にもそんな感情あるんだな」


 「そりゃあるわよ、私の事なんだと思ってるの?」


 笑みを浮かべながら会話を楽しむ二人


 「……なあ、契約とか関係なく居ても良いんだろ」

 

 「当たり前よ。うちは何時も人手不足だしね」


 「なら、これからもよろしく頼むよ所長」


 「ええ、よろしく私の相棒」


 拳を合わせる二人

 そして車に戻った漆ノ神と陣馬を皆月が出迎える


 「漆ノ神さん、陣馬さん。伝えられましたか?」


 「ええ」


 「ああ」


 「なら良かったです」


 漆ノ神と陣馬の二人はあの日、怪異の襲撃を止められず傷つけてしまった大内へ事件解決の報告を終えられた事でようやく、あの事件を本当の意味で終わらせる事が出来たのだった


 「それじゃあ、帰りましょうか私達の事務所へ」


 「そうだな」


 「はい!」


 

         ―――――――――――――――――――――― 



 そして更に数日後、漆ノ神超常現象調査所内にて

 これから来る依頼人の事件に関する資料を確認する漆ノ神と陣馬の二人に対して、台所から現れた皆月がお茶が注がれたコップを渡していく


 「どうぞお二人とも」


 「あら、ありがとう」


 「おう、助かる」


 漆ノ神と陣馬にお茶を渡した皆月は、近くの席に座ると資料を読み込む二人の事をニコニコとした顔で見つめる

 その何とも言えないし視線を受けた漆ノ神は、困惑した顔を浮かべる


 「そういえば、今更だけど皆月さんは何時までうちに居るのかしら?」


 「え? ずっと居る気ですけど」


 「ん、アイドルはどうしたの?」


 「そういえばそうだな、そっちのはどうなったんだ」


 「アイドルですか? 辞めましたけど……あれ? 言ってませんでしたっけ」


 「「――――――」」


 皆月の辞めた発言に、二人揃って目を丸くする


 「あれ? え? 今までの感じでもう私も漆ノ神超常現象調査所に入れてもらえると思ってたんですけど…………、もしかして勘違い!?」


 「確かに事件解決まで協力して貰っていたけれど、私はてっきりアイドルに戻るものだと思ってたから……」


 「俺もです」


 漆ノ神達の言葉に顔を青くした皆月は、椅子から地面に崩れ落ちる


 「………………勘違い、早まった? 私、この先どうしたら」


 「おい、どうするんだ漆ノ神!」


 「どうするって、まぁ、アイドル続けると思ってたから誘わなかっただけで、うちに入るためにアイドル辞めてまで来る熱量見せられたらねぇ…………」


 「雇ってくださるんですか!」


 「ええ、これからよろしくね」


 「はい!」


 「良かったな、皆月さん」


 こうしてごたごたがあったとはいえ皆月燈華という調査員を加えた漆ノ神超常現象調査所は、新たな体制でこれからの依頼に挑む事になるのだった

 そしてそんな漆ノ神超常現象調査所の面々が戯れている間に時間は過ぎ、事務所内に扉をノックする音が響く

 何度か鳴ったその音は、新たな依頼人が来た事を示していた


 「じゃあ、早速仕事して貰おうかしら。皆月さん、依頼人を迎え入れて貰える?」


 「はい!」


 漆ノ神の指示に従って、やる気満々の皆月が扉に向かい、そしてその扉を開けて依頼人を招き入れた

 

 「ようこそ漆ノ神超常現象調査所へ」


 

 




                   漆ノ神超常現象調査所 【亡骸新婦】 完 


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