亡骸新婦・前編
2005年2月16日、22時55分
東京都新宿区の某所
僅かに雲がかかった夜空の下に広がる、閑静な住宅街
普段であれば静かなはずのこの時刻のこの場所は現在、輝く赤灯と響き渡るサイレンの音、そして動き回る無数の人影によって酷く騒がしい場へと様変わりしていた
「陣馬警部補、こちらです!」
規制線の前で立っていた壮年の警官が、つい今しがた現場に到着した警察車両から降りてきた中年の男と若い男に向けて声を掛ける
警官から声を掛けられた中年の陣馬と呼ばれた男は、その声掛けに手を挙げて応じた後、手に持った灰色のコートを身に纏う
そして一度白い息を吐いてからその警官の下へと歩き出す
「それで状況は分かったか?」
「はい、通報者はあの家の持ち主である木戸光郎さん37歳で、被害者はその妻、木戸美津子28歳です。主人である光郎氏が帰宅したところ一階リビングで妻である美津子さんがバラバラに切り裂かれて倒れていたそうです」
「バラバラ殺人、……またか」
「ええ、例の事件と同一犯であると考えたらこれで3件目です」
陣馬と若い刑事と警官の三人は会話をしながら規制線を超える
そして現場である一軒家へと進もうとしたその時、何か言いようのない視線を感じた陣馬が振り返る
彼の視線の先、現場を囲むように張り巡らせられた規制線の周りには、無数の観衆と記者でごった返していた
本来、これだけの人物が居れば目立つ人物など浮かび上がってこない
だが唯一、その人混みの中で浮かび上がるように存在感を放つ人物が居た
(あれは………)
その者とは、柄シャツの上から白いコートを羽織りサングラスをかけた長身の男だった
陣馬はその男の異質さに寒気を覚える
触れてはいけない、近寄ってはならないと
だが刑事としてその異質を見逃すわけにはいけないと、声をかけようとした
しかしその直前に横に立っていた若い刑事から声が掛かる
「どうしましたか、ジンさん?」
「ん? ああ、あそこの不審者に声……を」
そう言って陣馬が振り返った時にはもうそのサングラスをかけた白コートの男の姿は、霞ように消え去っていた
(幻覚? いや、そんな訳が……。まあ、いい今は現場が優先だ)
「いや、何でもない。現場に向かうぞ」
「はい」
そして現場の住宅へと消えていく陣馬と若い刑事と警官、ただ彼らは気づけなかった、その後ろ姿をただじっとサングラス越しに見つめる者が居たことに
―――亡骸新婦—――
2025年5月1日、21時51分
ルネッタタワー品川、エレベーターホール内
「ああ、やっぱり狙われていたのね」
「えっ? う、漆ノ神さん?」
帽子を被った謎の男に首目掛けてナイフを振り下ろされた皆月
その危機的状況の彼女を救ったのは、帽子を被った男の背後にいつの間にか立っていた漆ノ神であった
漆ノ神はその帽子を被った男が振り下ろしたナイフを軽々と掴むと、そのままナイフごと帽子を被った男を投げ飛ばす
そして吹き飛んだ帽子を被った男はエレベーターホールの壁に衝突し、その衝撃で意識を失い地面に倒れ伏した
「何が……」
目前で起こった幾つかの出来事に困惑し言葉を漏らす皆月に対し、一歩近づいた漆ノ神はまたもや彼女を混乱させる行動に出る
漆ノ神は突然、皆月に向かって頭を下げて謝罪の言葉を述べた
「皆月さん、まず謝らせて。ごめんなさい、私達は貴方を目的の為に囮にしたわ」
「え? 本当に何が……何だか。その、説明を」
「ええ、分かっているわ。でも、その前に移動しても良いかしら? 此処だと、騒がしいから」
時刻は22時を過ぎてはいたが、まだそれでも僅かにこのマンションの出入りを行う人間は居り、徐々にこの騒ぎによってエレベーターホールに人が集まりつつあった
漆ノ神はこの人が集まりつつある状況が自身らと依頼人である皆月の両者にとって不都合であると判断し、説明よりも先にエレベーターホールからの移動を提案した
そして皆月も少しでも早い説明をして欲しい気持ちが有りつつも、アイドルという立場上プライベートで人の多いところに居たくない気持ちが強く働き、その漆ノ神からの提案に同意の意を示す
「そうですね、お願いします」
漆ノ神はその同意を聞くと丁度マンションの外から警官を連れて入って来た陣馬に指示を送った
「陣馬さん、この場は彼らにお願いして私達は事務所に戻りましょう」
「分かりました。では、この場の処理は頼んだ」
「「は!」」
陣馬の命令を素直に聞き、現場の対応へと移る警官達
その仕事を横目に漆ノ神ら三人は、そそくさとマンションを後にして、車道に止めていた車に乗車する
そして三十数分、夜道を走り抜けた漆ノ神ら三人は都内某所に置かれた漆ノ神超常現象調査所の事務所に到着した
建物自体は古いが掃除が行き届いているのか綺麗な事務所内、そこに漆ノ神が扉を開けて入るや否や皆月をソファへと誘導する
「それじゃあ、座ってもらえる。陣馬さん、何か飲み物を」
「はい」
漆ノ神の指示通り、皆月はソファへと疲労からか重苦しく腰を下ろす
そして皆月と同じように指示を受けていた陣馬も、皆月の着席を確認後にキッチンでコーヒーを注ぎながら話を振った
「皆月さんはコーヒーで良いですか?」
「コーヒーで大丈夫です」
「ミルクは要りますか?」
「お願いします」
簡単な会話が終わって数分後、暖かいコーヒーを手に陣馬が漆ノ神と皆月が対面で座るソファに向かって進み、それから「どうぞ」の言葉と共に間に置かれたテーブルへと置かれる
漆ノ神はその湯気立つコーヒーを少しも冷ます素振りを見せないまま躊躇なく僅かに口に含んでから、口を開く
「説明を始めても良いかしら?」
「はい」
「……じゃあ、そうねまず結論から。貴方の依頼して来た事件は解決したけど、貴方本人は今もまだ別の怪異から命を狙われているわ」
「別の怪異、ですか?」
皆月は漆ノ神の口から出た言葉に疑問を覚え眉を顰める
「少し噛み砕いて言うと、あのマンションでの依頼時に捕らえた男とさっきの男の二人は、貴方が襲われマネジャーである美乃梨さんが死んだ依頼の事件とは何の関係ないって事。つまり貴方は最初の時点で芽母の会と第二の事件の怪異の二つから狙われていたって訳。どう分かったかしら?」
「まだ混乱しているので全てでは無いですが、何となくは分かりました」
「だったらそのことを念頭に置いて、最初の言葉を思い出してみて」
皆月は未だ混乱の中に中にある頭をフル回転させて、漆ノ神の口から出た話の内容を噛み砕いていく
そして逡巡の後、彼女は現在時自身がどのような状況に置かれているのかを完全遺理解する
「……ということは、今も私は死の危険に晒されているのですね」
「そうね、そうなるわね。でもその事をちゃんと説明する為に、少しだけ昔話をしたいんだけど良いかしら? あまり聞いて気持ちの良いものでは無いけど」
皆月はその言葉を聞いた後、覚悟決めるように一度深く深呼吸をする
そして僅かに震える身体を抑えながら正面に座る漆ノ神へと視線を向け口を開く
「大丈夫です、お願いします」
皆月の同意を得た漆ノ神は、僅かに視線を下げゆっくりと話始めた
「あれは今から20年前の……『東京都婦女連続解体及び部位消失事件』と呼ばれる事件の三件目が起きた後の事だったわ――――――」
――――――――――――――――――――――
2005年2月18日 9時15分
警視庁『東京都婦女連続解体及び部位消失事件』捜査本部
「――――――以上を持って会議を終了とする。必ずこの卑劣な事件のホシを上げるぞ!」
捜査本部が置かれる広々とした会議室に声が響く
怒りと熱がこもったその声は、今回の事件の捜査指揮を執る捜査一課課長のものであった
そしてその声を受ける無数の捜査員達もその怒りに同調するように、声を上げる
「「「「「は!」」」」」
重なり合い捜査本部を揺らした重厚なその声は、今回の事件に対する捜査員達の気合の入りようを示していた
そして捜査会議の終了と共に彼ら捜査員達は一斉に本部を後にしていく
全ては三件もの凶悪なこの事件を起こした卑劣な犯人を捕らえる為であった
そして本部から散っていった彼らの退場を待って、動き出したのは陣馬穣警部補とその相棒である上崎永利巡査部長の二名だった
還暦間近の中年刑事と26歳の若手刑事の老若コンビである彼らは、今回の事件に僅かではあるが違和感を覚えていた
「取り合えず、聞き込みからですね? ええと、犯人の特徴は黒いレインコートを着た大柄な男でしたっけ」
「ああ。ただ昨晩の事件の証言は他の奴が取るだろうから、俺達は第一の事件の聞き込みに行くぞ」
「最初の事件ですか? 今さら何か取れますかね」
「今だからこそって事もあるだろ、とにかくつべこべ言ってねえで行くぞ永利!」
「いっで!? 分かりましたってジンさん」
情けの無い事を言う上崎を陣馬は手帳で叩いてから本部から出て行く
上崎はその叩かれた場所を掻きながら陣馬の後を追って捜査本部を後にした
そして意気揚々と街へと飛び出していった老若刑事コンビは、12時間を超えた聞き込みを終え帰路に着いていた
ただその足取りは力強かった朝のものと大きく違い、引きずるように重たいものに変わっていた
その理由は単純明快、何の成果も得られていなかったからだった
「やっぱ、無理だったな」
「だから朝、言ったじゃないですか」
「仕方ない、戻って他の班の成果を見に行くか」
「あ、ジンさん今日このまま帰って良いですか?」
「ん? 何かあるのか」
「それが今日、彼女と付き合って1周年の記念日で……早く帰りたくて」
「ははは、良いよ帰れ帰れ」
恥ずかしそうに現場から直帰したい理由を語る上崎に対して神馬は大笑いした後、 さっさと帰ってやれと帰宅を促すような発言と動作を見せる
上崎はその発言を聞くと、はち切れそうな笑顔で頭を深く下げる
その地面にでも着くんじゃないかと思える程に下げられた頭の位置は、上崎の陣馬に対する感謝の質を表していた
「ありがとうございます! この恩は何時か返しますんで」
「ああ、お前が昇進した時にでも返してくれ」
遠く離れていく上崎を見送った陣馬は、懐から取り出した煙草に火を点け吹かしながら一人ゆっくりと捜査本部のある警視庁へと歩いて行くのだった
そして彼ら二人が別れてから2時間ほどが経った頃だった
捜査本部で一人、他の班が取って来た証言を片手に捜査資料を読み込んでいた陣馬の携帯電話が独りでに震える
「あ? 誰だこんな時間に」
操作に関連する連絡かもしれないと、開いた携帯電話の液晶を覗き込む陣馬の視線に写り込んだ文字は
―――――― 上崎 ――――――
僅か数時間前に見送った相棒の名前であった
(永利……?)
彼女と居るはずの時間に掛かって来た相棒からの電話に、何か嫌な感覚を覚えながらも陣馬は携帯のボタンを押して通話を繫ぐ
「おう、永利どうし「ジ、ジンさん……助けてください」」
そして繋がった通話から聞こえてきたのは、息も絶え絶えで苦しそうな上崎の声であった
陣馬はその声に驚きながらも、刑事らしい切り替えの早さで冷静さを取り戻して声を掛ける
「何があった?」
「俺の家で、彼女と飯を食べてたら……突然扉が開いて。それでその後、あの事件の犯人に似た特徴を持つ黒いレインコートを着た男が入って来て、襲われました。男は何とか撃退しました、ただ腹を刺されて」
「刺された!? お前だけか、彼女は?」
「俺だけです」
陣馬は上崎の話を聞くと直ぐ周囲に居た刑事たちに指示を送る
「おい! 東京都新宿区〇〇丁〇の〇の203号室に今すぐ救急と捜査員を送れ! 相棒が刺された!」
「は? あ、お、おう!」
陣馬の言葉を聞いて、慌ただしく動き出す捜査本部の捜査員達
その動きを横目に陣馬は、電話越しの上崎に声をかけ続ける
「とにかく彼女が動けるなら止血してもらえ、分かったな?」
「は、はい」
「もう救急は向かわせたから、少しの辛抱だ。俺もすぐにそっちに行くからな!」
ポケットから車の鍵を取り出し走り出す陣馬
彼は焦りを感じさせる動作でそのまま駐車場に向かい、車に乗り込んだ
そして電話から15分後、車を飛ばして駆け付けた陣馬が目撃したのは、203号室から救急隊員達の手によって担架で運ばれる上崎の姿だった
傍らには青ざめた顔をした20代の女性の姿がおり、担架の後を心配そうな顔で追っていた
「――――――永利!」
陣馬は危険な状況に陥る相棒の姿に居ても居られなくなり車から雨が降る車外へと飛び出ると、周囲に張られた規制線を超え警官を押し退けて担架へと駆け寄った
「永利!」
「………………」
呼びかけられた声、だがその声に上崎は意識を失っているのか応える事なく彼女と共に救急車に乗り込んで行った
そして動き出した救急車は、立ち尽くす陣馬を置いて遠くに消えていった
陣馬はただその様子を強い雨に打たれながら、黙って見ているしかなかった
そうやって陣馬が雨に打たれていると、警官が心配そうな顔で近寄っ来る
「あの、事件の関係者の方ですか?」
「いや、こういう者だ」
その問いかけに陣馬は警察手帳を見せて応じる
「警部補……! お疲れ様です!」
「いや、迷惑かけた。後は任せる」
「は!」
警官達に事件現場を任せてその場を発った陣馬は、上崎が電話内で語った襲撃犯の特徴を呟きながら現場周辺を捜索し始める
何度も何度も何度も道を往復し、少しでも人が隠れられそうな場所を発見すれば確認して潰すという作業を繰り返していく
だがどれだけ動こうとも証拠も見つからず、その足取りすらつかめず徒労に終わる
陣馬は悔しさと己自身への怒りから、握り込んだ手を壁に叩きつけ叫んだ
「くそっ――――――!」
夜も更け、そして土砂降りの雨、周囲には誰も居らずその叫びはただ闇に消えていくだけに思えた
だがその叫びに応じるように人影が一つ、雨の中から陣馬の前へと姿を現した
「こんばんわ、陣馬さん」
「――――――誰だ!」
鳴り響くサイレン、闇夜から注がれる雨粒
普段とは違うこんな状況には不釣り合いな声音で一言、陣馬に声をかけてきたのは、サングラスをかけ白いコートを着込んだ長身の者であった
陣馬はその特徴的な容姿を見るとすぐに、現在発生中の『東京都婦女連続解体及び部位消失事件』の第三件目の事件現場に居た者であると確信する
「お前は事件現場に居た――――!」
「あら、覚えてくれていたのね。嬉しいわ」
傘の中でサングラスの者は、微笑みを浮かべる
「私は漆ノ神一流斎。流れの除霊師よ」
(除霊師? 何を言っているんだ、コイツは)
突然現れ、除霊師と名乗った件の者
陣馬はその発言を冗談やからかいの類であると判断し、追い払おうとした
「何を馬鹿な事を。こっちにお前の世迷言に構っている時間は無いんだ。どっかに行け」
だが次に漆ノ神の口から出た言葉によって、対応を変えるしかなくなる
「私が貴方の部下が刺された事件に関しての情報を持っていたとしても?」
「!?」
「必要でしょ、情報。どう、協力する気はないかしら?」
「何を知って――――」
「協力するの、しないの? どっちなの?」
その強引な提案はまるで悪魔の契約の様だった
陣馬にとって目前に立つ漆ノ神という者は、凄まじくおどろおどろしいものに映っており、そして彼はそんな者の話をまともに取り合ってはいけない事も分かっていた
だが今、何の手札を持っていない彼にとって、その提案はとても魅力的なものであり――――――そして逡巡の後、陣馬が下した決断は
「協力はしよう。だがそれは、この事件が解決するまでだ」
「ええ、良いわよ。よろしくね、陣馬さん。じゃあ、早速で悪いけど車出してもらえる?」
「あ?」
「行先は、貴方の部下が運ばれた病院で頼むわね」
2005年2月19日 0時55分
闇夜と降り止む気配の無い雨によって淀んだ雰囲気を醸し出す新宿の街
普段とは違い、人通りの少ないこの場所を進む一台の車があった
年代物であるからは分からないが、お世辞にも綺麗と言えないその車両の運転席と助手席にて会話が繰り広げられていた
「そもそも今回の事件、傍から見ておかしな点が多いでしょう。まずどの現場も侵入の形跡があったのは玄関で、ピッキングの跡も無し。そしてそれ以外にも侵入経路になりそうな場所も無かった。次に三件全ての被害者が殺害されていた地点は、リビングなどの玄関から離れていた場所だった。ここまでで分かるのは、玄関から侵入した犯人が部屋内部に居た被害者を殺害したってこと。
で、此処で疑問があるとしたら犯人はどうやって施錠されている玄関から侵入したのかだけど……まぁ、そうね。例えば配送業者を装って呼び鈴を鳴らし、被害者本人に開けさせるとかかしら。これなら施錠された玄関を超えて屋内に居る被害者を殺せるでしょうね。
これで疑問点が説明できたかと思いきや、今度は別の所に可笑しな点が出てくる
だったらどうして被害者は皆、玄関ではなく玄関から離れた位置で死んでるのかしら。玄関で襲われて逃げたとかかしら?
でももし私の言う通り玄関で襲われて自宅内部に逃げたのなら玄関から犯行現場に至るまでに形跡がある筈。でもそんな痕跡は一つも無く、合ったのは犯行現場に一直線に向かい、そして帰って来る犯人の下足痕だけ。
じゃあ他の可能性だけど、例えば犯人と被害者が顔見知りだった場合はどう?
顔見知りならば、被害者本人に招き入れられた上で内部で犯行を行える。確かにこれなら今まで疑問に説明が付くわね。――――二件目の現場が風呂場かつ、被害者が入浴中じゃなければ。
普通、顔見知りが来ているのに入浴しないでしょう。だから犯人と被害者が顔見知りという説も消えるわ。
だったら犯人はどうやって玄関から侵入して被害者たちを殺害したのか……。その答えはさっき貴方が話してくれた、4件目の事件にあるわ」
「4件目、永利の……」
漆ノ神の発言を聞き、永利の話を思い出す陣馬
〝俺の家で、彼女と飯を食べてたら……突然扉が開いて。それでその後、あの事件の犯人に似た特徴を持つ黒いレインコートを着た男が入って来て、襲われました。男は何とか撃退しました、ただ腹を刺されて〟
彼は逡巡の末、一つの言葉に辿り着く
それは――――――
「突然開いた扉……。そうか、鍵は勝手に開いたのか」
「ええ、人ならざる力でね」
「つまりお前の話を要約すると、今回の事件の犯人は人ではなく怪異だと言うのか」
「断言は出来ないけど、可能性は高いでしょうね」
「……おい、待て。今更だがその情報どこから」
陣馬は上崎の件で焦っていたこともあり、漆ノ神が語る情報が警察が集めた捜査情報であることに今、この瞬間に気が付き声を上げた
「ん? ああこの情報ね」
漆ノ神は一切焦る様子を見せず、コートの内側から折りたたまれた紙の束を取り出した
そして漆ノ神の手で広げられた紙の束には、これまでに起きた『東京都婦女連続解体及び部位消失事件』の現場写真や警察の聞き込みによって得られた証言などの詳細な内容が書かれていた
刑事である陣馬は、漆ノ神が取り出した紙の束の正体を一目見て特定する
それが『東京都婦女連続解体及び部位消失事件』の捜査資料のコピーである事を
「お前、それをどこから!?」
叫ぶ陣馬、それに対し漆ノ神は悪びれる様子無く「ちょっと貴方達の職場から、拝借して来たのよ」と呟いた
「まさか侵入したのか、警視庁に!?」
「ええ、こうそーっとね」
「……なんて野郎だ」
呆れて顔を歪ませる陣馬
それに対して漆ノ神はいたずらっ子の様な笑みを助手席で浮かべるのだった
そしてそれから数分後、合計20分程のドライブの末に漆ノ神達は、刺された上崎が運ばれた大学病院に到着するのだった




