エピローグ
王宮を離れ、馬車の揺れに身を任せながら、私はそっと目を閉じた。
窓の外に流れていく王都の街並みが、夕陽に照らされて橙色に染まっていく。
(――完敗、でしたね)
リディア嬢とアレクシス殿下――
あの二人の強固な絆は、私の及ぶところではなかった。
ふっと微笑が漏れる。
未練がないと言えば、嘘になる。けれど、それでもなお祝福したくなるほどに、美しい二人だった。
(やはり私は――ああいう才ある女性が理想なのだな)
外交に共に出られる。政務でも頼り合える。
ただ甘やかされるだけではない、対等に並び立つ存在。
「……とはいえ」
ぼそりと独り言のように呟く。
「国内には、なかなかそういう女性には出会えませんでしたが。――また、他国で探すとしましょうか」
思わず自嘲の笑みが浮かぶ。
だが、それが決して諦めでも悲観でもなく、ほんの少しの淡い期待を含んでいることに、自分でも気づいていた。
(……まさか、この時の私は知る由もなかったのです)
(あの望みが――まさに自国の中に眠っていたなどと)
馬車は静かに進んでいく。
揺れるカーテンの向こう、遠ざかる王都の塔が、まるで新たな幕開けを告げるように橙色に染まっていた――。
「後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました」に続く。




