表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/46

42

静寂が満ちる大広間の中心で、私は二人の王族の前に立ち尽くしていた。

ユーリ殿下の透き通る蒼の瞳と、アレクシス殿下の銀灰の瞳。

どちらもまっすぐに、私だけを見つめている。


心臓が痛いほどに脈打つ。

視線をそらすこともできず、けれどこのまま時が止まってくれればとさえ思ってしまう。


けれど――決断を下すのは、私なのだ。


私はそっと深く息を吸い、静かに一歩を踏み出した。

向かった先は――アレクシス殿下の前だった。


彼の銀灰の瞳が、僅かに揺らいだ。

だがすぐに、静かな熱をたたえた光がその奥に灯る。


私は殿下の前に跪き、そっと微笑んだ。


「アレクシス殿下――私は……あなたの申し出を、喜んでお受けいたします」


その瞬間、会場の空気が大きく揺れた。

貴族たちの間に歓声と拍手が広がっていく。

厳粛な求婚の場に漂っていた緊張が、一気に祝福の色へと変わっていくのが感じられた。


アレクシス殿下は静かに立ち上がり、私の手を取って優しく引き上げる。

そして、そっと私の左手薬指に紅玉の指輪をはめた。


「ありがとう、リディア。……私の人生で、これほど嬉しい瞬間はない」


その声音は、いつもの冷静さの奥に隠された熱が滲み出ていた。


一方、ユーリ殿下はその様子を穏やかに見届けていた。

そして、柔らかく笑いながら口を開く。


「……やはり叶いませんでしたね。アレクシス殿下の溺愛ぶりには」


会場から小さく笑いがこぼれる。

ユーリ殿下は場を和ませるように続けた。


「ですが、せめて今後も友人として――貴女とも、この国とも良き関係を築かせていただければ幸いです」


「もちろんです、ユーリ殿下。今後とも、末永く友好の絆を築けますことを、心より願っております」


私がそう応じると、ユーリ殿下は満足げに微笑んだ。


こうして宴は和やかな空気へと移り、再び音楽が鳴り始める。

貴族たちは新たに踊り出し、祝宴の夜は続いていった。


私はそっとアレクシス殿下の隣に並び、彼の腕に手を添えた。


(――ようやく、私が在るべき場所が決まったのだわ)


静かに、けれど確かに。

心の内に満ちる熱を抱きながら、私は新たな幕開けを迎えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ