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森を抜ける帰路は静寂に包まれていた。

雨はすっかり上がり、霧が薄く漂うなかを馬蹄の音だけが淡々と響いている。


捕縛した刺客たちを護送しつつ、一行は王都へ向けて進んでいた。


「……思ったよりも静かですね」


王太子殿下が口を開いた。


「襲撃者が追加で仕掛けてくる可能性は低いでしょう」


アレクシス殿下が静かに返す。


「ですが、油断は禁物にございます。万が一の備えは怠りませぬ」


ルネが後方を警戒しつつ補足した。

私も軽く頷く。


(ここで仕掛けてくるようなら、相当に愚かな策ですわ)


静寂を好んでいたはずの帰路――

その均衡は、突然崩れた。


「……魔獣、ですか」


最初に気付いたのはアレクシス殿下だった。

木々の間から黒い影が姿を現す。


筋肉質の巨体に、不規則に波打つ黒鱗。

二対の角を持つ大型魔獣《双角竜》。


本来なら、王国の管理区域では滅多に現れない種だ。


「討伐班の管轄区域を抜けてきたか……あるいは、今回の混乱に乗じた可能性もあるな」


アレクシス殿下が冷静に呟く。


「これは……かなりの大物ですね」


ユーリ殿下が剣を抜きつつ、わずかに口角を上げた。


「我が国では、これくらいの魔獣を討伐できぬ者は一人前と認められませんので」


そのまま馬を降り、ゆるやかに構える。


「叔父上! 僕も参ります!」


王太子殿下もまた、しっかりと剣を抜いた。


「無理のない範囲で」


アレクシス殿下が短く指示を出すと、即座に陣形が組まれる。


私は弓を構え、間合いを図った。

魔獣の突進は早いが、まずは動きを止める必要がある。


「射ちます」


弦が鳴り、矢が双角竜の肩を正確に貫いた。

巨体が僅かにぐらつく。


その隙を突いて、アレクシス殿下とユーリ殿下が左右から斬撃を放つ。

王太子殿下は正面を避けつつ、的確に側面から剣を走らせた。


――統率の取れた連携だった。


魔獣は唸りを上げ、最後の抵抗を試みるが――

アレクシス殿下の剣閃が急所を正確に穿った。


巨体が崩れ落ち、地面が静かに揺れた。


「……討伐完了です」


ルネが周囲の安全を確認し、声を落ち着かせる。


私はゆっくりと息を吐いた。


(さすがは戦の多い国の王族、ユーリ殿下……)


ユーリ殿下も剣を収めつつ、満足げに笑った。


「見事なお手並み。これほどの連携を貴国の王族が常に成しているなら――確かに平和が長く続くのも道理ですな」


アレクシス殿下はその言葉に微笑を返した。


「乱世を防ぐのもまた、王家の務めですので」


静かな雨上がりの森に、再び平穏が戻ってきていた。



その後、討伐証として双角竜の角を掲げた一行は王宮に凱旋した。

王宮前で待っていたサクラ様は、王太子殿下の無事を確認するなり駆け寄った。


「良かった……皆様、ご無事で」


「大丈夫だよ、サクラ」


王太子殿下が彼女の手をそっと握ると、サクラ様も安堵の笑みを浮かべた。


こうして、外交盤上の第一幕は静かに幕を下ろす。

だが――真の火種は、まだ燻っている。


そのことを、私は誰よりも理解していた。


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