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春の王宮は、朝から静かな熱気に包まれていた。


今日行われるのは、王宮主催の狩猟大会。

外交賓客であるアレスト王国のユーリ殿下も参加し、王族たちが揃って森へ赴く年に一度の恒例行事である。


私――リディアは、王宮の出発場で馬車の出発を見送る役割を担っていた。


「では、殿下方。ご武運をお祈りしておりますわ」


「ありがとう、リディア嬢。安心して見ていてくれ」


王太子殿下は朗らかな笑みを浮かべ、弓を抱えたまま私に手を振る。


その隣では、アレクシス殿下がいつも通りの静かな微笑を浮かべながら、短く頷いた。


「行って参ります。留守の間、王宮の盤上は任せます」


「心得ておりますわ」


私が軽く一礼すると、アレクシス殿下はわずかに目を細めて馬上の姿勢を整えた。

相変わらず、誰よりも盤上を見据えた表情だった。


そして、ユーリ殿下。

金褐色の髪を陽光に揺らし、白銀装飾の異国の騎士服を纏ったその姿は、まるで絵画のように映えていた。


「貴国の森は初めて訪れますが……今日は実に楽しみにしておりましたよ、リディア嬢」


「ご武運を、ユーリ殿下。良き成果が得られますように」


そこでユーリ殿下は一拍置き、柔らかな微笑を浮かべた。


「果たして何を得る日となりますかな――獲物だけでなく、思わぬご縁や新たな収穫があるやもしれません」


その言葉に、私は一瞬だけ微かな警戒を覚えたが、表情は崩さず優雅に微笑み返す。


「殿下の実り多き一日となりますよう、心よりお祈りしておりますわ」


軽妙な探り合いを交わしながら、馬たちが一斉に出発する。

王族を中心とした騎士たちの隊列が、ゆるやかに王都郊外の狩猟場へと進んでいった。



出発から程なく、森の入口にたどり着いた一行は三人ずつの班に分かれ、狩猟を開始する段取りとなった。


王太子殿下、アレクシス殿下、ユーリ殿下――三人は当然、外交儀礼上、同じ班に組まれる。


森の奥に向けて馬を進めながら、王太子殿下が屈託なく口を開いた。


「今日は良い大物が出てくるといいなぁ」


その無邪気な一言に、ユーリ殿下が微笑を返す。


「貴国の森は豊かでございますからな。自然の恵みに感謝しつつ、良き獲物に恵まれることを願います」


アレクシス殿下は周囲に視線を巡らせながら、短く返す。


「……油断なきよう。森の中は何が起こるかわかりませんので」


その声音は穏やかだが、鋭さが微かに滲んでいた。


外交の盤上は、静かに――だが確実に次の局面へと進み始めていた。

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