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春の穏やかな午後。

王宮の奥庭では、小規模ながら格式高いお茶会が開かれていた。


出席しているのは、王太子殿下と聖女サクラ様。

そして、アレクスト王国のユーリ殿下。

加えて、王弟アレクシス殿下と私――リディア。


表向きは親交を深めるための懇談会。

けれど内実は、互いの腹の探り合いが繰り広げられる場である。


「今日は天気もよく、まさにお茶会日和ですね!」


サクラ様が無邪気に笑顔を浮かべると、王太子殿下も柔らかく微笑んだ。


「本当にね。サクラのおかげで、王宮の庭も春がますます華やいでいるように感じるよ」


相変わらず、二人の会話は穏やかで優しい。

その様子を見て、礼賛派の貴族たちは微笑みながら静かに満足げに頷いていた。


だが――。


ユーリ殿下はそんな会話を和やかに見守りつつも、その視線の奥に観察者の色を宿していた。


「聖女サクラ様の笑顔が、この国の安寧を象徴しているようですな。

そして王太子殿下は、日々聖女様を丁重にお守りされておられる。まさに理想の御夫婦像でございます」


「いやいや、私は何もしていないよ。サクラが優しいから、うまくいっているだけさ」


王太子殿下は照れ笑いを浮かべ、サクラ様もほんのりと頬を染めた。


(……平和で何よりですが)


私は心中でそっと苦笑する。

だが、そこへアレクシス殿下が静かに言葉を継いだ。


「貴国から遠路お越しいただき、ユーリ殿下には改めて感謝申し上げます。

王太子殿下と聖女様の幸福なご様子をご覧いただけたことは、我が国にとっても大きな喜びです」


「ええ、まさに――」


ユーリ殿下は柔らかく頷きながらも、そこでわずかに言葉を切った。


「……聖女サクラ様の存在が、これほどまでに貴国の盤石な均衡の要となっているとは、想像以上でした」


(……来ましたわね)


私は表情を崩さず、静かに内心で警戒心を立て直す。


「聖女制度は、王国において長年平和と繁栄を支えてきた伝統にございます。

神々の御導きによる召喚の奇跡が、この均衡を保っているのですわ」


「ええ、その奇跡に心より敬意を表します」

ユーリ殿下は微笑を深める。


「ですが、召喚の技術というものは……一国の平和だけでなく、他国の未来にも新たな可能性をもたらし得るのではないかと、ふと考えまして」


さらりと――だが明確に、異世界召喚そのものへの興味を口にしてきた。


周囲の空気がほんの僅かに緊張する。

だが、アレクシス殿下はあくまで穏やかなまま答えた。


「それはあくまで神々の采配の下にあること。

我々は与えられた奇跡を謹んで受け止めるのみ。人の手で弄ぶものではありません」


「……確かに、おっしゃる通りでございます」


ユーリ殿下は一歩引くように微笑んだが――その眼差しは、なお盤上を読み続けていた。


私も続けて、柔らかく釘を刺すように言葉を重ねる。


「加えて、聖女サクラ様は今や王太子殿下の許嫁にございます。

異国より召喚されましたが、既に我が国の民として歩み始めておられるのですわ」


サクラ様は、その言葉に少し驚きつつも、王太子殿下に向かって微笑んだ。

王太子殿下は照れたように、サクラ様の手をそっと取った。


「そうだね。サクラは、これからも私と共にこの国で生きていく」


貴族たちの間に、祝福のさざ波のような微笑が広がっていく。


その様子を見届けながら、ユーリ殿下は僅かに瞳を細めた。


(――この国が平和でいられる理由は、聖女制度だけではない)


彼の視線が、ほんの一瞬、私とアレクシス殿下の方へと流れる。

盤上の要が誰なのかを、彼もまた気付き始めているのだろう。


お茶会は、外見上は穏やかな空気のまま、ゆっくりと幕を下ろしていった――。

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