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舞踏会の喧騒も、ゆるやかに幕引きの気配を漂わせ始めていた。

煌びやかな笑い声と音楽はまだ流れているものの、各貴族たちは次第にお開きの準備に入りつつある。


私はアレクシス殿下の隣で、軽く息を吐いた。


(……無事に終わりましたわね)


外交の火種は持ち込まれたが、今宵はまだ誰の手にも動かされていない。

その静けさが逆に、嵐の前の静寂を感じさせていた。


「お疲れでしょう、リディア嬢」


アレクシス殿下が低く穏やかに囁く。


「少々」


私は微笑みを浮かべる。

舞踏会は礼儀と駆け引きの応酬だ。疲れを感じぬ方が不自然だった。


「今宵は殿下の盤上整理もお見事でしたわ」


「貴女の支えあってこそ、盤上も崩れずに済んでおります」


その言葉に、ほんのわずかに胸が熱を帯びる。


「そろそろ、公爵邸までお送りしましょう」


アレクシス殿下は自然な流れで手を差し出す。

私は黙ってその手を取り、殿下に導かれながら舞踏会場を後にした。


* * *


夜の王宮前に馬車が静かに待機していた。

殿下自らの馬車で私を送ってくれるのは、既に恒例の流れになりつつあった。


馬車の扉が開き、やがて公爵邸の正門前へと辿り着く。

邸宅の灯りが、薄明るく私たちを迎え入れていた。


「無事にお届けできました」


馬車を降りたアレクシス殿下が、私に手を差し伸べる。

私は再びその手を借り、ゆっくりと馬車を降り立った。


「今宵も貴女の助けには感謝しています。共犯者として、これほど頼もしい方はいません」


穏やかに告げられるその言葉に、胸の奥がまたじわりと熱くなる。


「……お役に立てたなら、何よりですわ」


そして殿下は少しだけ声を低く落とした。


「それに――今宵の貴女はとても美しかった。

正直、こうして送るのが惜しいほどに」


その一言に、思わず耳が熱を帯びる。


(また、こういうことをさらりと……)


周囲に人影はなく、今は完全に二人きり。

だからこそ、私はわずかに視線を逸らしながら返す。


「……そういうの、誰もいない時は遠慮してくださって結構ですわ」


アレクシス殿下は微笑を崩さぬまま、静かに告げた。


「嘘は言っていません」


その一言に、私はわずかに息を呑んだ。

鼓動が、不自然に早まっていくのを感じながら、慌てて礼を取る。


「それでは、おやすみなさいませ、殿下」


「良い夢を、リディア嬢」


そうして私は邸宅へと戻った。

けれど、胸の奥でじわりと残る熱は、まだしばらく冷めそうにないまま、静かに揺れていた。

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