表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/42

23

会場の空気がわずかにざわめいた。

王宮の重厚な扉が、再び開かれる。


「アレスト王国、ユーリ・アレスト殿下、ご入場」


侍従の高らかな声が響き渡り、ゆったりとした足取りでその人影が現れる。

一歩進むごとに、煌びやかな光がその姿を優しく包み込んでいく。


金褐色の長髪が滑るように肩に流れ、彫りの深い整った顔立ちは異国の血筋を色濃く映していた。

青く煌めく瞳は宝石のように輝き、柔らかな微笑みを浮かべるその姿は、見る者の視線を自然と惹きつけて離さない。

礼装は絢爛ながらも過剰ではなく、優雅さと異国情緒が絶妙に調和している。


(……なるほど)


思わず私は視線を奪われた。

美しい、というより――まるで絵画の中から抜け出したよう。

国内貴族の端正さとも、アレクシス殿下の冷徹な美しさともまた異なる、異国ならではの華やかさがあった。


「……華やかですわね」


思わず漏れた私の小さな呟きに、隣のアレクシス殿下がわずかに視線を寄せた。

表情は変わらぬ微笑を保ちながらも、その奥に小さく光るものが走る。


ユーリ王子は堂々と歩を進め、まずは王太子殿下と聖女サクラの前に立つ。


「王太子殿下、聖女サクラ様。こうして直々にご挨拶の機会を頂き、光栄に存じます」


柔らかな口調と、完璧に整った礼法。

サクラはやや緊張しながらも笑みを返し、王太子殿下も穏やかにそれに応じる。


「遠路はるばるのご足労に感謝します。今宵はどうぞ、存分に楽しんでいただきたい」


続いて、ユーリ王子の視線が私たちへと移る。


「王弟殿下、リディア嬢――お目にかかれて光栄です」


柔らかな微笑を浮かべつつ、私へと礼を取る。

その眼差しは、ほんの僅かに好奇心と品の良い評価を含んでいた。


「以前より、貴女の聡明さは噂に聞き及んでおりました」


私は微笑を返し、控えめに言葉を紡ぐ。


「恐れ入ります。殿下の母国の華やかな舞踏会に比べれば、我が国の宴など少々地味で退屈に感じられるやもしれませんが……今宵はどうぞお楽しみくださいませ」


ユーリ王子はすぐに優雅に首を振った。


「退屈などとんでもない――すでに滞在の楽しみが増えた気がいたします。これほど聡明で、美しい方にお会いできるとは思いもよりませんでした」


その言葉に、周囲の貴族たちがざわつく。

淡く甘い褒め言葉に、ご婦人たちが早速色めき立つ気配が漂った。


そこで、アレクシス殿下が静かに口を開いた。


「外交の賓客として歓迎いたします、ユーリ殿下。そして――リディア嬢につきましては、私が公私共に積極的に口説き中でして。どうぞ、ご配慮を」


あくまで穏やかな口調だが、確かな牽制が柔らかく場に浸透していく。

周囲が一斉に息を呑む。


ユーリ王子もわずかに口元を緩める。


「……お邪魔にならぬよう気をつけます。殿下」


そして続けた。


「今回の舞踏会を機に、しばらく王都に滞在させていただこうと思っております。王太子殿下にも事前に許可を頂いておりますが、王宮の皆様とも改めて友好を深めたく」


新たな外交の火種が、盤上に置かれた瞬間だった。


アレクシス殿下は微笑を崩さず、静かに頷いた。


「歓迎いたします、ユーリ殿下。ご滞在中、良き交友の場となることを祈っております」


こうして、舞踏会はさらに静かに、しかし確実に揺れ始めていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ