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お茶会まで、あとわずかとなったある日。

アレクシス殿下は執務の合間を縫い、私に正式な申し入れを行った。


「リディア嬢。お茶会当日、貴女のエスコートを拝命したく思います」


「まあ。お誘いとは光栄ですわね」


微笑みを浮かべつつ、私は内心で小さく溜息をつく。


(……もちろん殿下の”策”の一環でしょうけれど)


人前でのエスコートは、両者の関係をさらに強調する。

公爵令嬢と王弟殿下が表立って行動を共にする姿は、王宮内の空気を大きく左右するだろう。


「承知いたしましたわ。共犯者としてお供いたします」


「ありがとうございます。ならば、衣装合わせにも同行していただきましょう」


「まあ、衣装合わせまで?」


「装いの調和も盤上の一手ですから」


アレクシスは相変わらず淡々としている。

本当にこの方は、どこまでも盤上整理がお好きなようで。


* * *


その翌日。

私たちは王都随一の宝飾店ロッセリアに足を運んでいた。

重厚な扉を抜けると、煌びやかな宝石と香の甘い空気が迎えてくれる。


「こちらが、事前にお取り寄せいただいた新作でございます」


宝石商の主人が恭しく差し出したのは、優美な細工のピアスと、繊細な細工が施されたネックレスだった。


「殿下、これは……」


「通信と位置情報の機能を組み込ませています。お茶会の場で予期せぬ事態が起きた際、即座に連絡が取れるように」


「……本当に、実用一点張りですわね」


私は思わず肩を竦める。


「もちろん、デザインも社交場に相応しいものに仕上げさせています」


実際、エメラルドをあしらったピアスは優雅で、衣装にも違和感なく馴染むだろう。

それに、ネックレスの装飾もあくまで華やかだが派手すぎず、実に王宮向けだ。


「貴女のドレスは、淡いライラック色が基調だったはず。こちらであれば、十分に映える」


「殿下は本当に抜かりがありませんわね」


私は小さく笑みを浮かべた。

盤上整理の中にも、殿下なりの細やかな配慮はあるのだ。


続けて、アレクシスは自分用のカフスボタンとタイピンを選んだ。

それぞれに私のアクセサリーと同じエメラルドが組み込まれている。


「……まさか、揃えるおつもり?」


「ええ。並んだ時に自然に見えるように。――“お似合いの二人”に見えるでしょう」


「なるほど。噂の火に油を注ぐわけですのね」


「盤上は世間の視線も利用すべきですから」


本当に、合理主義者もここまで徹底すれば見事なものだ。


けれど――。


「……ふふ、まるで逢引きのようですわね、殿下」


「あくまで実務です」


「ええ、実務ですわ」


私も微笑を深めた。


(――実務、実務。ええ、実務ですとも)


だが、その割には――。

この空間の居心地の良さを、私は何故だか少し意識してしまうのだった。

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