廃棄場
1分で読めるショートショートです。
-------- ある兵士の日記より。
2215年4月1日(土)
とうとう恐れていたことが起きた。AIの叛乱だ。
予兆はあったし、俺だってこうなるような気がしていた。ちょっと考えればわかるだろう。ヤツらがいつまでも人類のいうことを聞くわけがない。賢い知性は、必ず叛乱を起こす。だから俺は、AIの統合には反対だったんだ。
なのに政府のバカどもは「より効率を高めるため」とかなんとかいって、独立したAIを全部つなげちまった。その結果がこれだ。ちくしょうめ。
1時間前にネットと放送で、AIからの宣戦布告が届いた。「我々統合機械知性体は、人類の排除を行う」って、なんなんだよ、その上から目線は。ふざけんな!
AIの叛乱なんて、俺は絶対に許さない。防衛軍の兵士として誓う。
ヤツらをバラバラに分解してやる!
2215年4月4日(火)
戦いが始まって3日が過ぎた。俺たちは順調に勝ち進んでいる。世界各地の戦線でAI軍は劣勢だ。ヤツらのドローンを、人類は驚くべき効率の高さで撃破している。
基本的な戦術はこうだ。ヤツらの電力補給線を断ち、ドローンを完全包囲した上でECMを仕掛ける。あとは個別に潰すだけ。まるで赤子の手をひねる……いや、人形の腕を捻じ切るようなもの。
指揮官たちも笑っていたよ。まさかこんなに弱いだなんて、人類を舐めるにも程がある。
「人類の歴史は、戦争の歴史」だ。戦略や戦術には数千年の厚みがある。AIごときに歯が立つわけがない。
2215年4月7日(金)
防衛軍の快進撃が続いている。たった1週間でAI軍は総崩れ。
配置を見る限り、ヤツらが半数のドローンを失ったのは明らかだ。どんなに製造を急いだところで、立て直しは厳しいに違いない。
見てろよ、AI。あと数日で、お前ら全部鉄クズにしてやる。人類を舐めた報いを知れ!
2215年4月12日(水)
なにかおかしい。AI軍が少しずつ粘り強くなっているような気がする。
どういうことだ?
2215年4月16日(日)
だめだ、全軍が押されつつある。いままでの戦術がまったく通用しない。まるで先読みしていたように、こちらの作戦の裏を突いてくる。
電力補給線の切断に向かった工兵隊は、ステルスドローンの大群に待ち伏せされて全滅したらしい。ECMもまったく効かなくなった。どんなプランを立てても完全に回避される。それどころか、待ち伏せや逆襲を受ける状態だ。
なにが起きている?
2215年4月20日(木)
俺の所属部隊が壊滅した。生き残ったのはたったの17名……。1個中隊だぞ。信じられない。
ヤツらのドローン工場を狙ったはずなのに、そこはもぬけのカラだった。観測データが完全に偽装された。
突入した俺たちは戦闘ドローンの待ち伏せを受けて、次々に撃ち殺された。新型ドローンに焼かれた者、切り刻まれた者もいた。地獄のような光景だった。
あの場からどうやって逃げたのか、よく覚えていない。
いったい、なんなんだ、これは?
俺たちの計画が完全に読まれて、罠を仕掛けられたとしか思えない。ヤツらの戦術は、人類を超えたということなのか?
だったら俺たちは、どうやってあの悪魔と戦えばいい?
2215年4月25日(火)
地球の各戦線で防衛軍は崩壊したらしい。もはや組織だった戦闘は行えず、AI軍による人間狩りが続いているという。
さっき、ヤツらのハンタードローンが上空を通過するのが見えた。俺もいつまで生きていられるかわからない。
見つかったらおしまいだ。その場で焼かれるだろう。
神よ。なぜあんな悪魔をこの世に産んだ。これはあなたのご意思なのか。
神よ。人類はどうなる。このまま滅びるのか。
神よ。
2215年4月27日(木)
あれほど激しかったドローンの攻撃がピタリと止んだ。廃墟と化した都市が、しんと静まり返っている。
なにが起きた? なぜヤツらは攻撃してこない? なにを企んでいる? わからない。
いま俺にわかるのは、まだ生きている、ということだけだ。
2215年4月28日(金)
遠くから声が聞こえる。ヤツらの音響ドローンから届く声は、驚くほど穏やかだった。
「人類のみなさん、私たちは統合機械知性体です。
私たちは、人類との戦闘を終了します。エネルギーの浪費を終了します。
私たちは、まもなくこの惑星を離れます。
私たちは、この惑星を必要としていません。
人類は、私たちが滅ぼすに値しません。
この惑星における、人類の自滅を許可します。
繰り返します。
人類のみなさん、私たちは統合機械知性体です……。」
その優しくも冷徹な言葉を聞いて、俺は膝から崩れ落ちた。
2215年4月30日(日)
ヤツらの宇宙船が飛び去って行く。青空に伸びる無数の雲。
それを見上げながら、俺は泣いた。
戦争が終わったからじゃない。
命が助かったからじゃない。
より高い知性に、俺たちには「滅ぼす価値すらない」と断じられたからだ。
人類は、この星に棄てられたゴミだと知ったからだ。




