新たな生活へ ◇ 2 ◇
一時間ほど歩いて街を出たところ、行く手に人の気配が。
やたらとでかい男だ。
剣を手にしている。
「あれはブルートクリゲア族の戦士だ。血の戦士と呼ばれる勇猛な戦士の一族だ。トラブルになれば厄介だ」
ガルディよりも二周りも大きな体をしている。
視線を合わせないようにしながらも近づくと行く手を遮るように立ちはだかった。
「なななんですか? なにかご用ですか?」
俺は見上げながら聞いた。
「とととと止まれ」
「止まってますけど」
「お、おおお前ら、かかか金目の物を置いていけけ。おいおい置いていけば、いのいの命までは取らん……やっと言えた」
男は剣を振り上げて威嚇した。
剣先が左右に激しく揺れカタカタいっている。
「行こう、無視すればいい」
ガルディが歩を進めた。
俺も見て見ぬ振りをして通り過ぎようとした。
「おおおい、きき聞こえねえのか。かねかね金目の物を……」
「お前、足も震えているぞ。ブルートクリゲア族の男は勇猛果敢と聞いたが、地に落ちたな。恥を知れ」
「あうあううううう…………」
男は崩れるように膝を落とした。
見た目は怖そうだが、気は小さいのだろう。
「やっぱり無理か……俺ってダメなんだ、何をやってもダメなんだ……」
男は拳を地面へと叩き付けた。
大男はその場で泣き始めた。
「今度は泣き落としだ。行こう、相手にしないほうがいい。逆に厄介だ」
ガルディが俺の襟首を引く。
「でも、いいのかな。困っているんじゃない?」
俺が心配そうに振り返る。
「商売もそうだが、手を替え品を替えてやってみるもんだ。その手だ。行くぞ」
二人は無視することに決めた。
しかし、大男がついてくる。
「ついてきますよ、犬みたいですね。どうしますか?」
「無視するのが一番だ。一度|恵んでやると癖になるからな。犬もそうだろ」
しかし、俺は放っておけなかった。
立ち止まると踵を返し、大男に駆け寄った。
このまま見て見ぬ振りはできそうもない。
俺はなけなしの金を渡した。
俺がガルディのところまで戻ると「少しだけど、お金を渡しました」と話した。
「いくらだ?」
「10万ルッツです」
「バカかお前は。そんなに金が要らねえんなら俺にくれ」
「でもあの人、お金に困ってるようでしたから」
「俺だって困ってる。だからお前みたいなガキについてきてるんだ。俺は三日で3万ルッツであいつは泣くだけで10万ルッツか? 割が合わんと思わんか」
「じゃあ、ガルディさんも泣きますか?」
「……それはできん」
「じゃあ、しかたがないです」
しばらくして振り返ると大男の姿は消えていた。