異世界にポワンとこんにちわ
乾いて埃っぽい風が吹いていた。
そんな中、俺は茫乎とした視線を流す。
それに気づいた人々が集まってきてたちまち俺を取り囲んだ。
若い女の子が興奮気味に言う。
「見た見た今の。この子、ポワンっと現れたんだよ。私初めて……」
一人の老人が薄笑いを浮かべて言った。
「ほう、久しぶりだな。君は転生者か? それとも召喚者か? ……う~ん。私が思うに君は転生者だな。なんだかオーラが欠けてる気がするんだが」
「……気がするなんて言われても。なんだこの爺さん」
——人々の顔立ちは東洋系ではない。どう見てもヨーロッパ系だ。髪の色も違う。ブロンド、白髪、グレー。それなのに言葉がわかる。異世界ファンタジーの鉄則だが……——
転生者か召喚者か……その二つの可能性しかないとすると、やはりここは異世界?
——異世界ってことはつまり、俺は死んだってことか……。あれがいけなかった。あれが原因だ。悔やむに悔やみきれない——
「君はいくつだ?」
——俺は……いくつなんだ? 23歳だったような——
俺は自分の体を見下ろした。
何だか縮んだような気分だ。
地面が近い。
小さな体。
手足が細い。
「8つか9つか? いや、いい、無理に答えなくてもいい。ちょっとここで待ってなさい。今、誰かが役所の者を呼びに行ったようだから。すぐに担当者が来るはずだ……ところで君、どんなスキルあるの?」
——スキル? ああ、異世界で生きるための能力ね。やっぱりそれが必要なんだ。何かあるのかな? 思い当たらない——
「無いとこの世界で苦労することになるよ」
爺さんは愉快そうに言う。
——それは愉快なことなのか? えっ爺さん。見る限り、いい生活をしているようには見えないんだけど。年金生活者か? この世界にも年金制度ってあるのかな? 年金払ってなかったな。今度こそ払わないと……——
「ん? 君、手に何か持ってるね。それどうしたの?」
俺の右手は何か握っていた。
開いてみると「鍵」のようなもの。
いや、どう見ても鍵だ。
5センチくらいの黄色っぽい……たぶん材質は真鍮だろう。
頭の部分には紋章のような模様があってその中央に小さな赤い石がはめ込まれている。
だが、俺には全く見覚えはない。
手渡された記憶もない。
「何か言われがありそうな鍵だね」
「まだ子供じゃない」
「何だつまんない。誤転生かもしれないわね。最近こんなの多いわね。世も末ね」
「勇者候補かと思ったら、違うみたい。ただの迷子かな? やっぱりこの公園は……ね」
物珍しそうに見ていた人々も一人、また一人と散っていく。
最後には老人だけになった。
「ああ、来た来た。じゃあ、私はこれで。まあ精々がんばりなさい」
老人は散歩の途中だったようで、それ以上には俺に興味はないらしい。
そそくさと行ってしまう。
入れ違うように太ったチョビ髭の男がのんびりとやって来た。
この男が役所の担当者なのだろう。
「君かね、召喚者っていうのは。何年ぶりかね」
「召喚者かどうかわからないんですが。ただの転生者かも」
「ああ、そうね、そんな感じだね」
「転生者だといけませんか?」
「ん~……そうでもないよ」
明らかに困った様子だ。
最初は夢なのか現実なのか判別できなかったが、次第に頭がはっきりしてくる。
「ここは王国ドラーケンヴァルトで、国のほぼ中央に位置する街グラッドシュタットだ。その街の公園だ。異世界から来た者はなぜかここへ集まる。ここは特別な空間なんだろうな。スケルトンパークというが、通称はトラッシュパークだ」
「トラッシュ? トラッシュというのは?」
「……気にするな、心無い連中がからかい半分にそう呼ぶだけだ」
——確か、トラッシュというのはゴミ……俺は捨てられたのか——
「役所へ来なさい、ちょっとした手続きがあるから。簡単な手続きだ。すぐに済む」
『ちょっとした手続き、すぐに済む……』どこかで聞いたセリフだ。
その言葉に欺された。
結果がこれだ。