感情の名前
レイの声が、まるで遠い昔の誰かのように、私の心の奥底に届いていた。
「お前は、一人じゃない。俺がいる」
その言葉だけが、私の中の何かを震わせた。
ずっと、独りだった。
親の目には映らない存在で、誰の期待にも応えられず、学校では透明人間のように過ごしてきた。
褒められたことなんてなかった。
名前を呼ばれた記憶もほとんどない。
だけど、あの日。
レイは私を、見た。
「俺は、お前の“唯一”になってやる」
冗談みたいな顔で笑ったくせに、どうしてその声だけはあんなにも真剣だったんだろう。
それからというもの、私の中でずっと、何かがうずく。
胸がざわめいて、熱くなる。
目が合うたびに、声を聞くたびに、ふいに体の奥からこぼれ落ちそうになる。
これは、憧れ?
依存?
それとも――。
「……心臓、あげてもいいって……思ったんだよ」
口にしたわけじゃない。
あのとき、彼が手を差し出してくれた瞬間、私の中で何かが静かに決壊した。
私を求めてくれた。
必要だと言ってくれた。
誰にも必要とされなかった私に、唯一と言ってくれた。
……それが、うれしかった。
たまらなく、うれしかった。
あの日からずっと、この感情の名前を探していた。
不安だった。
「好き」なんて言葉、軽々しく使っていいものじゃないと思ってた。
でも今は、はっきりわかる。
これは恋だ。
私は、レイが好きだ。
悪魔でも、人間じゃなくても、関係ない。
私の心は、彼に向かって走っている。
あの孤独な世界から、私を救ってくれた。
誰よりも真っ先に、私の存在を肯定してくれた。
レイ。
私は――あなたに、この命ごと、心臓ごと、全部あげたい。
言葉にするのは、もう少し先になるかもしれない。
でもいつか、ちゃんと伝えたい。
「あなたが、私の“唯一”です」って。