感情のタイトル
夕暮れの窓辺で、澪はぼんやりと遠くを見つめていた。
薄紅色に染まる空の下で、胸の内に湧き上がる感情がどうにも整理できずにいた。
レイは静かに隣に座っている。
言葉は交わさないけれど、その存在は確かな支えだった。
けれど、それは決して「安心」だけではなかった。
どこかに引き裂かれそうな不安と、言葉にできない戸惑いがあった。
「ねぇ……」
澪はようやく小さな声を絞り出す。
「私、あなたのことを……どう思ってるのか、わからない」
レイはちらりと彼女を見て、無表情のまま答えた。
「わからなくていい。お前はまだ、お前の感情を整理できてない」
澪は頷いた。
頭の中で、好きと寂しさ、依存と期待がぐるぐると絡み合う。
まるで見えない糸に引き寄せられるように、彼のそばにいる自分がいる。
「でも、あの夜――」
澪は言葉を途切らせた。
心の奥底で「あなたになら心臓をあげてもいい」と思ったこと。
けれど、それを口には出せない。
レイは静かに口を開いた。
「お前がそう思ったのは、俺がお前の心に触れたからだ」
「触れた……?」
澪は不思議そうに目を見開く。
「お前が何年も閉ざしてきた、その薄くて儚い心に」
レイの言葉は鋭くて優しかった。
澪は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
「俺はお前の孤独を壊して、壊れたままのままにしておきたくなかった。
けど、壊して癒すだけじゃ足りねぇんだ」
レイは目を伏せて言った。
「もっと深く、もっと強く。お前のすべてを俺のものにしたい――そんな気持ちになってる」
澪は息を詰めた。
その言葉が怖くて、でも嬉しくて、胸の鼓動が早くなる。
「でも、私には怖い」
「俺だって怖ぇよ」
「でも……」
澪はそっとレイの手を握った。
「あなたが怖くても、私はあなたから逃げたくない」
レイはその手を強く握り返し、少しだけ笑った。
「それでいい。お前がそう思ってくれたなら、俺はもう離さねぇ」
二人の距離は少しだけ縮まった。
けれど、澪の中の答えはまだ遠くて、揺れている。
「好き」なのか、「依存」なのか。
それは、これから自分で確かめていくことだと、澪は少しずつ覚悟を決めていた。