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プロローグ

心臓が――初めて、本当に脈打った気がした。


それは、生まれたときでも、初恋をしたときでもなかった。

“あの夜”だった。

意味もなく心臓を動かす、色のない世界の中で、私が"彼"に出会った瞬間。



世界なんて、壊れてしまえばいい。


そう呟いたのは、深夜2時。

寝る意味も、明日を迎える理由も、私にはもうなかった。


部屋の中は無音。家族は誰も起きていない。

私の存在に気づく人間は、この地球上に一人もいないんじゃないかって――そんな錯覚すら、心地よくなっていた。


「私が生きてる意味って……あるのかな……」


呟いたそれは、祈りでも希望でもなかった。ただの、音。

けれど次の瞬間、空気がねじれた。


「お前の願い、俺が叶えてやろうか」


聞こえた。はずのない、誰かの声。

驚いて起き上がると、部屋の隅に“男”がいた。


闇にとけこむような黒い服、満月のように輝く金の瞳、どこか笑ってる口元。

知らない、けれど――一度見れば忘れられない神に祝福されたかのような顔。


「誰……?」


「悪魔。名乗るのは後だ。まずは取引の話をしようぜ」


「……取引?」


「お前、生きる意味が欲しいんだろ?なら、俺が与えてやる。お前にしかできない、確かな役割を」


「……役割?」


「そう。お前は、生まれてからずっと“誰の何にもなれてない”と思ってるだろ」


ドクンと胸が鳴る。

その通りだった。

「悪魔」という非現実的な存在を無視できるほどに私は動揺していた。


「だけどな、人間ってのは誰かの“必要”になるだけで、劇的に変わるもんなんだよ」


悪魔は、私の前にしゃがみ込んで目線を合わせた。

その瞳は、どんな教師よりも、大人よりも、真っすぐだった。


「その代わりお前は俺のものになる。俺にしか頼れない存在になって、生きる。孤独も空虚も、俺が埋める」


私は言葉を失った。

怖いのに、震えるほど欲しかった。


“誰かのために必要とされる”こと。


「……本当に、それをくれるの?」


「ああ。お前は俺の“契約者”になる。俺にとって代わりのいない唯一になる。ずっと一緒だ」


悪魔にとってのメリットが見当たらないその取引。


「ほんとにいいの……?私なんかが唯一なんて」


「なんだ、俺じゃ不満か?」


そんなわけない。でも「孤独も空虚も埋める」そんな約束がいつまで続くかわからない。一度持ち上げられてまた落とされるくらいなら。


「ここまで俺は真実だけを述べた。悪魔の言うことなんて信用できないかもだけどな」


一人じゃないと思えた。「唯一」「ずっと一緒」その言葉が、何より重かった。


「私は、生きる意味が欲しい、」


悪魔は不敵に笑って、私の胸元に手を当てた。何か不思議な力で胸が満たされた気がした。


「これで契約成立。お前はもう、俺のもんだ」


そっと私のほほに触れるその指先は思っていたよりあたたかくて、

初めて、誰かに“生きていい”と言われた気がした。


「貴方の名前は?」


「レイ。覚えとけよ。お前がこれから、一生縛られる名だ」


私は頷いた。怖いほど自然に。


その夜、私の心臓は誰かの“役に立つ”ものになった。

それがどれほど危うい恋の始まりかなんて、知らなかったけど。



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― 新着の感想 ―
なるほど! 他の作品とは違う世界観が好きです!
やばい、なんかすごい好きかもです…!
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