好きな女の子が軽すぎる問題
五反田五郎が悩んでいた。しかも、友人である稲塚薫の目の前で、これ見よがしに。高校の授業の前だ。
無視しても良かったが、稲塚君は誠実で優しい性格なものだから、本気で深刻な悩みだったらどうしようとつい訊いてしまった。
「何かあったのか?」
すると五反田君は、途端に顔を明るくした。
「実は悩んでいてさ」
それは分かっていると思いながらも、何も言わずに稲塚君は次を促した。五反田君は口を開く。
「この前、渡部さんと……、そのエッチできたんだけどさ」
それを聞いて、彼は訊かなければ良かったと後悔した。
「なんだ? 自慢か?」
「いや、違う。その、なんだ。彼女、軽すぎて不安でさ……」
「え? 五反田君、わたしとエッチしたかったの? いいよ」
それが彼女が彼と事に至る前のセリフであったらしい。
“なるほど。確かに軽すぎる”と稲塚君は思う。
「でも、そんなの、渡部さんに訊いてみる以外に手はないのじゃないか?」
悩んでどうにかなる問題でもない気がする。
「いや、でもさ」と五反田君は何か稲塚君に助けを求めるかのような視線を送っている。彼は溜息を漏らすとこう答えた。
「分かった。訊いてやるよ。それとなく」
「え? わたしが誰とでもエッチするのかって? やだなー 好きな人としかしないよ」
あんまりそれとなくは訊けなかったが、渡部さんは快活にそう答えた。傍でそれを聞いていた五反田君は大喜びだ。
「やったー!」という心の声が漏れて来そうな様子の会心の笑顔を見せていて、スキップでもしそうな足取りで去っていた。良かった…… とそれを見て稲塚君は思いつつも、なんとなく不安を覚えて続けて渡部さんにこう訊いたのだった。
「因みに、田中のことは?」
「好きだよ?」
「高橋のことは?」
「好きだよ?」
軽やかな足取りで去っていく五反田君を見やりながら彼は思った。
“伝えないでおこう……”