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アセルガのクリームスピナッチと揚げエンパナーダ(2)

 マルバ兄さんの馬留カフェで朝食を頂いたら、エノールミ湖沿いのいつもの公園で運動不足の解消だ。シオンちゃんはリンドに乗ってダッシュの爽快感を何度も楽しみ、俺は待ち時間ずっと筋トレだ。


 さわやかな汗を2人と1匹でかいたら、昼飯を食いに出店市場がある中央広場へ向かう。

 今日は曇りで風も吹いて肌寒い。「スープも欲しいわね」と言ったシオンちゃんは、リンドと一緒に買いに行ってくれた。俺はメインどころを2つくらい買ってくるか。運動した後は肉が良い。勿論一つは俺たちお気に入りの、ピンクがド派手な屋台、『ロセちゃんの狩った肉串屋』から、マッシュポテトとチーズが乗ったワイルドボアの並串を購入。もう一つは……。


「アレにするか」


 数ある屋台を見渡す俺の目に入ったのは、大皿に重ねて乗せられている丸い料理。薄く焼かれたパン生地の断面からは、赤い中身が見えている。名前は“パン生地で包んだ”という意味の、エンパナーダだ。


「いらっしゃい。どれにする? 魚、肉、野菜の3種類だよ」

「大雑把だなぁ。じゃあ魚のを2切れ。何の魚が入ってるんだ?」

「今日はキイロココディリロガー。安い材料を高い技術で美味しくリーズナブルにご提供! が、僕の信条だよ!」

「凄く立派だ、尊敬するよ」


 美味しいならモンスターでも、安い魚でも何でもいいんだよ。

 8等分にされていたエンパナーダを、少し大きめの木の皿に2つまとめて盛り付けてもらった。重ねて陳列されていたことから分かるように、少し冷めたものだ。でもそれが分かっているから冷めても美味しい味付けなんだろうし、熱属性魔法使いの俺には関係ない。


 買ったものを抱えてベンチ席を見渡すと、シオンちゃんとリンドがテント付きテーブル席の端の方で待ってくれていた。ベンチに腰掛け、リンドにニンジンを与えて水を飲ませてから、俺たちも昼食を広げる。いただきます。


「シオンちゃんが買ってきたスープって何?」

「今日はね、ひよこ豆のスープ! 良い香りだったからつられちゃった」

「直感は結局いい縁を引いてくれるものだよ。俺も魚のエンパナーダを買ってきたしね」

「あら美味しそう!」


 よし! シオンちゃんの笑顔を引き出せたから、俺の直感も精度がいいぞ!


 まずは温まろうと、スープから食べることに。ひよこ豆の他に見える具材はジャガイモ、玉ねぎだ。浮いた油は鶏油なのか、その香りもする。分かりやすく言えば、腹の減る匂いだ。


 ほくほく ほろっほろっ ぴりっ


 鶏油の風味がガツンと来て、よく炒められた玉ねぎとニンニクの香りと甘味が立っている。長時間煮込まれた豆とジャガイモは舌と上顎で潰せるほど優しく柔らかくなっている。ただ優しいだけでなくて、すり潰された赤ピリピリ種がピリピリ優しい刺激を与えて、味を引き締めている。


「うまぁ……」

「あったまるわねぇ……」


 次に手を付けたのは肉串だ。少し肉もチーズも冷めていたから、ちょちょいと温めて、はぐっ!


「うんっ、旨い!」

「ずっと変わらず美味しいわねぇ」


 炭火で焼かれた肉と焦げたソースの甘苦さ。細かい野菜や肉が入ったマッシュポテトのムチムチ感や熱い炭を当てて焼かれたチーズの香ばしさが、満足度を高めている。

 並の大きさの串だから、あっという間に食べ終えた。一度スープで口を潤してから、最後のエンパナーダをいただいた。


 サクッ じゅわっ むにっ じゅわじゅわっ


 薪窯で焼かれて両面カリッカリのパン生地。間に挟まれたキイロココディリロガーのほぐし身の脂や、炒めたニンニクと玉ねぎの香りと甘さが、少し辛めのパプリカパウダーで引き立っている。そしてやってくるレーズンの強い甘味! 脂と辛みと甘さが重なって、次から次へと口に運んでしまう美味しさだ。


「薄めの生地が良いよなぁ。味もそうだけど、食感の対比が楽しいよ」

「……」

「シオンちゃん?」


 あ、あれ? 美味しくなかった? それとも、魚じゃなくて野菜のエンパナーダが良かった?

 ゆっくり咀嚼しながら、エンパナーダを持つ手を回して観察するシオンちゃん。見開くその目は真剣で、中身というよりは外の、薄く広げ焼かれた生地の方に注目が集まっている。つられて見れば、焼き目以外もどこか赤くて、生地自体にもパプリカパウダーが練り込まれていることに気付いた。


「フェルティくん、エンパナーダって、小さいのもあるわよね?」

「ん? あぁ。冒険者がダンジョンに持ち込んで食べる、携帯食のもあるね」。一枚の生地を折りたたんで、のやつ」

「食べるまで中身がこぼれないやつもある。……これって、揚げても美味しんじゃない?」

「なん、だって……?」


 そ、その発想は無かった! あぁそうだ。粉とか液体だけど、俺たちいつも小麦粉を衣にしてるじゃないか! なら、こういう練った小麦粉の皮だって、揚げていいじゃないか!!!


「シオンちゃん、天才過ぎん……?」

「己の才能の凄まじさに、打ち震えるわ……」


 エンパナーダを持つ手を微かに震わせながら、得意げに笑うシオンちゃん。善は急げ。今日の夕飯は揚げエンパナーダだ!


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