アセルガのクリームスピナッチと揚げエンパナーダ(1)
11月9日、日曜日。今日もシオンちゃんとデートだ!
凍らせ屋の仕事が漁港向けと緊急時の氷だけの日の朝はいつも、マルバ兄さんのカフェ、のんびい屋で朝食を頂いている。毎週少しずつメニューが変わっているモーニング。今日はどんなラインナップなんだろうか。
「フェルティ、シオン、リンド、久しぶりだなー!」
「久し、ぶり……?」
「1週間ぶりって言うなら、そうね?」
「おっと。そうそうー。今週は仕入えとかの時にもー、すれ違わなかったから、ねー」
そう言われれば、そうだな? たまーに不思議な物言いをするのは何だろうか。
なんだか上機嫌なマルバ兄さんが作って持ってきたモーニング。メインの1つの卵料理は、緑色が強かった。
「何の緑だ? ほうれん草?」
「アセルガじゃない? 旬だし、八百屋でも山盛りに売られてたわ」
「シオン、正解ー! 今日の卵料理はー、アセルガのトルティージャ! バゲットに乗せて召し上がえー!」
「「いただきます」」
今日のモーニングプレートは豚ソーセージに千切りのキャベツとニンジンのサラダ、キノコのクリームスープ。バゲットにオレンジ2切れに、たっぷりアセルガのトルティージャ。
斜めに広い断面にトルティージャを乗せて、大口で食らう。
ほわっ むちっ ほくほくっ カリッ
牛乳が多めなのか、ふんわりした玉子生地。アセルガのほうれん草にも似た葉物野菜らしい風味。目立っていなかった厚めのベーコンがむちっとした歯ごたえと塩味で印象的だ。ジャガイモはほくほくしてるし、玉ねぎは優しい甘さを出してるし、食べ応えを増してくれるバゲットはバターと香ばしさが香って、すんごく美味しい!
「色んな食感と風味があって、美味しい!」
「やさしさの中に力強さを感じる! やっぱり、人に作ってもらった料理はいいわねー!」
「フフフー! いつも頑張ってるからねー。これからも2人がー、心も満たされるようにー、料理を頑張るぞー!」
「これからも贔屓に、じゃなかった、頼りにしてるわー!」
「来週までまた、仕事やってやるかー!」
ついつい夫婦2人して、マルバ兄さんの口調につられてしまった。
……久しぶりと口調で気付いたが、マルバ兄さん、また舌が足りるようになってきたな。ラ行がたまにしか詰まんないようになってる。たとえ完全に舌が回るようになっても、店名は変えないでほしいってのは、俺のワガママか。
マルバ兄さんのボリューミーで旨い料理をゆっくり味わっていると、外から馬の足音が聞こえてきた。重なった音を考えると、2頭いるだろうか。
近づいてきた足音はカフェの馬留場に入ってきて、その背から人間が下りる音と声、柵に鎖で馬を繋ぐ手際の良い音が聞こえてくる。
ふう、と一息つく声の後から、「ん?」と気を引く疑問の声が聞こえた。目を向けると、ウチの馬であるリンドを見て首を傾げてる男性が、窓越しに見えた。
「ふーん、鋭い人もいるものね」
「まぁ、馬って普通、魔力そんなに持ってるもんじゃないからな。不思議がる人がいてもおかしくないよ」
リンドに違和感を持った男性は、しかし特にリンドに近づくことも無く、カフェに連れの人と一緒に入ってきた。彼らの馬はリンドと少し間を空けて寄り添って、水を張った桶から水を飲みだした。
アセルガ
スイスチャードのスペイン語名。赤い茎のものが印象的だが、黄色、白色の茎の品種もあり、白い茎のものが今作モデルのスペインでは一般的。和名は不断草。




