新しい魔法の開発とピリピリ種の揚げ鶏(5).
レティセン視点
11月8日、土曜日。今週も領主への報告だ。今回はそこそこ動きがあったから、少し気合いを入れよう。
「さあ、今週も聞こうか。なんだか長くなりそうだと、君の顔にも書いてあるしね」
「……そうですか」
火傷で見れたもんじゃないはずなんだが。この人を筆頭に、エノールミ領の人は本当に気にしないよな。
さっさと報告を始めよう。まずは、リーリオが提案したアレだ。
「昨日はリーリオシェフから提案を受けたフェルティ師匠が、新たな熱属性魔法を開発しました。熱を見る魔法だそうです」
「ほう! なるほど、確かにリーリオシェフは蛇の特徴を薄く引いて、熱を見ることが出来るんだったね。だから揚げ物担当にしていると料理長から聞いているよ。あはは、私が閃きたかったものだねぇ」
リーリオ自身にカミングアウトするつもりが無いなら、領主が閃いても提案しようがないような。まぁ、開示したんだから気にしなくてもいいか。
「昨日の時点では色を付けたり温度の基準を決めたものの、魔力の調節は上手くいっていないようです。それから、弟弟子のナバーが真似て呪文を唱えていましたが、水属性では熱を“見る”というのは困難かもしれません」
「温度計は未だに高いから、欲しい魔法だが。いや、大量生産してもらうにはこの魔法が無い方が良いのかな? いやぁ、欲望は止まらないね」
熱膨張する液体を密閉したガラス管に入れた温度を計るもの、だったか。まだ国は開発できていなくて、輸入に頼っているらしい。
温度を見る魔法は便利だが、道具の方が様々な人が様々な場面の温度が分かるから、広めるなら道具だな。
「報告を続けます。私とナバーはリーリオシェフからの指示で、鶏肉の水分を凍らない温度に冷やす訓練を行いました。これまでは凍らせることに全力だった為に、温度調節には手こずりました。意外と慎重な作業です」
「凍らせてはいけないものもあるからね。それにしても、その領域まで到達すると、ますます熱属性に近いことが出来るね」
「……」
だから、昨日のフェルティは嫉妬が分かりやすかった。己の魔法の利が脅かされていることに焦っていた。それでも。あの人は立派だ。
「最後に。水属性魔法でも、液体ならば油を温められるかもしれないとフェルティ師匠から提案され、実験を行いました。結果、温めることは今の時点では出来ませんでしたが、少々冷やすことは出来ました。この違いは、温めることと冷やすことの熟練度とそのまま合致します」
「なるほどね。君たち弟子は氷を作ることを目標にしているんだ。温めるのはまた違う感覚だろうね。水から始めるべきだと」
「はい」
冷やしてみて分かったが、オリーブオイルはかなり抵抗を受けたからな。温める方なんて魔力がほとんど染み入らなかった。ただでさえ相性が悪いなら、無謀な挑戦だった。地道に段階を踏むしかない。果たして、水を沸騰させるよりも高い温度にできる日は、いつになるんだろうか。
報告を終えて、相棒のフランテブランカに挨拶をして、帰宅した。
昨夜は旨いもんを食えたこと、しっかり睡眠を摂れたことで、魔力は回復しているどころか漲ってさえいる。今日も、師匠に隠れて訓練をしよう。
となると大事なのは訓練法だが。水を温かくするのを目標にする。沸騰させるのはまだ早い。料理には使えないが、意味の無いことはしたくない。となると……。
「足湯、か」
“風まかせの大鳥”として旅をしていた頃、火山地帯の麓で体験したことがある。
金策で討伐採取依頼をこなした帰り。足場の悪い道を汗を拭いながら撤収していると、リーダーが壁から湯が噴き出ている場所を見つけたんだ。
リーダーが囲いを作り、俺が水を足して浸りやすい温度にした。しかし、吹き出る湯の量が少ないせいで、丁度いい温度になってもふくらはぎすら浸れなかった。
とはいえ、移動の最中だからそれで良かった。見張りを立てて、順繰りに浸かっていった。
温かかった。歩き回って疲れた足が優しさに包まれた心地だった。疲れが溶けていき、何より、仲間も皆、湯煙の中で微笑んでいた。
窓を開け、そのそばに置いた洗濯桶に魔法で水を張る。冷やす、凍らせる訓練と同じように、まずは自分の魔力が豊富に含まれた水で。その魔力を介して、水を震わせ、熱を持たせていく訓練だ。
「水よ、震えろ」
「運動したら身体が熱くなる。それと同じだ」とフェルティ師匠が言った。動きを止めて冷たくなるなら、動かせば熱くなるだろう。そうイメージをして、水に手を翳して呪文を唱える。
「……」
中々動かない。いや、動いてはいる。しかし、水が多すぎるのか、熱を得たすぐそばから冷えていく。冷やす経験は豊富だからと横着したのがダメだったか。仕方ない。やり方を変えよう。
桶の中の水を消して、左手の上に水の玉を出す。それに右手を掲げ、同じ呪文を唱える。
「……!」
魔力を少し多めに込めたせいか、水の玉に波が打つ。それが落ち着いてきたと思ったら、薄く、湯気が上がった。
「あっつ……。成功だ」
ささみ肉を柔らかく茹でるのに適してるような、高めの温度。足も茹で上がってしまうから、次の水の玉はもう少し抑えめにしよう。
繰り返し、繰り返し、訓練していく。
魔力を流した水の玉を震わせ、熱を発生させては、湯気が立ち上るそれを洗濯桶の中に入れる。ぼちゃん、ぼちゃん、ぼちゃん。
夢中で訓練をこなし、気付けば目標の量まで到達していた。右手を浸して温度を確かめる。うん、少し熱いが、時間を置けば冷めるから、気にしなくていいだろう。
タオルを用意して、室内用サンダルを脱いで裸足になる。ズボンを捲りあげて、椅子も運び込んだら、もう一度湯加減を見る。
「……まぁ、いいか」
湯気が上がる桶の中の湯はまだ熱いが、耐えられないほどじゃない。横着して、椅子に腰かけてから桶の湯に足を浸けた。
「ぐっ……、はぁ……」
足は冷えていたらしい。温度差でより痛かったが、すぐに心地よくなった。足を入れて水位が上がっても、足首より少し上程までしか浸らない。それでも熱は徐々に全身を巡り、次第に眠気もやって来た。
あの時はモンスターがいつ飛び出てくるか分からなかった。こんなに穏やかな気持ちになれなかった。
「……今頃、アイツらも、あったかい思いしてるといいな」
うつらうつらとぼやける世界で、アイツらの影を見た気がした。
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