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新しい魔法の開発とピリピリ種の揚げ鶏(3)

 訓練も、魔法の名前を考えるのも後回しにして、鶏のピリピリ種揚げの調理を休憩がてら見届けることにする。


 腕を回して疲れを飛ばす弟子2人から、リーリオが作業を引き継いだ。すり潰された黄色と赤のピリピリ種をボウルに入れ、そこに塩を加えてよく混ぜる。その中に鶏肉を入れて、揉みこむようにまぶした。

 今日の肉は安かったらしい蹴破り鶏のもも肉だ。リーリオがピリピリ種をよくまぶせた鶏肉のボウルを弟子2人に渡す。横から俺が稽古の内容を言おうとしたら、リーリオが口を開いた。


「今日、弟子の君たちにやってほしいのは、この肉を冷たくすること。くれぐれも凍らせないでおくれよ? そのあとは10分ほど置いて、味を染み込ませるよ」

「ふーん、楽勝じゃん!」

「く、れ、ぐ、れ、も! 凍りつかせないでおくれよ? 筋繊維が壊れて、溶かした後で水分が出すぎてパッサパサになるからね」

「ゲッ!? き、気を付けまーす……」


 師匠の座、今日はずっとリーリオに取られてんな。てか、凍った食材の扱いを分かってるって、さすがは領主館のシェフと言ったところか。

 この感じだと、鶏肉を冷やすのはナバーがやってくれそうだな。じゃあ、レティセンにはちょっと無茶ぶりしてみるか。質問だけど。


「レティセン。レティセンは油を温められるかどうか、試してみないか?」

「あ、油を、ですか?」


 やっぱり無茶だったか? 考えたことも無かったか。目を丸くさせちまったな。


「あぁ。油も液体だろ? なら魔力を通せば、温められるんじゃないかって。……ん? まず水を温めるところからか。スマン、やっぱり聞かなかったことにしてくれ」

「いえ……。試させてもらっても?」

「おっ、やる気か! 嬉しいよ、すぐ用意する」


 まず魔力が通るかを試すのも大事だもんな。

 今日新しく届いたばかりのオリーブオイルを、揚げ鍋へとぷとぷ注ぐ。透明な緑色で、良い色だ。

 あんまり量が多くてもな……と思い直し、鍋に小指の第一関節くらいの深さに油を張ったら、そこで一度止めた。


「さ、やってみろ。量が多いよりは少ない方が扱いやすいだろうから、ここからな」

「ありがとうございます。……では」


 俺に軽く頭を下げてから、レティセンは揚げ油に手を翳した。少し鍋を睨んでから、瞼を下ろす。その姿に俺は思わず口を開いた。


「あまりにも集中して魔力込めっと、油が燃えるかもしれねぇから、ほどほどにな?」

「さっき失敗してるトコ見たんだから、同じヘマやらかすワケねーじゃん!」

「うっせーぞ憎まれ口!」


 くっそー、あんのクソガキ。俺の失敗を出して揶揄いやがって。シオンちゃんもリーリオも笑うなっての。レティセンも顔を俺からまた逸らしてるしよー。


「まぁでも、火事は怖いからね。慎重に頼むよ、レティセン」

「あぁ。……その前に、今の温度を見てもらってもいいか?」

「それもそうだね! ちょっとでも変化してるか知りたいもんね! うん、緑色!」


 おっ、リーリオの目の瞳孔がちょっとだけ縦に伸びたぞ。へびっぽーい。本当に蛇の血を引いてんだな、てか引けるんだ、人間。


 リーリオの確認が取れたレティセンは、いよいよ魔法を試してみるらしい。油の表面ギリギリに右手を翳し、ガッと指先まで力を込めた。俺の目には見えないが、今レティセンの魔力が油に染み入ってんだな。

 ……さて、俺のお株をまだまだ奪えるか、水属性。


「……“液体よ、細かく震え、温まれ”」


 ついにレティセンが呪文を唱えた。力が入っていた手は油の上から退き、リーリオの温度チェックが入る。判定は……。


「緑色。……変化は無いね」

「やはり、そうか」

「……ダメかぁ」


 安堵と落胆が一度にやって来て、ギリギリ落胆が勝った。俺まだ、人間やれるぞ。

 冷えたボウルを持ったナバーが困ったように笑いながら、レティセンのそばに来た。


「今日は俺たちいいトコ無しっすね、レティセン先輩。新しい魔法の習得が出来ねぇや」

「水と油は相性が悪いのが常。いくら液体だろうと、水属性魔法で油をどうにかするのは、難しいのかもしれないな」

「そういう解釈する???」


 ナバーからの慰めというか、失敗の共感を受けたレティセンは俺の想像の斜め上の持論を展開した。確かに水と油は簡単に混ざらないけどな?


「レティセン、俺はお前に水を冷やす訓練を中心にさせてきた。それなのにいきなり温める魔法を、油でやろうとしたんだ。段階を何段も飛ばしたんだから、いきなり成果は出ないだろ。見限るには早い」

「じゃあ、油を冷やしちゃえばいいんじゃない?」

「おっ! シオンちゃん、どうしてそう思ったの?」

「だって、冷やすことは何度も繰り返し練習してきたわけだし、何より今知りたいのは、油も操れるかどうかでしょう? なら冷やす方面で確かめても良いと思って!」

「まさにそれ! まぁ水から試してほしい気もするけどな!」


 さすがシオンちゃん、天才! そしてレティセンはなぜか狼狽えつつも、言う通りに魔法を試した。その結果は……。


「おお! 下がってるよ! 少しだけど、触ったら分かるくらいには温度が下がってるよ! 成功だね!」

「ええ! すごいっ、水属性での快挙じゃないか!?」

「魔法はイメージとは、よく言ったものねぇ」


 レティセンは、液体油の温度を下げることに成功した。ぐわぁ! 俺の! 熱属性魔法の特異性が! ……はい、嘆くのはここまで。ちゃんと弟子の成長を心から祝ってやらねぇとな。


「すげぇ……! 俺にも出来るかな!?」

「天才なら出来るんじゃねぇか? それにしても、コレはあのカス共にもまだ出来ねぇ芸当だろ! よくやってくれたレティセン!」

「ハッ! そうじゃん! 教えてレティセン先輩! ちょっとでもカス共を出し抜きたい!」

「……ほ、本当に嫌いなんだな」

「「もう顔も見たくねぇな!」」


 うっかりアイツらの話題を出しちまった。果たしてこれは心からの称賛だろうか。まぁ、いいか。レティセンが俺からの嫉妬を心配しなくて済むなら。複雑では、あるけど。


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