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新しい魔法の開発とピリピリ種の揚げ鶏(1)

 11月7日、金曜日。月初めの金曜日は新しいオリーブオイルが貰え、揚げ物の可能性を広げてくれる教師役のリーリオを迎える日。

 領主館から自宅へ送迎してもらう馬車の座席で、リーリオが想像もしてなかった提案をしてきた。


「フェルティって、魔法で熱を見たりはしないのかい?」

「熱を見るって何」


 不意打ち過ぎて、遅れて心臓がどきどきしてきた。熱を見るって何。本当に何。


「み、見ようと考えたことも無いが。どうしてその発想が? シェフなら欲しくなる魔法なのか?」

「欲しい人もいるし、私はもう持ってるようなもんかな」

「えっ、リーリオお前、熱属性だったのか!?」


 ならとっとと俺の弟子になれよって目で見たら、リーリオは苦笑して首を横に振った。


「そういうんじゃないさ。私のは、身体能力みたいなもんなんだ」

「身体、能力?」


 歩くとか、泳ぐとか、剣を振るうとか、そういう事? その中の1つで熱を見るって? ええ?

 狼狽える俺と御者のレティセンを笑うリーリオが、一息ついてから「実は」と切り出した。


「私、おじいちゃんが大蛇でね」

「へっ!?」

「……ラミアでは、なく?」

「それだとおばあちゃんになるね。じゃなくて、祀られてる大蛇だよ。お喋りできるもんだから、恋しちゃった若かりし頃のおばあちゃんが口説き落として、って感じらしいよ」

「す、凄い話を聞いた……」

「両親がA級冒険者って話とはどっこいどっこいじゃないか?」

「アイツら一応人間だから……」


 人間、だよな? あれ、アイツらって何か獣人の血を引いてたりする? それも知らないくらいにはアイツらに興味なかったな、今まで。


「話を戻すよ。でね、お父さんみたいにうろことかの外見的特徴は受け継がなかったんだけど、目だけは貰えたんだ」


 「正確には目にある器官じゃないんだけど」と付けて、リーリオは話を続ける。


「獲物の体温を見つけて捕らえる為の目でね。私はうっすら見えるその目で料理の温度管理をしているんだ。湯煎の温度やパンの発酵、肉の中心温度とか、揚げ油の温度とか」

「ほう、いいなそりゃ」


 いつ適温になるか、油鍋の前でずっと待機しなくていいのは助かるな。それから、オーブンの鉄板に怯えずに済むのも最高だ。


「いいだろう? だからフェルティも手に入れられるなら持った方が良いと思ってね」

「発想をくれて感謝するよ。最近、自分の成長には伸び悩んでいたからな」

「それは良かった。水属性も氷を作れるようになった今、こういうところで熱属性らしさを見せつけないとね」


 なるほど、確かに。氷が作れるならお湯も作れる。俺の専売特許が薄れちまうからな。別に熱属性は水じゃなくても温められるし冷やせるけど。


「ありがたい話だ。それはそうと、こんな話をするってことは、今日は温度管理が大事な揚げ物をするってことでいいのか?」

「察しが良いね。今回は、かなりの低温で一度揚げるよ」

「えっ、それ大丈夫なのか?」

「高温で2度揚げするから大丈夫だよ」


 そうなのか。まあ、教えてくれるリーリオが言うなら、信じるしかないよな。……正直、中に油が染みて、ぶよぶよになるんじゃないかと不安になるが。

 その後は、リーリオの言う熱を見る目で見た世界の話を聞きながら、俺自身ではどうするべきかを考えていた。



 帰ってきた俺たちはただいまのあいさつもそこそこに、エプロンを身に着けてキッチンに集合した。メンバーはいつもの5人。俺とシオンちゃん、リーリオ、レティセンとナバーだ。


「それで、リーリオ先生。今回はどんな揚げ物を教えてくれるんだ?」

「くれるのかしら?」

「揃って腕組みしてるの、可愛いな君ら」


 付き合いの長い夫婦だからな。ふとした瞬間も行動が一致するもんだ。はっはっは!

 話が進まないから、とっとと説明してもらおう。かなりの低温で揚げる揚げ物を!


「今日教える揚げ物は、鶏のピリピリ種揚げだよ!」

「おお、ちょっと辛そうだな」

「ピリッとしそうね」

「マヨネーズとめっちゃ合いそう!」

「……ビールが欲しくなりそうだ」


 好きに感想を言う俺たちの目の前で、リーリオは自分のバスケットから小さめの瓶をいくつか取り出す。たっぷり中身の入ったそれは、丸のまま乾燥した黄色ピリピリ種と赤ピリピリ種、塩だった。

 ピリピリ種は言っちゃえば胡椒みたいなもん。人間は美味しい、スパイシーだと思う程度の草と種だが、モンスター、特に虫系にとっては胡椒より嫌な臭いらしい。だから防虫剤として使われている側面もある。

 瓶に入ってる2種類は、どちらも別種で黄色の方がキリッとした辛さでスパイシー。赤の方は花っぽい感じでマイルドな刺激だ。


「ざっと作り方を説明するよ。まずはピリピリ種たちを細かく潰す。挽いたピリピリ種と塩を合わせて、室温の鶏肉と合わせるよ。その肉は凍らない程度に冷やす。揚げた時に肉汁が出ないようにするためだ」


 今日の稽古はここかな。凍らない程度に冷やす訓練か。


「衣は粉なんだけど、強力粉を水で溶いたバッター液にくぐらせて、それから強力粉をしっかりまぶして、余計な粉をはたいてから揚げていくよ。最初の揚げ温度はかなり低め。水なら沸騰する温度だけど、衣を入れても直ぐには浮き上がってこないくらいの温度だよ。フェルティ、ちょっと訓練してみようか」

「指導者がいるのは助かるな」

「だろう? で、コレは2度揚げする。2度揚げする時の温度はいつも通り。衣を入れて中くらいまで落ちるけど直ぐに浮き上がってくる温度だ。良い色に揚がったら、完成だよ」

「シンプルっちゃシンプルな段取りね」


 言われてみれば。鶏肉をピリピリ種まみれにして冷やして、水溶き小麦粉を付けた後に小麦粉をまぶす。かなり低めの温度で1度揚げて、2度揚げはいつもの温度で揚げる。

 言葉だけで見れば6工程しかない。まあでも、俺は新しい魔法に挑戦してみるから、今からちょっとワクワクしてる。


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