表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/102

わだかまりを溶かすシャーベット(3).

シオン視点

 「わだかまりは、なくなったみたいね」


 中央の作業台でシャーベット作りを任せたナバーとレティセンが、明るい声でわちゃわちゃしているのを横目に見て、胸を撫で下ろした。そんな私の独り言を聞いて、切ったキャベツを皿に盛り付け終えたフェルティくんが合点がいったように「あぁ」って声を漏らした。


「それで急にシャーベットが食べたいって言いだしたのか。2人で作業させるために」

「そうなの。ごめんね、昨日のお詫びとお仕置きで、今日は稽古つけないって言ってたのに」

「いいよ、気まずいほうが困るし。シオンちゃんが美味しい思いをするのが一番だ」

「んもう! フェルティくんったら私中心なんだからっ!」


 それでこそフェルティくんなんだけどね!


 こんがりと揚げ上がったトンカツを、ザクザクと6切れに切って、野菜たちが盛り付けられた皿に乗せる。それをあと3回繰り返したら、完成!


「さ、夕食にしましょう!」

「やっとだー! ずっと良い匂いしてて、もう腹が痛いくらい空いてるぜー!」


 心配事が解消されたものね。ナバーのぺっこぺこなお腹を慰めるためにも、さっさと持っていきましょう。


 今日の夕食は、豚脂で2度揚げしたトンカツ。それに付け合わせるのは千切りキャベツと蒸したカボチャとニンジン。買ってきたチャバタに、それらにかけるソースは甘くしてでんぷん粉でとろみをつけたスモフ(ウスター)ソース。ナバーとレティセンが作ってくれたデザートのシャーベットは、メインを食べた後に保冷庫から取り出す予定よ。


 いつも通りカウンターに色々並べて、いよいよ鳴りだしたナバーの腹の虫に急かされて、食前のあいさつをした。


「いただきます」

「いっただっきまーす!」


 誰よりも元気に食材に感謝したナバーは、左手に持ったフォークを真っ先にトンカツにザクッと突き立てた。


 ガブッザクッ! サクッサクッサクッ……


「んー! んめー!!」


 とろけた表情の口から聞こえてくる軽やかな咀嚼音。顔全体で味わってるんだろうね。広がった鼻から香りが通り抜けたのが目に見えるようだわ。


「今日は昨日のお詫びを兼ねて、最近見つけたとっても美味しい揚げ物にしたの。豚肉を、豚の脂で、しかも2度揚げをしたからコクが段違いでしょ!」

「ん! コクが何かよく分かってねぇけど、多分そう!」

「なんだそりゃ」


 あーでも確かに、コクってなんだろ。笑っちゃったけど雰囲気しか私も掴めてないかも。


 もう2切れ目にソースをかけだすナバーの横で、レティセンもカツを1口サイズに切り分けて食べた。

 こちらもザクザクッと固めの咀嚼音を立てて、表情を柔らかくした。


「食感が強くなったことで食べ応え、満足度も増している。2度揚げ効果か、豚で豚で揚げたからか。中毒性があってたまらないな」

「なんだ、もっと大騒ぎしてくれると思ったのに」

「……乾物だったが、ドラゴン肉の衝撃を知っているからな」

「んだよ、やっぱりレティセンは選ばれた側かー」

「えっ!? 何ナニ選ばれた側って! かっちょいい!」


 あら、そういう話に飛ぶとはね。

 身を乗り出すくらい興味津々なナバーと、目をきょろきょろさせて動揺が現れすぎているレティセンの対比が愉快ね。


「大層だけど、大層じゃねぇ話だよ。単に、ドラゴン肉が食える身体か食えない身体かってだけ。俺がまだあのカス野郎どもと旅してた子供の頃、一度だけ食ったことがあんだよ」

「!?」

「ありゃあ確かに、目玉がぶっ飛ぶくらい旨かったけどよぉ」

「おぉー!」


 フェルティくんの語りにレティセンは目を見開いて、ナバーは期待で笑顔を浮かばせている。過去に思いを馳せるフェルティくんは、うんざりって顔してる。


「後にも先にも味わった事の無い腹痛に襲われて、トイレから1日出れなかった。だからオススメはしねぇぞ。絶対」

「毒じゃん」

「やっぱりそう思うわよね? 毒キノコで聞く話よね」


 食事中に聞くには嫌な体験談を聞いて、ナバーのドラゴン肉への熱は一気に冷めちゃったみたい。


「……事実、ドラゴンの素材は薬にすることが多い。過ぎれば毒であり、……最大保有魔力値が足りない人間では耐えられないものだ」

「ガキに与えるもんじゃねぇよな」


 あらら、多分せっかくレティセンが言葉を選んでくれたのに。

 チャバタの切り込みにキャベツとカツを挟んでソースをかけたサンドイッチに齧り付いて、フェルティくんは自分のご機嫌を取った。


「レティセンは、どんな時にドラゴン肉を口にしたの?」

「やっぱ討伐したんすか!? どんなドラゴン!?」


 あ、ナバー復活した。好きよね、そういう冒険譚。


「……口にしたのは、魔力が底をついたとき。ポーションのように回復薬としてだった。たしか、風属性のドラゴンで、干し肉になっていたのをスープにして飲んだ。乾物なら液体のポーションより軽く、携帯性も高いからと、お試しで購入していた。効果はてきめん。味も極上。ステーキに比べて効果も味も落ちていただろうが、それが消耗していた身体に丁度良かった。……ドラゴンの相手は、他のA級と組んで後方支援しかしたことないな」

「すげー! 対面したことあるんだー!」

「凄いわねぇ」

「ヴィシタンテ・エノールミと比べて、どうなんだ?」

「……ギリギリ、ドラゴンの方が恐ろしかったな」

「お世辞入ってんなぁ」


 ヴィシタンテの方は領主っていう安心材料があるからね。あ、でも、レティセンは指導者側に居たから、その緊張もあったのかな。

 というか、後方支援でもドラゴンを相手に戦ったって、レティセンも所属パーティも、明らかにC級の範疇を超えているわよね。



 夕食後は、お待ちかねのシャーベット! ナバーとレティセンが魔法も駆使して、ぱっぱと作ってくれたメンブリーのシャーベット。

 高さのあるガラスの器に、握り拳くらいのボリュームで盛り付けられたシャーベット。ピンクがかったオレンジ色のシャリシャリした氷にスプーンを入れると、シャクッと、軽い感触が手に伝わってくる。


「おいしそう! いただきます!」


 口にすれば期待通りの甘さと酸味! 口の中で溶けて香りが立って、爽やかさが鼻から抜けていく! あー美味し! ごちそうさま!


チャバタ

イタリア発祥の食事用パン。幅広で平たい形をしている。生ハムやチーズを挟んだホットサンド、パニーニなどに使用されている。水分量が多い生地のため、気泡が大きく、もちもちしているのが特徴。


今エピソードを最後までご覧いただき、ありがとうございました!

『面白かった』と思っていただけましたら、お気に入り登録、評価、いいねをお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ