わだかまりを溶かすシャーベット(2)
ナバー視点
「これから作んのは、メンブリーのシャーベット! まずはコンポートを刻んで潰して、ペースト状にする。それをコンポートの水分と混ぜて、レモン汁と砂糖を味を見ながら加えて、金属バットに入れる。軽く凍らせてからフォークで混ぜてを、3回くらい繰り返して、滑らかにしたら、完成だって!」
「分かった。ペーストにするのは俺がやるから、先に刻むのを頼めるか?」
「了解!」
シオン姉ちゃんが敷いてくれた道なりに、シャーベットの作り方を説明した。作業の話なら、普通に話せるな。……タイミングを見て、謝んないと。
メンブリーのコンポートを瓶からまな板に引き出して、果肉を刻んでいく。刻んだ果肉は木製のすり鉢に移した。
すり潰す担当はレティセン先輩だ。頭ならすっぽり覆えそうな大きさのすり鉢は、最近マヨネーズ作りにハマってるシオン姉ちゃんがマヨネーズ以外用にって新調したものだって。今日はマヨネーズ、出てこないらしいけど。
瓶の蓋を開けてもらった時から思ってたけど、やっぱりメンブリーって良い香りすんね。甘くて、こう、ほうじゅんっていうの? それが刻むたび、潰れるたびに広がって、心が落ち着くな。
全部刻めたけど、3分の2くらいはまな板の上。レティセン先輩はすり鉢で果肉を潰しているけど、とろとろになった果肉の中を塊が泳いでいて、すりこぎから上手く逃げている。
「いったん、潰せたやつはバットに移す?」
「そうだな。ズレないようにバットを抑えててくれるか?」
「はーい」
軽いもんなー。勢いで回ったりするかもしれない。
注ぎ口からピューレ状になったメンブリーをとろとろと移して、減った分まな板から刻んだ果肉を追加して、また潰していった。また大変になるから、もっと細かく刻もう。包丁を握り直したところで、シオン姉ちゃんがこっちに声かけてきた。
「ナバー! レモン2個を6か8等分に切ってくれるー? そのうち2切れはシャーベットに使ってー」
「分かったー」
揚げ物にもシャーベットにも使えるレモンって、万能だよなぁ。よぉし、上手く6等分に切れたぜ! 八百屋の次男をナメんなよ!
俺が包丁で刻んだおかげもあって、ペーストに出来たメンブリーの果肉。全部バットに移したら、瓶に残ってたコンポートの水分も移して、レモン2切れを搾る。皮を下にすると香りがより搾れるから、ちゃんとやってっと。
それをフォークで混ぜるのは、レティセン先輩の仕事。カシャカシャ音を立てながら隅々までレモン汁を行き渡らせたら、フォークから左手の甲にピューレを垂らして舐めて、味見した。プロっぽーい!
口を動かして小さく頷いたレティセン先輩が、すり鉢なんかを水桶に浸けてきた俺を手招きした。
「ナバー、お前も味見してみてくれ」
「うん! 俺も手の甲で舐める! 乗っけて!」
「分かった。ずらすなよ」
そういえば焼き引き攣ってる顔で微笑んで、レティセン先輩は俺が差し出した左手の甲にピューレを垂らしてくれた。ピンクがかったオレンジ色でとろとろのメンブリー。口で覆ってから舌先で舐め取ると、砂糖と素材の甘みと、酸味を感じる。香りは味以上に甘くて爽やかって感じ。良い感じ!
「俺はこの味好き!」
「そうか。……なら、凍らせる段階に移ろう」
「はい!」
レティセン先輩がチラ見したシオン姉ちゃんは、二度揚げしてるトンカツの揚げ具合を見極めるのに忙しそうだから、俺たちに任せてもらおう。
「“水よ、冷えろ”」
メンブリーのピューレに手を翳して呪文を唱え、冷やす。いきなり凍らせるより、段階を踏んで魔法を重ね掛けした方が魔力消費が軽いんだよな。よぉし、もういっちょ!
「“水よ、凍れ”」
シャンッ、と音が鳴りそうな勢いでピューレが凍りつく。だけどあまり魔力を込めなかったのもあって、レティセン先輩がフォークを突き立てれば簡単にパキパキと割れていく。
「……ただの水を凍らせるのと比べて、どうだった?」
「んー? オレンジとか凍らせるのと変わんねぇっすね」
「あぁ、そうか。あれも甘かったな」
魔法の調子の話をしながらも、レティセン先輩は凍らせたピューレをフォークで崩して空気を含ませるように混ぜる。俺は均した物をまた凍らせて、今度は俺がフォークでピューレをかき混ぜた。結構硬いもんだな。シャリシャリして楽しい。
もう一回、凍らせてからかき混ぜるってのを繰り返したら、メンブリーのシャーベットの出来上がり!
あとはガラスの器に盛り付けてー……あっ!? 忘れてた! 作りながら謝るつもりが、あっという間に出来ちゃったからタイミングが無かった! どっど、どうしよっ!? 小賢しいことしてないで、さっさと謝っとけば……!
食器棚からガラスの器を4つ取ってきたレティセン先輩が、苦笑した音がした。
「ナバー、昨日のことを気にしてるのか?」
「あ……。はい……」
先に言われちゃった……。いや! ここから挽回を! せーのっ!
「昨日は、ごめんなさい。アイツらが嫌いすぎて、どんな悪口がアイツらに効くかしか考えてなくて……。言わなくていい事、言っちまった……。ごめんなさい」
「ああ。本当の事だから気にしなくて良かったんだが、謝罪は受け取っておく」
「そ、そんなこと言ったって……!」
俺、あの後、顔見知りの冒険者から聞いたぞ!
「レティセン先輩の居た『風まかせの大鳥』って、昇格試験を受けないだけで、B級冒険者パーティーの実力があったんだろ? 試験を受けない理由は、敵討ちに忙しいからで、その敵は討伐難易度S級だったって……。だから、そっちにかかりっきりなのも当然っていうか! そもそもレティセン先輩は風魔法の方が得意で、水はそうでもなかったって話だったし!」
「ありがとうな。正直、その意識だから時期になっても戻ってこなかった部分がある」
「だ、だよな……」
「だから、情けないんだ」
な、何が? どこが?
「モンスターを支えるだけの魔法が使えなくても、解体技術が甘くても、……一発で済むと分かっていても、そこに集まり、対処に動くことに意義がある。それを軽く見ていた」
そう言うとレティセン先輩は目を閉じた。……本人が言うなら、そうなんだろうけど……。何とか庇おうと口を開いたところで、レティセン先輩が顔を上げる。
「まぁ、そうは言うが。俺たちが追っていた火吹き鳥は、神出鬼没で危険なモンスター。討伐しないと被害者は増え続けていたわけだから、ここに戻らなかった選択は、間違っていないと信じている」
「そ、そうっすよね!」
「ああ。だから、気にしないでくれ。俺も火吹き鳥討伐を誇りに思っているから」
「うん!」
よかったー! 俺の悪口で気負ってないって感じ! これでもう、仲なおりだな!




