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罪の告白とカス(9).

インシネラ視点

 領主街から出て、山型ダンジョンのある山林を越えて。エノールミ領内の小さな村に戻ってきた。小さいといっても、ダンジョンの近くにあるから必要な施設は揃っている。

 そのうちの1つ、村の中ではグレードの高い宿屋に部屋を取っている。今日は俺ら以外に宿泊客はいないらしい。これは好機だと、主人に許可を取って、食堂でお土産を広げさせてもらうことにした。酒も合うだろうから、ビール瓶も注文して、夕食前の控えめな酒盛りを始めた。


 紙袋を破いて広げて、さらに広がった豚の甘さを感じる香ばしい香りが鼻から脳を直撃する。中身は、親指サイズのカラッカラな茶色い脂身。皮付きなんだな。


「向こうで嗅いだ時もそうだったけど、香りがもう美味しいよなぁ」

「これで一杯呑めるもんねぇ」

「一瓶開けるのが精いっぱいのくせに」

「気分の話だって」


 ドラゴン討伐するような人間だからって酒を勧められることは多いけど、楽しく飲めるのは大瓶1本くらいまで。それ以上は酔いが回りすぎて、無意識に異常状態解除魔法を発動させてしまう。金が多めにかかる味付きの水なんて、価値が感じられない。

 さて、ビール瓶の栓を抜いて、グラスに注ぐ。フルイルに冷やしてもらって、互いにグラスを掲げて。


「立派になったフェルティに、乾杯」

「シオンとの幸せと平和を祈って、乾杯」


 グラスを傾けて、グッと呑む。ビールが通った喉から食道にかけてカーッと、熱くなるのが分かる。あー苦い、うまいっ!

 よし、いよいよ食べてみよう。香ばしい香りに裏打ちされる、前面焦げ茶色の肉片を。


「脂カスって言ってたな。とんでもない名前だと思ったが、このカラッカラさはカスって名付けるのも納得だな」

「そうだねー。粉っぽいのかなって思ってたけど、結構塊で残るものなんだね。お菓子みたいで美味しそう」


 つまむと、水分と油分が抜けていてとても軽く、カリカリしている。よく見ると、皮と脂と薄い肉の三層構造になってるんだな。

 指先でくるくる回して観察してから、口の中に放って、嚙み砕いた。


 カリッコリッ むにっ じゅわっじゅわっ クーンッ!


 あぁ、皮の弾力と、軽やかな噛み応え。暴力的なほどに旨い香りが鼻から抜け、噛むたびに滲み出る油の旨さと塩が、どこかナッツを彷彿とさせる。うん、美味しいじゃないか。おつまみに最適だ。


「うーん! 脳にガツンと訴えかけてくる味ー。人によっては食べる手が止まらないやつだー」

「ふっ、だな。ドラゴン肉の味を知ってなかったら、中毒になってたかもしれん」


 その肉は、他のどんな肉よりも面白い。

 火炎系竜は自分の火や熱で焼けないようにか、表面すら中々焼き目がつかない。氷雪系竜だと逆に、加熱は水が沸騰するよりずっと低い温度じゃないと赤身すら溶けて無くなったり。

 この間狩った地竜だと、ひたすら硬くて、塩味と地味深い味がした。一点集中させた水刃をゆっくり動かして切り出した後、丸ごと長時間煮込んで、ホロホロにほどけたシチューを食べたな。


 そのどれもが、脳を殴りつけるような、身体に雷が落ちたような旨味の爆発力がある。また、魔力も常人の身には過多なほど込められていて、お腹を壊してしまうからフェルティには食べさせたことは1度しかない。トイレから一切出てこない幼い子供の姿は、可哀相だった……。

 だが、この脂カスならフェルティも安心して楽しめるだろう。よかったなぁ。


「ドラゴン肉といえば、今回もデメトリオ(領主)が喜んでくれて良かったね。お裾分けのしがいがあるね」

「そうだな。今回は少し遅れたが、“ヴィシタンテ・エノールミ”を倒した後にはドラゴン肉が一番だからな」


 5年も間が空くから結果は変わらないが、内包魔力が中々抜けないドラゴン肉は、魔法使い・魔術師なんかの魔法を扱う存在にとって薬みたいなもんだ。強すぎるから人は選ぶが、デメトリオは選ばれた側の人間だから問題ない。

 毎回口止め料を渡されそうになるが、普通に貰ってくれてればいいのに。フェルティが世話になってるし、ヴィシタンテを一撃で滅して、結果フェルティを守ってくれているんだから。俺たちだって、あんな凄まじい雷は落とせないんだぞ。

 てか、ここにしか卸していないことをバレたらまずいのは俺たちの方。うるさい勧誘が増えるのは目に見えている。フェルティを人質に取らない人柄ってのが分かってたから、この領地の人に預けるって決めたんだ。……やり方は、まずかったみたいだが。


「俺たちはアレをシチューにしたが、アイツらはどんな料理にするんだろうな」

「料理といえば。この脂カスって、カスって言うくらいだから、取り出したものがメインなんだよね。それって豚脂だよね……それで何を作るのかな。揚げ物は……まさかね」

「はっはっはっ、揚げ油にコクがありすぎて、並の食材じゃ負けちゃうよ」


 俺たちを引き入れようって言う貴族たちのおもてなしで何度か食べたことがあるけど、バターを使った揚げ物(揚げ焼き?)は味が強すぎるのに魔力が回復しないのが許せなかったんだよなぁ。俺の好みじゃないだけなんだけどさ。


 カリカリ、ぽりぽり。おしゃべりしながら、ビールで口の中の油を流しながら、脂カスをつまむ。

 そのうち、頼んでいた夕食を初老のご主人がワゴンに乗せて持ってきてくれた。羽足鹿のロースト、アルカチョファとパプリカとポロネギの蒸し野菜サラダのセットに、籠に山盛りのクッペ。

 食べ応えのある食事の後には大きな浴槽のある風呂が待っている。温泉ダンジョンにアタックしたのをきっかけに入浴が好きになったからね。その欲を満たしてくれるここは、良い宿だ。




 一方そのころ、フェルティ・シオン宅では。


「うっめぇええええっ!!! 油をオリーブオイルから豚脂にしただけなのに、こんなっ、こんな香ばしい香りとコクがっ……! でんぷん粉でとろみをつけた甘いソースがよく合ってるのも最高!!」

「フェルティくん! フォカッチャにレタスとトマトとマヨマスタードを合わせて挟んで食べるのも美味しいよ! 野菜のさっぱり感が相殺してくれるの!」

「なんて素晴らしいアイディア! あぁ、フォカッチャもオリーブオイルまみれのパンなのに、わけわかんない爽やかさを感じる! 今日だけは夢を見させてくれ!」

「ダイエットは明日からね!」


 インシネラとフルイルの襲来によるストレスを解消するかのように、カツサンドを大口で齧り付いていた。


どこから漏れてもいけないから、ドラゴン肉納品の話は息子であるフェルティにすら伏せられている。そして、食べられるのは領主のデメトリオだけなので、執事と料理長のみが他で知っている。

なので、ほかの使用人たちにはインシネラとフルイルは『今更何をしに来たんだろう』と不思議がられている。

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